43 いけない子


 夜の自室に彼氏を連れ込んでしまったいけない女子がここにいます。


 はい、私です。


「ええと、遅くなるから家に連絡だけしておくね」


 泉君がおうちに電話をかけている間もずっとドキドキヒヤヒヤ。

 もう私の頭はパンクしそうです。


「うん、問題ないって。それで、何かゲームでもする?」

「う、うん。ゲーム……ぷやぷやならあるけど」


 ていうかそんな誰でも持っているようなやつしかうちにはない。

 しかもスーファミ版。最新のゲーム機器は高い上に複雑でよくわかんないの。


 ……っていうか今ゲームしてる場合じゃない!絶対違う!


「あの、げ、ゲーム以外のこと、しない?」

「? いいけどトランプとか?」

「あっ、やりたい!七ならべ大好き」


 わーい、最近お母さんが相手してくれなくなったから寂しかったんだー。


「じゃあ配るね」

「うん、これって二人でやっても結構難しいよね」

「そうそう、ポイントは自分のカード見てどっちから進めていくかだよ」


 ……ってこれも違う!

 まったりトランプしてたら時間が過ぎちゃうよー。


「どうしたの?」

「え、ううん。とりあえず私からやるね」


 配ってしまったものはしょうがない。

 仕方なく七ならべを開始。しかしここでも私は自分の無力さを知ることに。


「あっ、ここ空いてるからジョーカー使うね」

「……はい」

「あれ、これだともう隙間ないから俺の勝ち?」

「え、ほんとだ……」


 得意だと思っていたゲームであっさり敗北。

 当然悔しくて私は再戦を希望。


「も、もっかい」

「いいよ、じゃあ今度は俺が先行で」


 よく考えるまでもなくわかりきった話なのだけど、泉君よりバカな私が頭を使うゲームで勝てるわけがない。


 この後、もちろん惨敗。

 悔しすぎてオセロに切り替えたらなんと全部埋まる前に私の陣地が真っ黒に。

 完封負けだった。


「……くやしい」

「あはは、俺も結構遊んでたから得意なんだよ。でも、コツを掴んだらすぐにうまくなるよ」

「そうかな。うん、今度教えてほしい」

「おっけー。じゃあ今日はさすがに遅くなったしそろそろ帰るね。明日も勉強頑張ろ」

「うん!」


 時計を見たらもう11時過ぎ。

 泉君を送ろうと玄関に向かっているとちょうどお母さんが帰ってきた。


「あら、帰るの?」

「ええ、遅くまでお邪魔しました」

「ふーん、その様子だと……」

「え?」

「いえ、なんでも。じゃあ今度はもっとゆっくりしていってねー」


 お母さんと見送る格好になり、玄関先で泉君と別れた後、すぐににやりと笑う母親がこっちにくる。


「ねえ、こんなに時間があったのに何もなかったの?」

「な、ないもん!」

「自慢することじゃないわよ。何してたの一体?」

「ええと、トランプとかオセロとか」

「小学生かあんた……あーあ、つまんなーい。私寝るわー」


 この母は私にどうなってほしいのだと少し首を傾げてしまう。

 普通娘が男と遊ぶことなんて反対する親が多いというのに、うちの母だけはもっと遊べといいたげ。


 まあ緩いのはいいことだけど。


 ……


「あー、何もできなかったよー!」


 泉君と夜に部屋で二人っきり。

 そんなまたとないシチュエーションを逃して今更悔やむ私だった。



「もしもし、なんだよ羽田」

「今日、彼女の家で勉強だったんだろ?どうだよ、調子は」

「今帰りだよ。まあ、それなりに順調だって」

「ほー。ということはキスくらいは済ませた感じかなあ?」

「バ、バカいうなよ。何もしてないぞ」

「え、マジで?え、怖い怖い」


 電話の先で真剣にドン引く親友の声に俺は少しムカッとする。


 いやいや、どうして男女ってそういうことがないとダメって決めつけるんだ。


「あのさ、俺たち高校生だからまだそういうのは」

「でも、そんなこと言ってたら肉食男子にかっさらわれて終わっちまうぞ」

「そ、そんなこと彼女はしないって」

「みんな最初はそういうんだけどねえ。ていうか本当に好きならそういうことされても嫌などころかむしろ嬉しいって思うもんだぜ?」


 嫌などころか嬉しい。

 これは少し目からうろこな話だ。


 てっきりそういうことに興味があるのは男だけで、女の人はあんまり好きじゃないとそう思っていたからだ。

 しかし羽田は続けて言う。


「言っとくけど女の人の方がそういうのは早いもんだぜ。男なんて子供だから、案外氷南さんも今日、期待してたんじゃないか?」


 へー、と感心はしたけどもそれでも少し疑問が残る。

 トランプやオセロで大盛り上がりする彼女にそんな大人っぽい一面はないと、そう思うのは俺だけだろうか。


 まあ、明日も家に行くわけだしちょっとだけその辺りに敏感になってみようかな。


「わかった。頑張るよ」

「いい加減童貞拗らせてると一生そのままだぞ。何事も経験だって」

「お前みたいに行くかよ。ていうかこんな時間に何してるんだお前」

「今、彼女が風呂に入ってるから待ってるところ。あっ、出てきたわ。んじゃな」


 切れた電話の画面を見ながら思う。

 ほんと世の中って乱れてるよな。


 俺は羽田の事は好きだけど、ああなりたいと思ったこともあったけど、やっぱりああはなりたくない。


 男としてはいいかもだけど、あれだと本当に誰かを好きになった時に後悔しそう……だと思うのも童貞だからなのかな。


 はあ。なんかよくわかんなくなってきたよ。

 でも、明日はもう少し積極的に行ってみようかな。


 


 

 

 

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