55 やることやってます
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「そりゃお前、モテ期だな」
羽田に今朝の電車でのことを話していると、そんなことを言われた。
ちなみに氷南さんとは別々に登校して今朝から一言も口を聞いていない。
モテ期なんて今となればどうでもいいどころか余計な周期でしかないのだが、しかしなぜ今になってそんなものが訪れるのか。
「泉、お前最近彼女ができて余裕がある感じじゃん?そういうのって女から見たら魅力的に見えるんだよな」
「つまり、氷南さんと付き合ったからこそモテてると?」
「ざっくり言うとな。で、その肝心の彼女とは喧嘩でもしたのか?」
本当は今日、羽田のやつに彼女と色々うまくいっていると自慢したかった。
氷南さんの名誉もあるから生々しい話は避けようと思っていたけど、イチャイチャしたことくらいは鼻高々で語りたかったのだけどそういう気分にもなれない。
「まあ、昨日までは順調だったはずなんだけど今朝の一件でな……」
「怒ってるだけだよ。時間が経てば忘れるさ」
「でもまた原さんがやってきたらどうすんだ?彼女いるからって話しても聞いてもくれなかったし」
「いっそ決め手みたいなもんがあればいいけどなあ」
朝からいいことがない。
昨日は夢のような時間だったのにその反動かと思うくらい今日は憂鬱だ。
羽田と話しながらうんざりしていると、追い打ちをかけるように原さんが俺のところに。
「泉君、今日みんなで遊ぼうよ」
それに対しての返事はもちろんノーだ。
しかし羽田が彼女も一緒ならどうだ?と訊いてきたので少し悩む。
そう、俺の目標の一つに氷南さんに友達を作るというのもあるからだ。
それを達成するにはこういった機会を避けるべきではないとわかっている。
ただ、香月さんたちとボウリングに行った時もいいことはなかったし、結局波乱含みだろうと想像はつく。
さて、どうしたものか。
♥
また原さんと話してる。
泉君、最近特に女の子と話す機会が増えてる気がする。
むむむ、なんか悶々する。
これって……嫉妬?
ち、ちがうもん泉君が席を空けてくれてなかったのがいけないんだもん。
でも、香月さんはわかるとしてどうして原さんまで泉君に?
……もしかして泉君のかっこよさにみんなが気づき始めたとか?
や、やだやだ!泉君は私だけのものだもん!
「氷南さんも一緒に遊ばない?」
「へ?」
気が付けば目の前に原さんが。
親し気に呼ばれたが、私は彼女と話した記憶なんてない。
「な、なんで?」
「だって泉君のカノジョなんでしょ?だったら一緒じゃないと悪いし」
「そ、そういう、こと」
泉君のカノジョ。そのワードに私は震えた。
単純なものでそれだけで上機嫌になってしまい、私は思わず「行く!」と返事してしまう。
「じゃあ決まり。今日はテストがんばろーねー」
最後の原さんの一言で私は絶望する。
そうだ。
泉君とえっちしたり色々あってすっかり忘れていたけど。
今日、テストだ!
♥
「では、始め」
頭が痛い。
英語のテストから開始されたけど、もう呪文でも書いてるのかというくらい何も読めない。
ううっ、しぬー。
♥
というわけで全滅。
テストはどれもボロボロだった。
それでも泉君に教えてもらったことがなんとか頭に残っていたのでかろうじて問題を埋めることには成功した。
「氷南さん、どうだった?」
「ううっ、あんまりできなかった」
「こ、今度はもうちょっと勉強しないとだね」
「う、うん」
泉君とそんな会話をしていると原さんと羽田君がやってくる。
しかしどうでもいい話だけど、羽田君ってほんとにいろんな女の子と仲良しだなあ。
そんな彼と仲良しな泉君も、もしかして実は……いや、そんな不誠実な人じゃないと私は知っている。だから信じてるんだけど。
「泉君、みんなで買い物いこーよ。そんでテストの打ち上げもやらないとね」
「そ、そうだね」
私というものがありながら、なんでそんなに他の子にモテるのだと私はヤキモキ。
昨日えっちをしてから私はちょっと嫉妬の魔女になりかけている。
むすっとする私を気にしてか、学校を出てからもしきりに泉君が話しかけてくれるのに、私はやっぱりむすっとしたまま。
「氷南さん、別に無理にいかなくても」
「行く。別に気にしてない」
「え、怒ってない?」
「ない。怒る理由がないもん」
「そ、そうかな……」
「そうなの。絶対そうなの」
怒っていた。
ぷんすかぷんすかしていると、それをみて原さんがクスリ。
「ふふっ、氷南さんっておもしろいね」
「な、なにが?」
「だって、泉君となんもしてないのにそんなに怒ったりヤキモチ焼いたり変だって」
ちょうど買い物の為にやってきたショッピングモールの駐車場でそんなことを言われた。
何もしていない?それは違う、めっちゃいろんなことしたし。
でも、言うのは恥ずかしい。
えっちしたもんなんて口が裂けても……
「でも、そんなんじゃ他の女の子にとられちゃうよ」
「え、えっちしたもん!!」
「え?」
「え?」
……
駐車場に響き渡るほどの大きな声で、私は独白してしまった。
そしてクスクスと笑いながらこっちを見る買い物客と茫然とする原さん、口をパクパクする羽田君と、焦る泉君を見ながら私はその視線に耐え切れず意識を失った。
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