30 いきなりご対面?
♥
「お母さん、明日は絶対お出かけするから!」
家に帰ってちょっとした喧嘩になる。
せっかく泉君と付き合ったというのに親戚のおもてなしとかでデートを潰された恨みは大きく、珍しく反抗してみたのだ。
「何よ急に。もしかして泉君って子は毎日会わないとダメなやつ?だとしたらめんどくさい男ね」
「ち、違うもん!私が会いたいだけだもん!」
「じゃああんた、相当めんどくさい女ね」
「グサッ!」
最後のは私の心に母の言葉が辛辣に刺さった音。
そう、私はめんどくさい女なのだ。
付き合ったという事実が私のめんどくささを加速させる。
もう毎日どころか四六時中彼の顔を見ていたいという欲求が半端ないのである。
「だ、だって付き合ってすぐだから会いたいのは当然じゃない」
「そんなに飛ばしてたらすぐ飽きられるわよ。何回かしたらポイってね」
「し、しないもん!泉君は優しいもん!」
「男ってねー、最初はみんな優しいのよ。でも慣れてきたら……って高校生のあんたに話してもしょうがないわね」
一体この母の過去に何があったのだろうと思うくらいに、彼女は達観していた。
いいたいことももちろんわかる。でも、私は泉君を信じているのでもちろん母の意見には賛同できない。
「泉君はずっと優しいもん!ずっとずっと私に優しいもん!」
「はいはい。そこまで言うなら連れてきなさいよ。あんたの看病に来た時に顔は見たけど、ゆっくり話してみたいし」
「……連れてくる?」
連れてくるって泉君を?
え、それって親との顔合わせってこと?
「そ、そんなのまだ早いよ!だってそんなのは結婚する時に」
「いつの時代に生きてるのよバカ。今時彼女の親とくらい会うでしょ」
「そ、そうなの?」
恋愛なんて漫画や小説の世界でしか知らないので、実際そんなものなのかと納得してしまった私はすぐに泉君にライムを打つ。
『明日家に来れますか?母が会いたいそうです』
しかししばらく彼からの連絡はないまま。
私は返事を待つ間ヤキモキするのが嫌でお風呂に入ることにした。
♠
……氷南さんのお母さんが俺に会いたい?い、一体なんの用事だろう。
もしかして娘に手を出したのはお前かって説教されるとか?
えー、せっかく明日こそデート誘おうと思ってたのに。
でも、いつか通る道だと思えば、早く家族にも理解いただいてもらった方がいいのかな……
ああ、なんか憂鬱だなあ。でも、断るわけにもいかないし、とりあえず返事だけでも入れておくか。
♠
氷南さんから返事が来たのは夜中になってだった。
もちろん俺は眠っていて、朝目覚めてすぐにライムをみてベッドから飛び起きることとなる。
『午前中なら母がいるそうです』
それならそれと早く言ってくれよと大慌てで着替えを済ませて家を飛び出した。
自転車を漕いで氷南さんの家の前に着くと、庭で花に水やりをしている彼女がいた。
「あ、氷南さん。おはよう」
「お、おはよう……」
「朝早いんだね。ごめん遅くなって」
「だ、大丈夫。それより急に、ごめんなさい」
ペコリと謝る彼女は、すぐに家の中に俺を招いてくれる。
こうしてお邪魔するのは初めてじゃないけど、付き合った後だとなぜか緊張が以前より大きく感じる。
彼女の家。そう思うだけどなぜか変な気持ちになってしまうのは自然なことなのだろうか。
「お邪魔します」
「はーい。あら、泉君こんにちは」
「こ、こんにちは」
やっぱり彼女の親と会うというのは抵抗がある。
別に何もやましいことはしていないのだけど、相手にどう思われているか気になって仕方ない。
おばさんは俺をリビングへ案内してくれた。
氷南さんはというと、黙っておばさんについて行き、俺一人が部屋に残される。
……結構広い家だけど、お金持ちだったりするのかな?
やっぱり、ツンデレラ姫とか言われるだけあって育ちのいいお嬢様なのかも?
「お待たせ。よかったら食べてね」
おばさんがおいしそうなショートケーキを出してくれて、その後で氷南さんもやってきて俺の横に座る。
なんか結婚の挨拶みたいな雰囲気になってしまっている。
「あ、あの」
「かしこまらなくていいわよ。それより、うちの円のどこが好きなの?」
「え?」
「ちょ、ちょっとお母さん」
「あんたは黙ってケーキ食べてなさい」
「は、はひ……」
皿をもって氷南さんは大人しくケーキを頬張る。
かなり怯えているようにも見える……
おばさんって怖いのか?
「それで泉君、どうなの?」
「え、ええと……」
まだ本人にも言ってないというのに、なんでこんなことを二人の前で話さなければならないのだ。
しかし、答えによってはおばさんから「遊びなら別れなさい」とか「そんな軽い気持ちで付き合ったの?」とか言われかねない。
……ここは、ちゃんと答えておいたほうがいいな。
「お、俺は円さんのことが可愛くて仕方ないので好きなんです」
そう言い切った瞬間、隣でパリンと皿が割れる音が。
見ると氷南さんがケーキの皿を落として泡を吹いて倒れている。
「ひ、氷南さん!?」
「ま、まどか、しゃん……」
「あーあ、この子名前呼ばれて失神しちゃったわね」
やれやれといった様子で立ち上がり、おばさんは氷南さんを担ぐ。
そして部屋から出て行こうとする時に「円が目覚ますまでゆっくりしていきなさい」と言い残して行ってしまった。
つまり、しばらくの間はおばさんと二人っきり?
……嫌な予感しかしないんだけど。
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