82 新年からの難関
盆暮れ正月。
こんな響きは大好きである。
だって。
「はわー、こたつしあわせー」
家でゴロゴロ寝正月なんて夢のような時だから。
「まどか、初詣お友達と行くんでしょ。さっさと起きなさい」
「もうちょっとだけ。あと五分ー」
「はあ。こたつ片付けるわよ」
「出ます」
この冬場にこたつさんがいなくなるなんて私には珍事、ではなく大事件。
でもうちのお母さんはこたつが嫌いだしお父さんはあんまりいないから本当にやられかねないと思って、私はあわてて飛び出した。
「うーっ、寒い」
「あんた、初詣行くならお守り買ってきて。車につける交通安全の奴がボロボロだから」
「はーい」
なんとも締まらない新年である。
しかし寒さも、泉君の顔を見ればたちどころに吹っ飛ぶわけで。
「あけましておめでとう氷南さん。今年もよろしく」
「よ、よろしく。ええと、お守り買いに行こうと思うんだけどどこかわかる?」
「それなら向こうだよ。初詣の帰りに寄ろう」
今年も変わらず彼が隣にいることが嬉しくて、人が大勢いるにもかかわらず彼にずっと引っ付いていた。
今日は二人で初詣デートをしてからお買い物して、その後で私の部屋で……ということになっているのだけど、偶然香ちゃんと羽田君の姿を発見した。
離れていたので声はかけなかったし話も聞こえてこなかったけど、二人ともとても仲睦まじく見えた。
クリスマスパーティの時は、特にあれから何もなかったというか二人が素直になれたところでわいわいがやがや、最後はあいちゃんがノンアルなのに酔ったみたいに泣き出して「私も彼氏ほしー」と大声で嘆いていたことが記憶に新しい。
そんなこんなを経て二人もああやって素直になれたわけで、亜美さんのこととか色々気になることはあったものの結果的にはよかったのかなと思う。
「仲良さそうだね」
「うん、楽しそう」
「あっ、あっちに原さんがいるよ」
「え、どこどこ? ほんとだ、でも一緒にいるのって」
あいちゃんが一緒にいるのは知らない男の子。
でも、仲良く話をしているのでそっちにも声をかけないように目をそらしたが、私はすぐに見つかってしまった。
「ありゃ、まどかじゃんあけおめ。新年からデートとはいいねえ」
「あ、あいちゃんあけおめ。その人は?」
「ん、ああ友達だよ。中学の同級生」
「はじめまして。まどかさんの話、いつもこいつから訊いてます。かわいいすね」
「え、いやあ、えへへ」
可愛いと褒められるのは誰に言われても嬉しいのだけど、知らない人にデレデレするのはよくないと、すぐにシャキッと顔をしめる。
「そ、それでこれからどこかに行くの?」
「まあ、飯くらいかな。まどかは?」
「うん、これからデート」
「いいねえ。じゃあまた。冬休み中に一回買い物いこ」
「いこいこ」
ばいばいと二人に手を振って私は泉君とお守りを買いに。
しかしどこも行列でぐったり。
用を済ますとその足でファミレスへ。
「つかれたよー」
「あはは、正月はどこもいっぱいだね」
「あうー、足痛い」
「じゃあ食べたらかえろっか。今日はゆっくりゲームでもしよう」
もうすっかり自堕落な私を泉君に晒しているけど、泉君はいつも優しい。
不思議なくらい優しくて、優しすぎて大丈夫なのかと不安に思う時もあったけど、それが泉君にとっては普通らしいのだ。
「氷南さん、そういえば初詣で何お願いしたの?」
「え、ひ、秘密……泉君は?」
「俺は、ずっとこのまま一緒にいたいですって。あはは、おかしいかな」
「……嬉しい」
私のお願いは、やっぱり言えない。
泉君と、け、けけけ、結婚したいなんて……い、言えないー!
「にゃー!」
「氷南さん?」
「あ、ごめんなさい」
「あはは、それより早く帰ろう」
「うん」
なんとも平凡な元日だった。
でも、その平凡が一番幸せ!
♡
平凡……が一番の幸せ。
だからその幸せを死守しなければ。
「えー、期末試験で赤点が三つ以上ある人は留年です。しっかり勉強してください」
新学期初日、突然先生が言った。
ちなみに私は一学期も二学期も赤点三つ。
これはやばい。
「ど、どうしよう」
「落ち着いて、大丈夫だよ今から勉強したら」
「はううう」
私がこの日常を守る最後の難関。
そう、期末テストの時期がやってきたのである。
私にとってはゲームのラスボス以上に厄介。
それにやり直しがきかないし、攻略法もない。
だから泉君が勉強を教えてくれるといっても不安しかないわけで。
「も、もし留年したらどしよ」
「大丈夫だって。でも、そうなったら氷南さんと同じクラスになる可能性がなくなるから嫌だな」
「が、頑張る!」
こ、こんなところで人生つまづくような女だと、多分泉君だって愛想をつかしてしまう。
やだ、ふられたくない!
というわけで新学期からは勉強漬けの日々となるのだけど、やっぱり勉強ができないのにはそれなりに原因というものがあるようです。
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