79 秋も冬も食欲大事

 みんなからすれば待ちに待った運動会、なのだろうけど必ずしも楽しみにしている人ばかりではないということを知っておいてもらいたい。


 私のような運動音痴にとって運動会や体育祭は罰ゲームみたいなもの。

 それに中学の時は友人もおらず三年間ずっと保護者席でお弁当を貪るだけの虚しいものだった。


 でも、今回ばかりは少しだけ楽しみでもある。


「氷南さん、もうすぐかけっこだね」

「ううっ、はずかしいよ」

「大丈夫。ちゃんとみんなで応援してるから」

「う、うん」


 今は頼れる、というか甘えまくってる彼氏である泉君が。


「まどかー、頑張って転ばないように」

「あいちゃんは速かったねー。私も速くなりたいなー」

「まあまどかはどんくさいから可愛いってのもあるけどね」

「それやだー」


 私のことを理解してくれる友人もいる。


「あ、香だ。すごい、ぶっちぎりじゃん」

「なんか香ちゃんにできないことってあるのかなあって思っちゃうな」

「そうねえ、でも恋愛はまどかとどっこいよ」

「それ、複雑……」


 かつて私を嫌ってた人も、今では仲良しさん。

 だから今日は楽しい運動会になりそうだ。


「じゃあ頑張ってくるね」


 意気揚々と戦地に向かった私は、最初のカーブで見事にすっころんで客席まで転がっていき、保健委員の人に連れられた後、泉君に引き渡されるところまでが運動会の一連の流れでした……。



「いたいよう」

「絆創膏貼ったから大丈夫だよ。それよりおばさんたちは来なかったの?」

「うん、もう行かなくても大丈夫だろうって。結構ドライなの」

「でも、いいことかもね。俺も来なくていいって断ったもん」


 小学校から数えて都合十回目の運動会にして、初めてお昼を友達と食べた。


 そして午後になると上級生の踊りや、部活動行進なんかがメインで、私たちはそれを見ながら忙しい一日を終えるのであった。


「あー、運動会も終わっちゃったな。この後どうしよう」

「ご飯食べてゲームセンター行きたいな」

「じゃあそうしよっか。でも、足は大丈夫?」

「うん、もう痛くな……痛いからおんぶ」

「あはは、そうくるか。了解」


 彼氏におんぶしてもらうのが快適だなんて、私は一体どんな性癖に目覚めてしまったのかと我ながら心配になるが、それでも彼の背中は居心地がいい。


 私の前世はカタツムリの殻だったのだろうか。


「でも、こうやって運動会も氷南さんと一緒に楽しめるなんて思ってもみなかったなあ」

「私も。なんか夢みたい」

「ほんとだね。これからもよろしくね」

「うん、こちらこそ」


 今日は私がけがをしたこともあって真っすぐ家に帰った。

 そして運動会が終わると一気に季節は秋から冬へ。


 寒い寒い、私の苦手な季節がやってくる。



「まどか、いい加減布団から出なさい!」

「あと十分……」

「あと暖房はタイマーしときなさい!どうせすぐ喉が痛いとか言い出すんだから」

「あうあう」


 朝からがみがみとお母さんに怒られて、布団を引っぺがされて目が覚めたのは運動会が終わった翌日。


 今日から居間にコタツが登場するとあって私はそれだけを楽しみにさっさと外へ放り出される。


 ぶるぶるっ!寒い……。


 駅までがすごく遠くにあるように感じる。

 朝が辛いから冬は嫌い。

 

 じゃあ夏は好きかと言われたら夜寝苦しいので嫌い。

 春は季節的に過ごしやすいけど、クラス替えがあるから嫌い。

 秋は食欲の秋とか言い訳をつけて食べ過ぎてしまうから嫌い。


 結局私はぐーたらなので何かにつけて季節のせいにしてしまう。


「おはよう氷南さん。寒いね」

「うん、辛いよう」


 でも、朝から変わらない泉君は大好き。

 隣にいるとぽかぽかするし、手もあったかいし、別にそうじゃなくても好き。


「クリスマスとかもあっという間だね」

「う、うん。プレゼント、何がいい?」

「え、いいよそんなの。それより美味しいものでも食べにいこうよ」

「じゃあチキンが食べたいな。私のうちってああいうの買ってくれないから」


 まだ少し先だけど、冬になると一気にクリスマスムードが漂ってくる。

 それは何も私に限った話ではなく、学校でも早速みんなが年末のビッグイベントをどう過ごそうかと活気づいていた。


「まどか、クリパしようよ」

「くり、ぱ?」

「クリスマスパーティよ。私の家でさ、亜美とか香とか呼んでさ」

「う、うん!やるやる!」


 こんな私もついにパーティに誘われるまでになったのかと思うと、我ながら随分と成長したなあと感心する。


 クリパ……チキン食べれるのかな?


「みんなでプレゼント交換したり、シャンメリーで乾杯したりさ、楽しそうじゃん」

「うんうん」

「それに、クリスマスといえばやっぱりケーキ。みんなで手作りとかしちゃったり」

「うんうんうん」

「あと、料理はローストビーフとかよくない?贅沢してるって感じだし」

「チキン」

「へ?あれ脂っこいからなあ。私はちょっと」

「チキン!」

「わ、わかったわよ。じゃあそれも追加ね。泉君にも声かけといて」

「わかったー」


 クリスマス当日はそれぞれ予定があるだろうからと、その前々日の23日にみんなでパーティをすることになった。


 その日をイブイブと呼ぶことを初めてしった私は最初、泉君に「イボイボにパーティするって」と伝えてしまい、ちょっと変な顔をされて恥をかいたのだけど、なんとか伝わったのでよしとしよう。


 楽しいクリスマスになるといいなあ、なんて想像して授業中一人でニヤニヤしていたのだけど、そんな時にちょっとトラブルが発生するのはまあ予想通りだったのかもしれない。


 好事魔多し。最近学びました!

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