58 歓迎されるっていいな


「いよいよ夏休みだね」

「うん。でもアルバイトだよね今日」

「そうだね。夕方には終わるから」

「じゃあ、あいちゃんと遊んで待ってる」


 この前は、待つ場所も一緒にいる人もいなくて一人でお店で待ってたりしたけど、今日からは一緒にいる友達がいる。


「あ、まどかー。行くよー。亜美は後からくるってさ」

「う、うん」


 教室にあいちゃんが呼びにきてくれた。


「泉君も一緒に途中までいこ?」

「いや、俺は部室に寄ってからバイト行くし、せっかくだから行って来たらいいよ」

「うん、じゃああとでね」


 なんか最近すごくいい感じ。

 泉君とも仲良くやれててあいちゃんとも友達になれて。


 私、充実してます!



「あれ、愛華じゃん。それに……姫もいるし」


 意気揚々とカラオケに向かった私だが、受付でばったり遭遇したのは香月さん。

 なんか最近は猫を被るのもやめたのか口調が荒い。それに私のこと、姫って呼ばないでよ……


「もしかして愛華、姫と友達なの?」

「え、うん。まどかって結構面白くて」

「あー、じゃあもういいよ話しかけないで。はいはい」

「……」


 あいちゃんを冷たくあしらうと、他の取り巻き女子が一斉にドッと笑う。

 そしてぞろぞろと、香月さんについて行くように奥に向かっていった。


「あ、あいちゃん……」

「いいよいいよ。元々仲良かったわけじゃないし。それより行こうよ」

「う、うん」


 私と友達になったせいで香月さんに目をつけられたのかも。

 そう思うと申し訳ないというかなんというか、やっぱり私って人に迷惑ばかりかけてると、改めてあの頃の自分を思い出していた。


 部屋に入ってもしばらくシュンとしていると、やがて亜美ちゃんが合流。


「やほ……ってなんかお通夜みたいだけど大丈夫?」

「亜美、隣に香らがいるから」

「まじ?さいあくー」

「それよりほら、この前言ってたまどか。めっちゃおもろいよ」

「よ、よろしく」

「亜美ですー。まどかめっちゃ可愛いね!そりゃ香が嫉妬するわけだよ」

「嫉妬?」


 あの香月さんが。容姿端麗才色兼備のなんでもござれな香月さんが私みたいな陰キャに何を嫉妬することがあるのだろう?


「あの子さ、人の彼氏とか欲しがるって有名でね。マジ病気だよ」

「だ、だから泉君を?」

「まあね。それに泉君ってさ、羽ちゃんといつも一緒にいるし案外女子の隠れファン多いから、まどかも気を付けておいた方がいいよ」

「そ、そうなんだ」


 やっぱり泉君ってモテるんだ。

 そう思うとなんか急に心配になってきた。


 今、彼はバイトをしてる最中なのだろうけど、でももしお客さんにナンパされて……にゃー!


「大丈夫だってまどか。泉君ってめっちゃ一途そうじゃん」

「そ、そうだよね」

「それに、あんたのことめっちゃ好きなんでしょ?」

「うん、何しても許してくれるの」

「何してもって、何したのあんた?」

「うーん、急に鼻血出して倒れたり家の裏道で迷子になったり登校中に行方不明になったり遅刻したり勉強しようって言って部屋に呼んだのに勉強一切しなかったり」

「もういい……あんたって見た目以上にわがままなんだね」

「?」


 わがまま、といえばそうかもしれないけどやっぱりこんな私を容認してくれる泉君って特別なのかな。

 あいちゃんたちの話を聞きながら、甘えるだけじゃダメだなとつくづく思い知らされていると、壁が薄いのか隣から騒ぐ音が漏れてくる。


「香たち、ほんと騒ぎまくってるわね。私たちも歌いましょうよ」

「うん。じゃああいちゃんから」

「ここは新しくメンバーに加わったってことでまどかからでしょ」

「え、私?」

「ねえ亜美」

「うん、まどかが歌わないと始まんないよ」

「え、でも」

「はやくはやくー」

「ひー」



「あはは、まどかってアニソンばっかじゃん」

「だ、だってアニソンしか知らないもん」

「でも面白かった。それに歌はうまいんだし最近の曲も聴いてみなよ」

「わ、わかった」


 歌声を褒められたのは素直にうれしかったのだけど、私ばかり歌わされてすごく恥ずかしかった。

 でも、なんかすっきりした。


「あっ、そろそろ時間だね。泉君迎えに行くんでしょ?」

「う、うん」

「いいなあ。ねえねえ私たちも一緒について行っていい?」

「い、いいけど」

「大丈夫だって。すぐ帰るから。結構まどかってヤキモチ妬きだよね」

「う、うん」


 帰る時に香月さんたちがいないことを確認して、三人でそそくさとカラオケ店を後にした。


 そして学校前のカフェに戻ると、ちょうど着替えたあとでレジを調整する泉君が見えた。


「あっ、氷南さん。それに、原さんたちもどうも」


 バイト終わりに少し汗をかいた泉君もやっぱりかっこいい。

 最近四六時中一緒だったからマヒしてたけど、やっぱり泉君はかっこいい。


「泉君おつー、彼女連れてきたよ」

「原さん、お疲れ様。何か飲む?」

「んー、邪魔したら悪いし帰る。亜美、いこっか」

「うん」


 あいちゃんは亜美さんを連れてさっさと店を出て行った。

 帰る時に「夏休みはどっか行こうね」といってくれてとても嬉しくて、泉君に今日あいちゃんと何をしたかずっと話していた。

 

 こうして友達ライフを獲得した私は充実した夏休みに入っていく。



 充実した夏休み、のはずだったのに。


「円、早く準備しなさい」

「あうー」


 お母さんが急に、田舎の実家に帰るから挨拶も兼ねてついてこいということに。

 せっかく一日中泉君とイチャイチャしたり、あいちゃんと遊んだりする計画が早速パーだ。


「行かないとダメ?」

「おばあちゃんもあんたに会いたいって。二、三日のことなんだからいいでしょ」

「あうー」


 強制的に車に乗せられて私は田舎へゴー。


 向かう途中で偶然泉君の家の前を通ったことで、私はやっぱり彼に会いたい衝動が。


 だから送った。

 SOS。


『田舎に数日行くので、よかったらこっちに来ませんか?』

 

 

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