51 甘えたいくっつきたい


「お待たせ」

「あ、うん」


 泉君、絶対昨日のこと意識してる。

 さっきから珍しく落ち着きがないし、目も合わない。


 ……ここは普通にゲームとか誘おうかな。


「あの、またオセロやらない?」

「うん、いいよ」

「じゃあ用意するから待ってね」


 緊張するー!

 今日は誰もいないっていっちゃったし、絶対変なこと期待してるって思われてるー!


 ああ、オセロを置く手が震えてる。

 泣きそう、わめきそう、漏らしそう……


「あの」

「はひっ!?」

「え、ええとオセロでそんなに緊張しなくても」

「う、うんそうだね。楽しくやらないと、だね」


 あー、泉君に話しかけられる度にビクビクする。

 もうやだよーこわいよー。


 そんな調子なので、絶好調でも完封される実力の私は三回やって三回とも盤面を真っ黒に染められた(もちろん私が白)。


「……ゲームでもする?」

「うん、そうする」


 気を遣われて今度はスーファミをセット。

 一応泉君が遊びに来た時用に倉庫にあったマリカーを探して置いていたのだけど、これがまあつかない。


「ふーっ!ふーっ!」

「昔のゲームってそうやったらつくの不思議だよね」

「うん、でも本当はやったらダメって書いてたけどでもこれしないとつかないし。ふーっ!」


 何に必死になってるんだか。

 十分くらいトライしてようやく起動した。

 そして久しぶりにやってみるとこれはこれで面白い。


「えい、えい、あーんまた三着だー」

「氷南さん上手だねー。俺、全然前に行けないよ」

「もっかいやろ。私、これ得意かも」

「よし、やろうやろう」


 初めて得意なものを見つけた。

 というより泉君に勝てるものが初めてで嬉しくてつい夢中になってしまった。


 気が付けば何時間やったのだろう。

 ゲームをしてると会話も弾むし泉君と自然に話もできて、それにお母さんたちの邪魔が入らないと思うともっと自然体になれて、ずっとこうしていたいと思うほどだった。


 しかし、私がようやく一着をとった時にはしゃいでしまい、ゲーム機を蹴って完全に画面がブラックアウト。

 そこでようやくこのゲームループから脱出することとなった。


「消えちゃった……」

「衝撃に弱いもんね。でも、楽しかったよ」

「うん、私も。またやりたい」

「そうだね……ってもうこんな時間だ。そろそろ」


 そろそろ帰らないと。そんな言葉を訊いた時の時間はもう夜中の十一時。

 高校生なら帰らないとまずい時間なのはわかる。

 

 でも、せっかくだからもう少し一緒にいたい。

 

「もうちょっとだけ、ダメかな?」

「え、うん。じゃあ家に訊いてみるよ」


 慌てて泉君がおうちの人に連絡してくれた。

 するとなんとも微妙な感じで、日を跨ぐまでに帰ればいいといわれたそうだ。


「と、とりあえずもうちょっとだけいいみたいだし何する?」

「そ、そうだね」


 チラッと時計を見るともう十分くらい経っていた。

 あと三十分ほどで何ができるか、必死に考えた結果、私は必至に頭を使いすぎて混乱していたのか彼の方に吸い込まれるように寄っていく。


「あの、泉君」

「ど、どうしたの?」

「……ちゅー、したい」

「え、う、うん」


 頭がのぼせそうだ。

 時間に限りがあるとわかって焦っているせいもあるのだろうけど、私は確実に焦っておねだりモードになっていた。


 でも、初めてではないチューは前よりも自然で、そっと触れたぬくもりが私の体に電気を流す。


 ……ずっとこうしてたい。

 そう思ってしばらくじっとしていたけど、やがてその時は終わる。


「え、ええと……」


 泉君も顔が真っ赤だ。

 私はサウナでのぼせたみたいに体が熱い。


 なんだろう、ちょっと変な気分になってきちゃった。


 も、もちろん期待しないわけでもないけど、ちょっとエッチなことならしてみたいという変な衝動に駆られて、私は彼の太ももに手を伸ばす。


「ど、どうしたの氷南さん」

「もっかい、ちゅー」

「う、うん」


 頭ではわかってる。こんなの完全に痴女だと。

 でも、私は本能とやらに逆らえそうにない。


 まあ、自分という人間は我慢ができずわがままでずぼらで欲望に忠実なお菓子むしゃむしゃ女だから、こんな気持ちいいことに抵抗をなくしてしまうのは当然といえば当然。


 彼に自然と抱きついて、しばらくその体勢のままじっとする。


 もう何分くらいこうしてるのかもわからないくらいにずっと、泉君とキスした。


 すると、彼の電話が鳴る。


「あ、ごめん……もしもし、うん、わかったよ帰るよ」

「お、怒られちゃった?」

「いや、大丈夫だよ。一応心配でかけてくれただけみたい。でも、そろそろ帰らないとね」

「そ、そうだね」


 もう次の日になっていた。

 だから今日はここまでという感じ。


 でも、見送る時に私はおうちで一人っきりという孤独感と、やっぱりその先を泉君として見たいという気持ちから、なんとも意味深なことを言ってしまう。


「あの、泉君」

「どうしたの?」


 ……


「ええと、明日も誰もいないから」

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