50 誰もいないということは
♥
アダルトなもの、えっちなものは嫌いだ。
漫画雑誌の最初にいつもついてるグラビアとかも好きじゃない。
理由は特にないけど、なんか男子って女子のことをそういう目でしか見てないのかと思うとげんなりするからだ。
でも、私は自らそんな行為を泉君に迫ろうとしていたのだから、もう立派なアダルティの仲間入りを果たしてしまったのだろう。
夜な夜なそんなことばかり考えて朝になり、日が昇るとともに眠気が襲ってきた私は布団に入って寝たら昼まで起きない自信があったのでリビングに向かった。
ココアを作って目を覚まし、クマだらけの目を何度も洗ってから髪の毛をセット。
フラフラしながらも駅に向かい、泉君と合流してから学校へ行くいつもの流れ。
でも、気まずくて今日は一言も話していない。
泉君も何も話しかけてこない。
学校に着くとそのまま彼と別れて席について爆睡。
テスト前だというのに大爆睡。
気が付けばもう昼休みが終わる頃だった。
♠
「なあ、氷南さんずっと伏せてるけど何かあったのか?」
「い、いや別に。何もないけど。いや、なかったのがいけなかったのかな」
朝からすごい顔つきで電車に乗ってきた彼女に俺は何も話しかけることができず、学校に着くや否や彼女はずっと伏せたまま起き上がらない。
機嫌が悪いだとしたら、心当たりはやはり昨日のことか。
俺が彼女の誘いに乗らず、何もしなかったから怒っている、ということなのかもしれない。
もちろん彼女だって勇気を出して提案してくれたに過ぎないだろうし、あまり誤解のないように羽田に昨日のことを話すとまるでお化けでも見たかのような顔をされる。
「お前……マジでいってんの?」
「いや、だって向こうの親もいたし」
「いやいやマジでやばいって。お前、もしかして病気?」
「なんのだよ」
もちろん甲斐性ない自覚はあるけど、病気扱いされないとダメなほどか?
「いやあ、そりゃあ彼女もがっかりだよ。ていうか何のためにお前にあれ渡したと思ってるんだ」
「お前の悪戯だろあんなの」
「違うね。俺の読み通り彼女はその気になったのに肝心のお前がそれじゃあ可哀そうったらありゃしない。あーあ、氷南さんもなんでお前なんかと付き合ったかなあ」
「うるさい。それよりどうしたらいいんだ」
「今日押し倒す。以上」
「……」
羽田のアドバイスで参考になったというか心に刺さったことなんて一個もない。
ただ、それでいてなぜか的は得ているから不思議だ。
そう、彼女の気持ちにこたえるというのが今の俺に課せられた使命なのだろう。
だから今日、彼女と一緒に部屋にいって、そこで俺は……
♥
ふにゃ……あれ、今何時?
……え、もう一時!?ご、午前中の記憶がない。
恐る恐る周りを見渡すと、いつもの様子で誰も私には話しかけてこない。
泉君は羽田君と、そして香月さんも席に座って他の子と話していたのでなぜかちょっとだけホッとした。
そして寝ぼけたまま午後の授業を受けるももちろん何も頭には入ってこず。
ようやく目が覚めてきたのは放課後になる直前。その頃にふと冷静に昨日のことを思い出して私は恥ずかしくなる。
……泉君と、あのままエッチなことしてたらどうなってたんだろう。
でも、きっと優しくしてくれたに違いない。それはわかるんだけど、私は恥ずかしさで鼻血まみれになったりしてなかっただろうか。
うっ、想像しただけで鼻血が……
あー、さすがにしばらくはそういう雰囲気はお預けかなあ。
ぼんやりと、何もないまま(ていうかほとんど寝たまま)一日を終えた。
そして放課後、泉君と一緒に帰っている時にことだった。
「今日も勉強しに行っていいかな?」
そんなことを聞かれて家に人がいないか聞いてみようと携帯をとった時、ちょうどお母さんからライムが届いた。
『明日から連休だし、お父さんと旅行に行ってくるから』
……旅行!?
え、ということは明日からしばらく家に誰もいないってこと?
「どうしたの氷南さん?」
「え、ええと……」
昨日の事があったから自粛しようと思っていたのに、なんでこんなにタイミングよく旅行に行っちゃうかなあお母さんたちも。
いや、でも今日家にくるのを断るのも不自然だし、別に誰もいないから何かしないといけないなんて決まりもないわけだし……
「い、家には誰もいないけど、大丈夫?」
「え、うん。まあそれはいいけど」
「そ、そっか。うん、じゃあいこっか」
まるで初めてホテルにでも入るような(入ったことなんてもちろんないけど)、そんな変な気分のまま私は自宅に彼と戻ることに。
……あー、ドキドキするにゃー!
♠
彼女の部屋でお菓子と飲み物を待っているところだけど、今日はやっぱりある流れだよな?
……家に誰もいない、しかも帰ってこないなんて、もうしましょうと言っているようなもの、だろう。
いや、最近羽田に毒されてそんな発想になっているだけかもしれないけど、でも彼女だって昨日は明らかに誘ってきてたし、やっぱりそういう感じになったらそのまま……
ああ、なんか考えただけで心臓が口から飛び出しそうだ。
しかし時間は待ってくれない。
すぐに彼女が部屋に戻ってきてしまった。
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