28 夢じゃないよね?
♥
あっ、目の前に泉君がいる。
そうか、夢か。でも、夢の中ででも泉君に会えてうれしいなあ。
「氷南さん、大丈夫?」
ああ、夢の中でも泉君は優しい。
それに爽やかだなあ。いつも癒されてます。
「まだ熱あるのかな?飲み物、もらってこようか?」
……やけにリアルな夢だ。
夢の中でも私って体調不良の設定なの?
……
「えっ、泉君!?」
私は飛び起きた。
よく見ると夢でもなんでもなく、私のベッドの横に泉君が心配そうに座っている。
「ご、ごめん……お見舞いに来たらおばさんに案内されて」
「お母さんに……」
おのれ母め、覚えていろよ!
「あの、それより大丈夫?」
「え、うん大丈夫……わざわざ来てくれたんだ」
「そりゃ、だって心配だったから」
泉君は本当に良い人だなとうっとりしていたところで、昨日私は乱暴に告白して逃走してしまった事実を思い出した。
そして急に彼の顔が見れなくなる。
ささっ、と布団に隠れる。
「あ、ごめん寝起きの顔なんて見られたくないよね……」
ち、違うのそれもそうなんだけど、今すんごく真っ赤になりそうだから見せられないの……
「あの、体調戻ったみたいだし俺、そろそろ帰るね」
え、もう帰っちゃうの?
私は寝て回復したから、よかったらこの後ゲームでもしながらお菓子食べて帰ってほしいんだけど……
で、でも布団から出れない。
泉君の顔が、今は見れそうもない……
「じゃあ、氷南さん」
「……」
「あの、それとね」
「……?」
「昨日のこと、なんだけど」
「………………!!?」
私は布団からまた飛び起きた。
するとびっくりした様子の泉君が立っていた。
「ご、ごめんどうしたの」
「う、ううん……それより、昨日のことって」
「え、ええと……」
「……聞き間違いじゃ、ない、かなあ」
私は思ってもいないことを言ってしまった。
「そ、そう、だよね……体調悪い時にごめん」
「え、ええと、ええ……」
もう頭の中は完全にショートしていた。
ダメ、違うの。本当に好きって言ったの!ちゃんと好きだって、もっかいちゃんと……
「泉君、しゅっ!」
「しゅっ?」
「……ごめんなさい」
噛んじゃった。
肝心な時にどうして私の舌は働かないのだ。
「い、いや。ごめん急に変なこと言って。じゃあ、また学校で」
「あっ……」
泉君が帰ってしまった。
せっかく彼から告白のことを切り出してくれたというのに否定した上で返してしまうなんて……
茫然としているところで誰かがノックをする。
泉君が戻ってきたかと期待したが、来たのはお母さん。
「ちょっと、泉君だっけ?顔真っ赤にして帰って行ったけどあんたなんかしたの?」
「し、してないもんん!告白の返事されそうになっただけだもん!」
「え、告白?じゃああんたたち付き合ったの?」
「え、あれ?」
そういえば、私は告白してすぐ逃げただけで、付き合う云々の話になっていない。
……
「ええと。まだ」
「何よそれ。そんなんじゃすぐに乗り換えられるわよ」
「え、やだやだ!」
「わが娘ながらなんとポンコツな……。いいから追いかけてきなさい」
「で、でも病み上がりだし」
「風邪で死ぬか。さっさと行きなさいバカ娘」
お母さんなりの優しさなのだろうけど、少々口が悪いとだけ後で注意しておこう。
慌てて着替えて走って泉君を追いかけた。
しかし、元々足が遅い上に病み上がりなので体力もなく、すぐに疲れて足を止める。
なんであんなこと言ったんだろう。
あれじゃまるで私が泉君のこと好きじゃないっていってるようなもんだよ。
はあ……今から行って否定しても遅いかなあ。
もう、泉君からしたらめんどくさい女認定されてるんだろうなあ。
……あれ、ここどこ?
♥
朝と景色が違って見えるためか、迷子になった。
家からそう遠く離れてはいないはずだけど、普段通らない道を通ったせいかどこにいるのかわからなくなってしまった。
……もうすぐ暗くなるというのに人の気配もない路地に迷い込み、私は怖くなった。
そして座り込んで泣いた。
ぐすんっ……どうして私っていつもこうなんだろう。
ただ、好きな人に好きって伝えたいだけなのに……
夕方の冷たい風が吹いてきて、日が落ちていく。
怖くなり、大通りに出たけどやっぱりどっちに行けばいいかわからずまた足を止める。
近所ですら迷子になるような女を好きになんてなってくれるはずがない。
だから帰ったら諦めて、泉君にごめんなさいと謝ろう。
そして、もうこの恋は終わりにしないと……
「氷南さん!」
「えっ……泉君?」
「今、氷南さんの家に戻ってたんだ。お出かけ?」
「え、ええと……」
戻ってきてくれてた?
なんで?
「あの、ちょっといい?」
「う、うん」
なんだろう。泉君の顔が険しいけど……
もしかして、別れ話!?……ってそもそも付き合ってもないってバカチン!
で、でもそれじゃあどうしたのかな?
やっぱり私のこと、うざいとか思ってたり……
「あの、いいかな」
「ひゃっ……はい」
「……俺、氷南さんが好きだよ」
「そ、そう……うそ!?」
びっくりするくらいの大きな声が出た。
え、聞き間違い?何が好きって?
「あ、あの、今なんて?」
「氷南さんが好き、なんだ。迷惑かな?」
「……」
「あ、あの?」
あれ。どうしたんだろう私。嬉しすぎて泣きそうなのに身体が動かない。
「ひ、氷南さん!?」
意識が……
♥
「……う、ん」
「よかった目が覚めた。大丈夫?」
「へ? ここは……」
「公園だよ。いきなり泡吹いて倒れちゃったから救急車呼ぼうとしてたところだったんだ」
よく見るとそこは、以前私が迷い込んだゾウさん公園。
そして私は泉君の膝の上に頭を置いて寝ていた。
「ご、ごめんなさい」
「い、いきなり動いたら危ないよ。それに、俺はちっとも嫌じゃないから」
泉君は、飛び退いた私に優しく微笑みかけてくれる。
そして。
「急に変なこと言ってごめんね。でも、俺は氷南さんが好きなんだ」
夢じゃなかった。
泉君が私のことを好きだと。そう言ってくれた。
二回目なので卒倒したりはしない。
でも、代わりに嬉しさがこみあげてきて涙が。
「う、ううっ……」
「ど、どうしたの?」
「う、嬉しくて……わ、私も……いじゅみきゅんがしゅき!」
鼻水でぐじゅぐじゅだった。
活舌も崩壊していた。
でも、そんな情けない私を彼は優しく受け入れてくれる。
「よかった……あの、俺と付き合ってくれる?」
「……ひゃい」
「あの、これ使って」
泉君がハンカチを渡してくれた。
涙を拭けという意味だったのだろうけど、思わず鼻をチーンとかんでしまう。
「しゅんっ……あっ、ごめんなさい!」
「あはは。氷南さんってやっぱり可愛いね」
「きゃ、きゃわっ!?」
「ひ、氷南さん!?」
またひっくり返ってしまった。
今日はよくぶっ倒れる日だと、綺麗な星空を見上げながらそんなことが走馬灯のように頭を駆け巡る。
でも、今日は人生で最高の日になった。
好きな人に好きって言われるのって、こんなに嬉しいことなんだと知った一日、でした。
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