61 人の恋愛話は複雑です
「お、どうしたんだみんな。もう花火終わったのか?」
「ま、まあ。それより二人でどこ行ってたんだよ」
「あ、ああ。まあちょっとな」
羽田君と亜美さんが戻ってきた。
でも、付き合ったとか振られたとかそんな話はなく、亜美さんも特に変わった様子はなかった。
「よし、中入ろうぜ。虫が多くてさ」
「あ、お風呂はね、簡単な温泉みたいなのあるから入って」
「マジで?よーし、泉行こうぜ」
「温泉かあ。いいね」
ドキドキしながら様子を伺っていたけど、楽し気に羽田君と泉君が話しているので思い過ごしかなと、胸をなでおろす。
「じゃあ私たちも入ろうよまどか」
「うん、汗かいたもんね」
「この後の為に綺麗に洗っとかないとねー」
「? お風呂から出たらみんなでスイカ食べようかなって思ってたんだー」
「……あ、そ」
つまんなーいと言いながらあいちゃんは亜美さんを誘って部屋に戻っていく。
私もすぐに準備をして、みんなの分のタオルとかを出して風呂場へ。
「へー、本当に温泉みたいじゃん。いいなあこんな実家があって」
「今は全然使ってないからおばあちゃんも使ってくれてよかったって言ってた」
「そういえばおばあちゃん挨拶できてないけどどこで何してるの?」
「人見知りだから部屋にいるって」
「あー、確かにあんたのおばあちゃんだね」
「?」
なんて会話をしながら脱衣所で、服を脱ぐと体型があらわになる。
「ありゃ、まどかって脱いだら案外ないんだねー」
「な、ないってほどじゃないもん。でも」
「それがいいって言ってくれるんだー。いいなーいいなー」
「わ、私そんなこと言ってないもん!」
あいちゃんも亜美さんも、結構大きい。
しかもスタイルがいいし足の短い私と比べると二人ともモデルみたいだ。
羨ましいと思いながら、控えめな自分の胸を触ってみる。
……どうにかならないかなあ。
ちょっとしょんぼりしていると、あいちゃんが亜美さんにさっきの羽田君との件を聞きだした。
「ねえ亜美、羽ちゃんとはどうだったの?」
「え、うん……一応付き合ってもいいかなって言ってくれたけど」
「え、マジで?でもなんでそんなに残念そうなのよ」
「多分、他に好きな人いるなあって。だからいいのかなって」
「あー、わかるんだやっぱり。うーん、まどかはどう思う?」
「へ?」
ついこの間まで恋愛はおろか人との付き合い方すらまともにできなかった私に一体なんのアドバイスができるものか。
でも、話を聞いているともっとシンプルに考えてもいいのにと、そう感じたので。
「好きな人と付き合えるのって、嬉しいものだよね?」
と言った。
すると。
「あはは、確かに。亜美も考えすぎなんだよ。どうせならチャンスと思って羽ちゃんをメロメロにさせるくらいの意気込みでいいじゃん」
「そうね。うん、ほんとまどかの言う通りだね。なんか気が楽になった。ありがとね」
なぜか感謝された。
こんな私の言葉でも、誰かの励みになったのだと思うと、それは素直に嬉しかった。
三人で楽しくお風呂に入り、そして部屋に戻る。
でも、まだ泉君たちは上がってきてないようだ。
♠
「なあ、亜美さんとはどうなんだ?」
「一応付き合おうかって話だよ。まあ、改めて話すつもりだけど」
「彼女ができた人間の顔じゃないな。やっぱりお前、香月さんのこと」
「いいだろ別に。香は俺に興味なんかないよ」
風呂は開放的な気分になり、なんでも話せる空気になるので思い切って羽田の恋愛事情について聞いてみた。
いつもなら飄々と答えるだけの万能戦士の羽田にしては珍しく言葉を詰まらせながら話している。
やはり香月さんとは何かあるのか。
「なあ、そんな気持ちで亜美さんと付き合っても傷つけるだけじゃないか」
「向こうはそれでもいいんだろ?それともここでスパッと振った方がいいってことか?」
「そうじゃないけど……でも、付き合うのだって香月さんを振り向かせるために」
「だとしても関係ない。決めるのは当人の話だ」
どうもこの話はしたくないようだ。
しかし亜美さんとは全然仲良くない俺でも、氷南さんのせっかくできた友人の一人を傷つけるようなことは、親友であっても許容できない。
「羽田、思い切って香月さんに気持ち伝えたらどうだ?亜美さんにも、そのことをきちんと話して」
「お前が俺にアドバイスとはなあ。いや、すまん悪い意味じゃないんだ。でも、お前は幸せだからわからんだろ」
「何が」
「香がああなったのは俺のせいでもある。だからお前にも済まないとは思ってるよ」
「どういうことだ?」
「ほら、俺ってこういう性格でさ。フラフラしてるじゃんか。香はそんな俺でもいいって言ってくれてたんだけど俺が決めきれなくてさ。そんで浮気されたって傷ついたあいつは自分も他の男と付き合ってやるんだって躍起になって。仲良くしてるのだって表面上の話で、二人きりだといつも喧嘩だよ」
「でも、まだ好きなんだろ?」
「……いや、そう思ってたけど違うのかもな。亜美ちゃんに告られてさ、思ったんだ。ああ、好きってこれくらい真面目に相手のことを思うことなんだなって。だから、俺が思ってるのは香に対しての贖罪の気持ちだけだよ」
だから亜美ちゃんと付き合って自分を変えたいってのもある。
そう言ってから羽田は先に風呂から出る。
「でも、香があのままだとお前の彼女も迷惑だろうし、何とかはするよ」
「ああ。でも亜美さんと付き合うんだったらちゃんとしろよ」
「ゴムはつけるって」
「おい」
「冗談だよ。わかってる」
俺もすぐに風呂から出て、そのまま無言で二人で部屋の方へ戻っていく。
すると女子の部屋からきゃっきゃと声が聞こえてきたので、羽田が「今の話はとりあえず忘れて楽しむぞ」といって部屋に飛び込んでいった。
人にはいろんな事情があって、恋愛ってそう簡単なものじゃないんだなと、人の話を聞いて改めてそう思う。
だから俺は氷南さんとこうして想いが通じ合っている現状を大事にしなければならないと、そんなことを思いながら部屋に入っていき、彼女の隣にそっと腰かけた。
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