71 それぞれの悩み?

「というわけで、原稿書いてきたわよ」


 亜美さんが、翌朝すぐに私のところにやってきた。

 今日は香ちゃんも登校してきてはいたけど、休み時間になると人目を避けるようにどこかに行ってしまう。


 だから今は遊びに来たあいちゃんと亜美さんと三人でお話し中。


「すごーい。亜美さんって文才あるんだ」

「まあね。ていうかまどか、ほんとに大丈夫?昨日気絶したんでしょ?」

「うん……主役とか無理な気がする……」


 昨日は散々だった。

 自分が全校生徒の前で演技をする姿を想像し、緊張がピークを越えて気を失っていたのだから実に私らしい。


 ただ、香ちゃんも本気のようで本当は連絡を取るのも気まずかったはずの亜美さんに「私とまどかのやりとり、しっかり書いて」と電話したそうだ。


「まあ、やってみながらね。放課後、あんたらの部室で稽古よ。亜美、羽ちゃんに声かけといてね」

「わかった。泉君は今日バイト?」

「今日はお休み。明日は二人でバイトかな。亜美さん、羽田くんとはいい感じなの?」

「まあ、順調すぎて怖いというかねえ。でも、今は幸せだよ」


 羽田君も、以前の香ちゃんとのやりとりなんかもあって亜美さんとうまくやれてるか心配だったけど、その辺は私なんかよりずっと大人だ。

 亜美さんも幸せそうでよかった。


「あーあ。彼氏いないの私だけかー。まどか、泉君貸してよー」

「や、やだよ!」

「あはは、冗談よ。でも、誰か紹介してくんないかねえ。私も青春したいよー」

「じゃあ、愛華は彼氏募集してる役で出てもらおうかな」

「亜美ー、それはきついってー」


 休み時間や授業中を使って、亜美さんの書いた原稿に目を通しながら放課後までに覚えてくることで三人の話はまとまった。


 そして放課後、泉君と一緒に部室に行くと先に亜美さんと羽田君が待っていた。


「おう、仲良しだな相変わらず」

「そっちこそ。原さんは?」

「香を呼んでくるって。あいつ、校舎中逃げ回ってるから探すのひと苦労なんだよ」


 はははと笑う羽田くんが香ちゃんを心配しているのはよくわかった。

 しばらく四人で部室で打ち合わせをしている時も、彼だけは浮かない顔をしていたから。


「で、亜美の台本通りだとしたら俺はなにするんだ?」

「香に騙される男ね」

「はあ?なんで俺が」

「羽ちゃん人気あるから、悪女に引っ掛かってバカ女子共の同情を誘うのよ。そういう安っぽい演技得意でしょ」

「ま、まあ、な」


 付き合ったら立場が変わる、なんて話も聞いたことがあるけど、今はしっかり亜美さんが主導権をもっているようだ。

 

 ちなみにうちの両親も、今じゃ信じられない話だけどお母さんからお父さんに猛烈アタックをしまくっていたらしい。

 でも、付き合ってからはお父さんのほうがお母さんに夢中で、すっかり尻に敷かれてしまった格好なんだとか。


 でも、その方がうまくいくとお母さんは力説してた。

 だから私も、泉君を引っ張っていけるような女子に……まだ無理かなあ。


「おつかれー。遅くなってごめん。香連れてきたよ」


 少ししてあいちゃんが香ちゃんと一緒にやってきた。


「遅い二人とも。何してたのよ」

「いやあ香が屋上で黄昏れて手……ぷっ、青春してたなーあの顔」

「う、うっさいわね。いいから早く始めましょうよ」


 なんだかんだいいながらも、あいちゃんと香ちゃんは仲がいい。

 幼馴染だから、ということもあるのだろうけどこうやって素直になれた今がお互い嬉しくて仕方ない様子。


 どっちかが男ならとてもお似合いなのに……きゃっ、変なこと想像しちゃった!


「ぶっ!」

「まどか!?」

「げほげほ……ご、ごめんなさい」

「氷南さん大丈夫?ほら、口ふいて。あっ、ここも飛んでるよ」


 妄想でお茶を噴き出した私を、隣で泉君が優しく拭き拭きしてくれる。

 そんな光景を見てみんなが「いいなあまどかは」と、羨ましいより呆れたような声でそう話す。


 でも、泉君に優しくお世話されるのはもちろん嬉しいのでみんなの前とか関係なくゴロゴロと甘える私でした。


「じゃあ早速やるわよ。まどか、いつまでも甘えない」

「はみゅ!わ、わかったよう」


 早速打ち合わせが始まった。


 台本はこんな感じ。


 香月香という美人でなんでもできる女の子が、まどかという可愛いけど誰とも喋らない女の子を見て調子に乗るなといじめるところからスタート。


 段々と調子に乗ってきて周りの人間も振り回し、最終的に好きな人からも逃げられて孤立する彼女に、まどかといういじめられていた女の子が手を差し伸べて、香が改心する物語。


 概ね私たちのこれまでをノンフィクションでやるのだけど、一つ問題があるそう。


「集客だけど、うまく行ってる?」

「うーん。仲のいいやつらは来てくれるとは言ってるけど、中には香がいるなら行かないってやつもいる」

「……わかってても辛いわね」

「香、これが現実だよ。でも、それでもやりたいからこうしてみんなが協力してくれてんだ。お前が一番ちゃんとやれよ」

「わかってるわようっさいわね」

「そういう言葉遣いがダメだっていってんだろバカが」

「ふん。いいから話続けてよ」


 ちょっと話が逸れたりしながらも、とりあえず大体の流れは決まっていった。

 

 そして時間も遅くなり、解散となったところで亜美さんが、私とあいちゃんを呼ぶ。


「ねえ。二人ともこの後時間ある?」

「どうしたの?」

「あの、三人でご飯いかない?羽ちゃんは、泉君と久々にご飯行きたいっていってたから」

「うん。じゃあ香ちゃんも」

「いや、香は……今日は遠慮してもらっていいかな」


 亜美さんが気まずそうにそう話していたので、この後なんの話をされるのかはある程度想像がついた。


 香ちゃんはさっさと帰ってしまったので特に誤魔化したりする必要もなかったけど、一応三人でご飯に行くのに誘わなかったみたいにならないよう、少し時間を空けてから私たちは学校を出ることにした。

 

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