44 今日こそはと意気込んで


 今日は私、攻めます。


 というのも今朝もお母さんから「今日も泉君来るんでしょ。晩御飯外で食べてくるから頑張れー」なんて言われて冷やかされたので燃えてます。


 お父さんは出張が多いしお母さんはお友達とお出かけが多いからそれ自体は慣れてるんだけど、泉君と二日連続で家で二人きりの状況を作っておきながら何もなかったら、さすがに私は女の子として魅力に欠けるんじゃないかなんて自虐的にならざるを得ない。


 もちろん私に彼を襲うなんて度胸はないしそんなにはしたない女の子に育った覚えはありません。


 なので、向こうから私に手出ししたくなるように、今日は家着をちょっと可愛い感じので攻めてみようかなと。


 クマさんのあしらった可愛いスウェットだけど、これちょっとぶかぶかだから胸元が見えて嫌だったので封印してたんです。

 でも、ちょっとチラ見せくらいがいいんだって、昨日調べたサイトでそう書いてたし、ヤッホー知恵袋にだって「色仕掛けをして男をその気にさせるのが女の仕事」なんて書いてたし、もうすんごいヤバいことしてる気がするけど止まらないのでその作戦で行きます!


 とまあ意気込みは十分だったのだけど、そのスウェットを探すのに時間がかかり、お母さんに今日の夕方までに乾くように洗濯してとお願いするところまでに時間を要して電車を乗り遅れた私でした。



「おはよう。今日は遅かったね」

 

 学校前で泉君が待っててくれた。

 申し訳ない気持ちと、優しくて死にそうと悶える私は大した言い訳も出てこず、黙って彼について行く。


 テスト期間中はアルバイトがないので今日もおうちでお勉強。

 そのはずだったのだけど。


「ごめん、今日急遽お店に入ってほしいって連絡あって。ちょっとだけでいいらしいんだけど氷南さんどうする?」

「え、ええと、待ってていいの?」

「うん、それは嬉しいけど勉強もあるしと思って」

「うーん、カフェで勉強しながら待つ」

「わかった。じゃあなるべく早く終わらせるね」


 出鼻を早速ボキッと折られた。

 今日は泉君だけアルバイトになり、私は放課後彼を待つことに。


 しかしそれからでもうちにくることは可能だろうけど、さすがにバイトで疲れてる彼を引き留めるのも申し訳なく、その作戦は断念することに。


 だいたいなんで店長も泉君だけ呼ぶかなあ。

 私のことも呼んでくれるか、それかテスト中だから他の人にするかどっちかでいいじゃん!


 とまあ勝手に店に八つ当たり。

 でもって勝手にイライラ。


 とりあえずの目標を失った私は、テスト前だというのにボーっと授業を消化して、気が付けば何も板書をとらないまま昼になっていた。


「氷南さん、ちょっといい?」


 私のところに来たのは香月さん。

 先日の一件があったばかりだというのに今度は何の用事だろう。


「なにかな?」

「ええと、この前はごめんね。あの、そういうつもりじゃなかったんだ」


 ヘラヘラしながら謝ってくる彼女の様子は、見ていて少しイラついた。

 多分泉君に嫌われないために私に謝っているのだと、見てすぐに理解したし何か軽々しい感じがとても不快だった。


 でも、こんなのも私が今日イライラしているからそう思ってしまっているだけなのかもしれない。


 そう思うと香月さんにまで八つ当たりをかますのは悪いことだ。

 だから冷静に、普通に対応しよう。


「何が?」


 私は知らんふりを決めた。

 別に香月さんとは何もなかった。そうすることが一番だと思ったのだ。


 しかし。


「え、何がって……」

「だから、何が?」

「ええと、いえ、もういいわよ」


 なぜか彼女は怒ってどこかへ行ってしまった。

 そして慌てた様子で泉君がこっちに来る。


「氷南さん、どうしたの?」

「え、別に何も」

「そ、そう?ならいいけど」


 どうしたのだろう。

 それに他のみんなも何か慌ててる様子だけど何かあったのかな?


 不思議に思っていると泉君が「お昼に行こう」と誘ってくれたので一緒に教室をでることに。


 その後一緒にランチして、また教室に戻ってと平和なお昼休みになったのだけど、やっぱり教室の空気はどこか重かった。



「なあ、氷南さん怒ってなかったか?」


 小さな声で羽田が休み時間に話しかけてくる。

 俺もちょうどその話をしたかったところだ。


「あのさ、多分だけど本人は怒ってる自覚なんてないぞ」

「え、マジで?でもあの対応はさすがに」

「本人的には普通に対応したつもりらしい。さっきも機嫌よかったし」

「うーん、お前が言うなら間違いないか。でも、他の奴らも「ツンデレラ発動だ」とか「やっぱこええ」とか言ってるぞ」

「どうしようか……」


 このままでは彼女が悪者になってしまう。

 もちろん香月さんたちが絡んでいくことがそもそもの原因だけど、あの対応はさすがに尾を引くというか。


「羽田、お前も協力してくれ。氷南さんとみんなを仲良くさせたいんだ」

「無理じゃね?そもそもコミュ障なんだろ?」

「いや、そうだけど俺といる時は普通なんだって」

「そりゃ好きな男といたら誰でもテンション上がるって」

「……」


 好きな男と言われてなぜか俺は照れた。

 ま、まあその通りなんだろうけど。


「とにかく、今日彼女と話してまた作戦考えるから頼むぞ」

「はいはい。しかし今日こそ一発決めて来いよ」

「変なこと言うなよバカ」


 まあしかし羽田の言うことも一理ある。

 このままずっと友達みたいなまま、というわけにもいかないだろう。


 だから彼女との距離を縮めるためにも早くアルバイトを切り上げて二人っきりの時間を作らないと、だな。



 放課後になりました。

 泉君について行き、私はアルバイト先のお店で今日はお客さんとして泉君を待つことに。


 その間もちろんゲームをして……じゃなくって勉強して待とうと思ってるんだけど、参考書を開いてみてびっくり。


 自分では何もわからない。それに集中ができないので勉強どころではない。


 ……泉君、カフェの制服かっこいいなあ。

 

 じゃなくってしっかり勉強しなきゃ。


「氷南さん、大丈夫?店長が飲み物おかわりしていいからって言ってくれてたよ」

「う、うん。ありがと」


 参考書に頭を痛め、泉君を見て癒され、また目の前の書物に吐きそうになり、そんんで目の前の素敵な彼氏に癒されて。


 そんな時間が続く私だったのだけど、ちょっと不穏な感じが。


 お店に香月さんたちが入ってきました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る