52 えちちが止まらない


 明日も誰もいない。

 それはつまり、明日こそは……という意味でいいのだろうか。


 悶々と部屋で一人考えさせられるのはもう慣れたが、しかし今度ばかりは答えを得るまで眠れそうにない。


 それに今頃、氷南さんは家で一人寂しく眠っているのだろうか。

 そう思うと彼女が可哀想にも思えてきて、自然とライムを打っていた。



 泉君から連絡だ。


『明日、起きたらそっちにいくね』


 こ、これってもしかして朝から……いや、それは何が何でも私の頭がエロエロすぎるかな。


 でも、明日は朝からずっと一緒ってことだ。

 うん、だったら時間はたっぷりある。

 ワクワクするなあ。ドキドキするなあ。


 あー、明日が待ち遠しいよー!



 だいたい思ったとおりにことが運ばないのが私。

 朝からずっと泉君が連絡をくれていたというのに盛大に寝坊してスルーしていた。


 慌てて電話すると、駅前で時間を潰してくれていたというので急いで家を飛び出す。


 必死に走って駅前に着くと、本屋の前で泉君が手を振ってくれる。


「おはよう氷南さん」

「……ごめんなさい寝坊した」

「いいよいいよ。それよりせっかく外に出たんだしどっか行く?」

「う、うん」


 なんで怒らないんだろうと、不思議な顔をしてた私の心中を察してか泉君は「俺が勝手に早起きしただけだから」なんて言ってくれる。


 もう好きが止まらない。

 いや、好きに隙がない(うまくいったつもり)


 あふれんばかりのこの気持ちをどうやって彼に伝えたらいいか、そればかり考えながらついて行くこととなる。


「ねえ、週明けからテストだし図書館で勉強でもする?」

「え、うん。でも、せっかくだからお買い物行きたいなあ」

「そうだね。じゃあショッピングモールにでもいこっか」

「うん」


 あー、本当は勉強しないとやばいんだけどなあ。

 留年とかなったらどうしよう。さすがにそんなアホな子は泉君だって……


「ねえ、買い物したらお勉強、しよ」

「うん。じゃあ買い物してからだと図書館遠いしおうちに行って勉強だね」

「うん」


 私えらい!自分から勉強しようなんて。

 うん、やっぱり泉君と付き合って私、いい方向にかわれてる気がする!


 自分で自分を褒めまくり。絶賛しながら気分をよくして一緒に買い物へ。


 ショッピングモールに入るとまず、夏に向けての水着のセールが行われていた。


「あ、もう夏だね。夏休みは海にでもいけたらいいなあ」

「そうだね。海、いきたいなあ」


 実を言うと海にはあんまりいい思い出がない。

 昔くらげにさされたり足つって溺れかけたりした記憶からか、どうも遠ざけてしまっている。


 それに友達のいない私には無縁で誰かに誘われることもなくいく機会も無かったのだけど、やっぱり好きな人とは海やプールや花火やなんやらと夏のイベントを一緒にやってみたいもの。


「ねえ、俺水着もってないから見ていい?」

「い、いいよ?」


 泉君の水着……み、みたい!


 早速二人で店に入って水着を選ぶ。

 泉君のものを選びながらも、時々女性ものを見ているととても派手な水着や大胆なビキニがずらりと並んでいる。


 こういうの着ると男の人って喜ぶのかな……

 もし、これで泉君の前に立ったらエッチな気分になって私を……キャー!


「”#$%&A!]

「どうしたの氷南さん!?」

「な、なんでもない……


 危ない危ない妄想でぶっ倒れるところだった……


「じゃあ買ってくるから待ってて」

「う、うん」


 私は、泉君がレジに並ぶ間に改めて自分の水着を見る。


 ……やっぱりこういう露出の多いのは苦手だけど……でも、アピールしないとだし、うーん……


「あの、すみません」

「はい、なんでしょうかお客様」

「これ、ください!」



 買ってしまった。

 私のバッグの中にはえちちな水着が入っている。


 家に帰ってからサプライズでこれを着て……にゃー!


「これからどうする?他に買うものあれば付き合うよ」

「だ、大丈夫。疲れたから帰ろっか」

「そうだね。じゃあ家に帰ってゆっくりしよう」

「う、うん」


 最近の私はどうもエロが先行している。

 今だって早く彼の前に水着で登場したいなんて露出癖全開な状態になってるし。


 でもどうやって着替えようか。

 誰もいないからお母さんの部屋を借りて着替えてから部屋に……うーんびっくりはするけど変態っぽいなあ。


 じゃあ今からファッションショーしまーすっていって着替えだすとか……そ、それこそ裸見られちゃう!


 うーん、やっぱり海にいくまでお預けかなあ。


 家に着いていつものように私の部屋で二人、勉強を始めることになってもずっとそんなことばかり考えている。


 ただ、チャンスとは望めばおのずと向こうからやってくるもの。


「あのさ、この水着似合いそうかな?」


 泉君がさっき買った水着のことを話題に。

 早速私もこれみよがしに水着の話をしてしまう。


 なんのためにこそこそ買ったのかなんて忘れてしまっていて、カバンから慌ててさっき買ったものをとりだした。


「あ、あの……これ、似合うかな……」

「え、買ってたんだ。う、うんすごく綺麗だけど」

「着てみても、いい?」

「い、いいけどここで?」

「や、やっぱりおかしい、かな……」

「い、いや見てみたいけど……じゃあ外でてるね」


 泉君が部屋の外に。

 こうなるともう覚悟を決めるしかない。


 私は服を脱ぐ。

 彼がドア一枚隔てた先にいるというのに裸になるのはものすごい背徳感だ。


 そして水着を身につける。


 つけてみてわかったことだけどこれ、めちゃくちゃえっちだ。


 最小限、隠すべきところを隠してくれてはいるけど水着の面積が小さい。

 こ、これは……やばいかも。


「で、できたよ」


 ただ、私の羞恥心とやらは好奇心によってどこかに吹き飛んでいた。


 私が呼んだので当然彼が部屋に戻ってくる。


「あっ……え、ええと、うん、似合う、ね」


 泉君が顔を真っ赤にした。

 私はもう全身が真っ赤だ。

 

 でも、何故か今日は服装そのままに大胆になってしまう。


 もう止められない。

 水着のまま、私は彼の方へ歩いていく。

 

 


 


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