80 ツンデレ?
「喧嘩して口きいてない!?」
昼休みにあいちゃんと羽田君と泉君と四人でご飯を食べていた時の事。
羽田君と香ちゃんが大げんかをしたことを本人の話から知る。
「まあ、あいつが素直じゃないからさ。クリパの件も話したら「別に私は行かなくても」とかうだうだ言って拗ねるんだよ。めんどくせえっていったら今度は「誰のせいよ」だって。あー、うざいうざい」
羽田君は呆れた様子でそう話す。
でも、確かにめんどくさいというか素直じゃない対応だなあと思っていると、あいちゃんが。
「あんたも大概。お互い様よ」
なんて言って羽田君もシュンとなる。
「と、とにかく俺はあんなの知らないから。声かけるなら勝手だけど俺が行くんならあいつは来ないんじゃないかな」
「ちょっと、それまでにちゃんと仲直りしなさいよ」
「しらね。じゃあ、俺ジュース買ってくるから」
羽田君はスタスタと出ていってしまった。
「あーあ、どうすんのよこれ」
「亜美さんに話したら責任感じそうだし……どうしようかな」
あいちゃんと泉君が同時に「はあ」とため息を吐く。
「ねえまどか、あんたの鈍感力でなんとかならないの?」
「ど、どんかん?私、何か秘められた力が?」
「あるある。そういうとこ」
「?」
私はどうやら自覚がないうちに何か力を得ていたようで、珍しく頼られたので張り切って二人の仲を修復するという大事なミッションを授かることに。
でも、何からやったらよいのやら。
昼休みはグダグダと過ごすことになり、その後授業中もずっと香ちゃんと羽田君のことについて考えた。
バカな頭でこれまでの経緯や、二人の性格の分析なんてものもやってみたけど結局大したことは思いつかず。
それでもしばらく考えていると、何かしら妙案というものは浮かんでくる。
つまりは二人とも素直じゃないから、そうさせるシチュエーションを作ってあげたらいいんだ。
うん、それがいい。ていうかそれしかない。
やっぱり私は天才だー!と喜びながら迎えた放課後、早速そのことを皆に話す。
「ねえ、二人を素直にさせる状況をつくったらいいんじゃない?」
多分どや顔。しかし。
「うん。でもどうやって?」
「……」
この時はびっくり。盲点だった。
「え、うーん」
「いや、まさか名案ってそれ?もー、まどかしっかり」
「あうう。でも、どうにか考えたのがそれだけだったんだもん」
「はあ。まあいいわ。とりあえず何日か様子見ましょ。で、最悪は強硬手段。嘘ついてでも二人とも呼ぶわよ」
あいちゃんも結構この話になると力が入る。
多分亜美さんのことを思ってなのだろうし、香ちゃんの心配も言わないだけで相当してるのだと思う。
「よし、じゃあまた何かいい案があったらライムして」
ただ、この日は何も思いつかなかった。
♥
あれからしばらく香ちゃんと話をしていない。
もちろん彼女は他の子と仲良くやっていて以前のような心配はないのだけど、そういうことじゃなく心配なのは羽田君とのこと。
その羽田君も、泉君と二人の時は何か話しているけど私たちの輪には入ってこない。
それに泉君に訊いても大した話はないそうで、結局クリスマスパーティの日程だけが近づいていき、ついにその日を前日に控えた十二月の二十二日。
放課後に三人で買い出しに行くこととなった。
「結局明日だねー。早いなー」
「うん、チキン楽しみ」
「まどかそればっか。もういっそ養鶏所にでも就職したら?」
「?」
待ちに待ったクリスマスがすぐそこだというのに、結局何も問題は解決していない。
だからといって中止というのも寂しいし、あいちゃんは「あいつらのせいで中止とか嫌だかんね」といってやることを決めたわけだけど、二人は果たして来るのだろうか。
そんな折、スーパーに入ってすぐトイレに行こうと二人から離れると、買い物をしている香ちゃんを見つけた。
何してるのかな?と彼女のあとをつけていくと買い物かごにはお菓子やジュースがたくさん入っていた。
もしかして、明日のクリパの為の買い出し?
そう思って声をかけようと近づくと、彼女のため息とともに独り言が聞こえてきた。
「はあ。なんで私ってこうなんだろ。喧嘩したいわけじゃないのに。それに、明日行かないわけにはいかないよね。うーん。羽田のやつ、来るのかな」
ほう。ほうほうほう。
私は彼女の本音を聞いて、つい声が出てしまった。
「香ちゃん」
「え、ま、まどか?な、なにしてるのよ」
「買い物。明日のクリパの」
「そ、そう。じゃあ、私急ぐから」
「明日六時集合だよ」
「……」
行ってしまった。
でも。香ちゃんは大丈夫かな、となぜか安心してあいちゃんと泉君の元に戻る。
「あ、まどか。勝手にうろうろしない」
「あうう。でも、収穫アリだよ」
「何の話?その手に持ってる大量のポテチのこと?」
「こ、これは明日の買い出しだから」
「そんなにいらないでしょ。棚に戻してきなさい」
「じゃ、じゃあ私食べるから」
「なんであんたのおやつ買わないといけないのよ。ハウスハウス」
「きゃうう」
あいちゃんはお母さんみたいだ。
私に甘くて甘くない。
でも、結局好きなの一個買ってあげると言ってくれる辺り、やっぱり甘い。
私はお菓子を買ってもらって満足げに店を出ることとなった。
「じゃあ明日、楽しみにしてるから」
「原さん、よろしくね。羽田も来るってさっきライン入ってたから」
「おけー。まどかも、明日は楽しもうね」
「うん、いっぱい食べる―!」
「じゃあ二人はケーキとってからうちに来てね。あとはまた連絡するから」
あいちゃんと別れて、私は泉君と帰路につく。
手を繋いでゆっくりと暗い道を歩いていると、家の近所にあるコンビニの前で羽田君の姿が。
どうしたんだろうかと泉君と様子を伺っていると、羽田君の独り言が。
「あー、なんで俺があいつのせいでこんなに悩むんだよ!しかも、あいつ生クリーム食べれないって話してないみたいだし。仕方ないからチョコのやつ買ってやったけどよ。こんなの持って行ったらまた怒るだろうし。めんどくせえよ、マジで」
はたから見たらちょっと不審なくらいまずまず大きな声でのボヤキに、しかし私と泉君は顔を見合わせて笑った。
結局二人とも素直じゃないだけで、お互いのことをずっと考えているんだとわかったので、帰ってから何も悩むことなく眠ることができた。
そしてついにクリパ当日。
私にとっては人生で初めて、友人や大切な人と祝うクリスマスがやってきた。
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