81 メリークリスマス

「きたきた。まどか、泉君、ちょっと早いけどメリークリスマス」


 夕方にあいちゃんの家を訪れると、玄関先でサンタの帽子をかぶったあいちゃんが出迎えてくれた。


 すっかりクリスマス気分なのか、いつにも増してテンションが高い彼女はちょっと新鮮だ。


「羽田君たちはまだ?」

「うん、亜美はもう来てるよ。それに、まどかの好きなものもたくさん用意してるからじゃんじゃん食べてね」

「わーい!泉君、行こ」

「うん、お邪魔します」


 あいちゃんのおうちは普通の一軒家。

 入ってすぐ左のリビングに案内されると、クリスマスツリーやサンタの人形なんかがあったのは、やっぱり意外。


「あいちゃん、クリスマス好きなんだ」

「だってさ、なんかこういう日はパーッとやった方が人生楽しいじゃん。私は楽しいものは楽しいって素直にそう思うようにしてるの」


 でもクリスマスに彼氏いたことないんだけどねー、と自虐交じりに笑うあいちゃんは、私たちを席に案内して亜美さんと一緒に料理を運んできてくれた。


「うわー、おいしそー」

「じゃんじゃん食べてね。でも、みんな揃うまでお預けよ」

「わ、わかってるもん」

「そのわりにもう口がもぐもぐしてるのはなんでかなあ。ポテトつまみ食いしたでしょあんた」

「ひっ」

 

 ご馳走を前にお預けを喰らってしまった私は、早く香ちゃんたちが来ないかとお腹をぐるぐる鳴らしながら待つことに。


 そして。


「お邪魔しまーす」


 先にやってきたのは羽田君。

 あいちゃんにこっそりと、昨日買っていた香ちゃん用のケーキを渡しているのが見えて、私は思わずニヤけてしまう。


「おつかれ泉。早いな」

「ああ。香月さんは?」

「知らない。もう来るんじゃね?」

「冷たいなあ。一緒に来ればいいだろ」

「あんな奴知らん。それよりあと十分待ってこなかったら食おうぜ」


 あいちゃんと亜美さんは「待て待て」と言っていたが、私のお腹が羽田君に賛同するように「ぐー」とお腹を鳴らしたことでジエンド。


 先にみんなでパーティを始めることになった。


「じゃあ、香はあとで来るとして……乾杯!」

「乾杯!」


 ジュースをで乾杯して、早速私はチキンを頬張る。

 

「うまーい!しあわせー」

「まどかってほんと食いしん坊よね。泉君、太らないように監視しててね」

「でも、氷南さんは十分細いから。ね」

「うん、がんばりゅ」


 食べながら話すなと、あいちゃんにお叱りをうけながらも私はどんどんご馳走を胃に放り込んでいく。


 そしてクリスマスとあって、香ちゃんがきたらプレゼント交換もあるそうで。

 ちなみに私は泉君に勧めたい本を買ってきたのだけど、ちゃんと泉君の元に届くか心配である。


「にしても香遅いわね。羽ちゃん、連絡して」

「わかったよ。ほんと手のかかるやつだなあいつは」


 ブツブツ文句を言いながらも香ちゃんに連絡する羽田君は多分ツンデレさんなんだろう。

 向かってるけど場所が不安だと香ちゃんから返事が来たそうで、羽田くんは電話をかけながら迎えに出ていった。


「はあ、全く手のかかる二人だね」

「ほんとよ。やっぱ羽ちゃんフッて正解だわ。香とお似合いよ」


 おどける亜美さんの言葉にみんながドッと笑う。

 私は必死にポテトを食べていた。


「そういえばあいちゃん、おうちの人は?」

「二人とも仕事。今日も帰ってこないんじゃないかな」

「忙しいんだ……」

「いいのいいの。みんながいるから楽しいし」

「うん、そうだね」


 なんて会話をしていると羽田君が香ちゃんを連れて戻ってきた。


「お、やっときたのね。香、遅い」

「うるさいわねー、クリスマスくらいがみがみ言うな」


 あいちゃんと香ちゃんは相変わらずだ。

 でも、席について私に「遅れてごめんね」なんて言う彼女は、やっぱり以前とは変わったと思う。


 みんな揃ったので改めて乾杯をしてから、しばらくはダラダラと食べて話してといった感じ。


 その後で亜美さんがケーキを持ってきてくれたところで、香ちゃんが「私、生クリームダメなの」と話したらみんなが一斉に羽田君を見る。


「な、なんだよ?」

「羽ちゃん、そういうことねー。やるじゃん」

「う、うっさいなたまたまだよ」

「な、なんの話?」

「香、あんたの為に羽ちゃんがチョコレートケーキかってくれてるよ。あんたの為だけにねー」

「え、まじで?」

「……」


 気まずそう、というよりこんなに恥ずかしそうな羽田君を見るのはもしかしたらこれが最初で最後かもしれない。


 それくらい照れていた。


「はい、あんたから渡してあげなよ」

「……ほれ、食えよ」

「ちょっと、私を犬みたいに言わないで」

「うるさいなあ。いるのかいらないのかどっちだよ」

「い、いる……」


 こんなやり取りを本気でやっているのがおかしくて、私はプッと噴き出してしまった。


「なによまどか」

「ご、ごめんなさい……でも、二人ともツンデレさんなんだね」

「だ、だれがよ!」

「だって、ひーっ、おかしいよ二人とも。好きなら好きっていえばいいのに」


 笑いながらいうことではもちろんないのかもしれないけど、私より頭もよくて色んな経験もある二人がこんな滑稽なところをみせてくるとやっぱりおかしくてしょうがない。


 笑いが伝染して、みんなもケラケラと。

 その中心の二人は怒ったり照れたりしていたが、それでも素直にならないことがくだらないことだと、ようやくそう思ったのか羽田君の方から先にやれやれとため息をついた。


「もういいや。よく考えたら変だよな。香、クリスマスなんだし楽しもうぜ」

「……じゃあ、明日はどっか行く?」

「ああ、お前が行きたいところいこうよ」

「わかった……じゃあ、ケーキいただきます。あ、ありがとね」

「お、おう」


 ぎこちない二人をみんなで見守るように、ケーキをぱくりと口にする。

 

 ちょうどその時にテレビでも「メリークリスマス」と芸人さんが大きな声で言ったので、改めてお祝いしようと、みんなでグラスを手にとった。


「メリークリスマス!」


 


 

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