57 早く明日がこないかな


 ここは学校。

 だというのに私は甘えてみた。


「ちゅー」

「う、うん」


 ちゅーはすっかり慣れたもの。

 とはいってもやはり唇が触れた瞬間はドキッとする。


 それでも気持ちよさが勝ってきて次第に周りが見えなくなる。


「……したい」

「い、いや、ここ学校だし」

「そう、だよね……」

「で、でもキスくらいなら大丈夫、じゃないかな」

「じゃあ、ちゅー」


 結局昼休みを目いっぱい使って、唇が腫れるほど彼とキスをした。

 ご飯を食べるよりも、部室で話すよりもあっという間に時間は過ぎていった。


 充電をもらい充実した私はそれでも昼休み以降、悶々とした時間を過ごす。


 どうしたんだろう、すっかりエッチなことに慣れたどころか好きになってしまった。


 もちろん相手が泉君だからという前置きはさせてもらうけど、それでもこんなにイチャイチャ欲がすごいと我慢ができなくなる。


 だから忘れようと思って寝た。

 私のいいところはの〇太くんよろしくどこでも数秒あれば眠れるところ。

 泉君の事を考えていると布団でも寝れないくせに、嫌な授業だとシャットアウトできてしまうこの自己防衛本能の強さには感服する。


 というわけでおやすみなさい。



「氷南さん、学校終わったよ」

「……えっ、今何時?」

「もう四時過ぎだよ。ずっと寝てたけど疲れてた?」

「……うん」


 恥ずかしいほどにぐっすりだった。

 でも、すっきりしたのか寝る前までのムラムラはどこかに飛んでいた。


「さてと、羽田たちが今日はファミレスで話そうっていってたから先に行ってるみたい。いこっか」

「うん、お腹空いた」


 そうだ、この後私は人生で初めて友達ができるかもしれないイベントを控えているのだ。

 昨日までは憎かった原さんだけど、ちょっと今はワクワク。


 仲良くなれるといいなあ。



「ねえ氷南さん、泉君とどこまでやったの?」

「え、ええと……」


 私の本性を知った原さんは予想以上にぐいぐい距離を詰めてきた。

 せっかく泉君の隣に座ってご飯が食べられると思ってたのに、横にはなぜか原さんが。


「いいじゃんいいじゃん、言っちゃいなよー」

「い、いえないよう……」

「あんなに大声で叫んでたくせに?」

「わ、わすれてくだしゃい……」


 ああ、そうだった。最近泉君とばかり話していたから忘れていたけど、私って話するの苦手だったんだ。


 泉君は向かいの席で羽田君と楽しそうにお喋りしてる。

 まあ、誰も聞いてないなら……


「え、えっちした」

「最後までってこと?」

「う、うん」

「うそー、やばー!どうだったどうだった?」

「い、痛いけど気持ちいいというか」

「へえー、結構すきなんだそういうの」

「す、好きとか……好き、かも」

「あはは、おもしろいね氷南さんって」

「……」

 

 原さんって、香月さんたちみたいにイケイケな感じだけど、でも話してみると自慢話とかもないし私と泉君の関係を理解するとちゃんと一線を引いてくれているようにも見える。


 だから私も少し気を緩める。


「あの、原さんって香月さんたちと仲いいの?」

「うーん、香はちょっとランクが上かな」

「ランク?」

「イケてる組、普通組、イケてない組ってみんな分けてるけど私は普通だしさ」

「そ、そうなんだ」


 なにそれ、勝手にランクとかついてるの?

 ちなみに私は……


「ちなみに氷南さんはランキング外だって誰かが言ってたけどね」

「そ、そうなの?」


 え、私ってイケてない組にも入れてもらえないんだ……

 い、いや別に他人が決めた評価とかどうでもいいんだけど、でも自分が周りにどう見られているかなんて改めて意識してこなかったし、原さんに色々聞いて改善点もみえてくるかも?


「あの、私みんなと仲良くしたいんだけどどうしたらいいかな?」


 思い切って訊いてみた。

 でも、ちょうどその時にジュースがなくなったので、原さんが「一緒に取りに行こ」って誘ってくれた。


 席を立つと泉君が嬉しそうにこっちを見てくれた。

 うん、私が原さんと仲良くしてるのを喜んでくれてるんだ。


 よし、もっと話して仲良くなるぞー!



「私、泉君のこと好きだったんだー」


 オレンジジュースが出てくるのをじっと待っていると、隣で原さんがぽそり。

 

「え?それって」

「でも、もうないから安心して。いやあ、香もさあ泉君のこと狙ってるみたいでそれに焦って私も話しかけようと頑張ってたわけ。でも、なぜか隣にいっつも氷南さんがいるから話すタイミングなくって。あーあ、先に行っとけばよかったなー」

「ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。まだ付き合ってないんならワンチャンとか思ったけど、二人がそういう仲なら応援する。人のものとろうとか思わないし」

「原さん……」

愛華あいか、でいいよ」

「う、うん。あいちゃんだ」

「はは、かわいいかも。氷南さんって円だっけ?」

「うん」

「じゃあ、まどかって呼ぶね」

「うん!」


 すっかり原さん、改めあいちゃんと仲よくなれた。

 今日はその後もずっと二人で話をして、気が付けば暗くなるまであいちゃんとの話に夢中だった。


 遅くなったので今日は解散。

 あいちゃんと羽田君はこれからカラオケに行くらしい。


 ちなみに二人はいい関係とかではなくカラオケが好きだそうだ。

 でも、本当にそうかなあ。


「じゃあねあいちゃん」

「うん、またねまどか」


 今日は友達ができた。

 そのことに心を躍らせていると、隣で泉君が優しく「よかったね」といってくれた。


 今日はいい日だ。

 ルンルンしながら彼と帰る夜道は心地好かった。



「まどか、みんなでカラオケいかない?」


 帰ってすぐのこと。

 あいちゃんから電話でお誘いがあった。


 日程は明日。

 しかし明日は泉君がアルバイトの日(私は暇そうだからいいよと言われた……)

 

「うん、でもメンバーは?」

「同じクラスの亜美と。あの子もおとなしいから気が合うと思うよ」

「そっか。じゃあ行くけど、泉君のバイトが終わるまでで」

「彼氏待ちってことー?いいなーうらやまー」


 こんな電話を誰かとするなんて、思ってもみなかった。

 でも楽しい。すごく楽しいし嬉しい。


 私は泉君と会うこと以外の理由で明日が早く来ないかなと思ったのはこれが初めてだ。


 ワクワク。


 明日が早くこないかなー。

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