26 たまにはご褒美を


 腕も痛いし眠たいけど、せっかく泉君と二人でお出かけなんだからもう少しだけ一緒にいようと頑張っては見たけれど……


 座った途端にすんごい眠気が……


 昨日の寝不足と体力の消耗で私は限界が近づいてます。

 カラータイマーが点滅してます。もう少しで活動限界です。


 ううっ。でもせっかくファミレスきたからドリンクバーを楽しみたい。

 私の夢はと訊かれたら、部屋にドリンクバーをつけることですと答えたいくらいに大好きなんです。


 それにファミレスのポテトも食べたいなあ。アイスもいいなあ。


「注文しようと思うけど、決まった?」

「え、うん、まあ」


 どうしよう。なんも決まってないよう。

 うーん、あんまり頼みすぎると図々しい女だと思われるし、そもそもどれだけ食うんだって思われるから、やっぱりアイスは諦めようかな。


 迷っているうちに店員さんがやってくる。


「ええと、ハンバーグセット一つと……氷南さんは?」

「え、あの、うーん……ポテト」

「じゃあポテトで。それだけでいいの?」

「え、ええと……あと、唐揚げと、アイスも。あとドリンクバーも」

「じゃあそれでお願いします」


 頼みすぎてしまったと思った時には既に店員はおらず、泉君の「飲み物取りにいこう」という笑顔だけがそこにあった。


 でも、せっかくのドリンクバーを満喫しようと泉君について行くと、彼はコーラを選択していた。


 ゴクリッ。


 何を隠そう、実はコーラが大好き。

 ポテチパクーッ、コーラグビーッ、というのが私の至福なのだけど、痩せたくてここ一年ほどコーラとは縁を切っていた。


 禁酒ならぬ禁コーラである。


 でも、泉君のコップからシュワワッと炭酸の音が聞こえると、やっぱり飲みたくなる。

 でもでも飲んじゃうと止まらなくなる。

 どうしよう……


「あんまり気に入った飲みものなかった?」

「え、ううんそういうことじゃないけど……」


 うーん。先に席に戻っててほしいけど待ってくれてるし、早く決めないと。


 コーラ……うん、今日だけ。今日だけはいいよね。


 先に言い訳をしておくけど、別に意思が弱いわけではなくて実際に一年間やりぬいてダイエットに成功したんだから、今日はご褒美ってことで飲むだけだから。


 ジャバジャバっと出てくる黒い液体を見ながら私は、少しだけ笑っていたと思う。

 多分、周りから見ればかなりおかしい人に見えたと思う。


 でも、無事にコーラをゲット。


 席に戻ると、まず一口。


 ……うまい!


「ぷはーっ」

「お、おいしそうだね。コーラ好きなの?」

「うん。大好き!もう炭酸とお菓子があったらいくらでも……あ、ごめんなさい」


 ついテンションが上がってしまった。

 恥ずかしいしはしたない。


 ぷはーとか言ってしまった。


「お待たせしました、ポテトです」

「はい、私私!」


 ポテトだー!

 わーいわーい……じゃなくて。


「ご、ごめんなさい」

「ポテト好きなんだね。俺も一口もらっていい?」

「も、もちろん。うん、いいよ」


 普段なら、他の人になら一本たりともあげたくはないけど、泉君は特別。

 むしろ彼とポテトをシェアできるなんて興奮する。


「うん、おいしいね」

「うん」


 あー、ご馳走様です。

 泉君のさわやかスマイルでお腹いっぱいです。


 ていうかよくよく考えたら、こうしてファミレスで二人でご飯食べてるのって、周りから見たらカップルにしか見えないよね?


 この状況を泉君はどう思ってるんだろう……



 周りからみたら俺達って、やっぱり付き合ってるように見えるのだろうか。


 この状況を氷南さんはどう思ってるんだろう。


 でも、こうして二人でいることを嫌がらないってことは、俺のことをそれなりにいいって思ってくれてる証拠なのかな?


 ……ポテトとコーラにだけ反応を示すけど、それ以外はやっぱりいつものクールな彼女だから、実際のところがよくわからない。


「あの、ボウリング嫌じゃなかった?」

「え、うんなんとか。苦手だけど」

「そっか。今度は別のことしよっか」

「う、うん」


 しまった。何勝手に次もある前提で話を進めてるんだよ。


 彼女だってそんなことを勝手に決められたら図々しいとか思うに決まってる。

 ……まあ、ポテトでさっきの会話がリセットされたみたいだからよかったけど。


 むしゃむしゃとポテトや唐揚げを小動物のように食べる彼女を見ていると、自分の中の気持ちがどんどん高まっていくのがわかる。


 やっぱり彼女の事が好きだ。


 だから食べ終わってから、場所も雰囲気もないかもだけどここで、彼女に気持ちを伝えよう。


「ご馳走様でした」


 氷南さんがちょうど食事を終えた。

 それと同時に緊張が勝手に走った。


「……もう一杯飲み物とってくるよ。氷南さんは?」

「私は、まだ大丈夫」

「そ、そう」


 落ち着け俺。

 別に好きだと言われても嫌な相手からじゃなければそんなに悪い気もしないだろう。

 だから飲み物を持って帰って、そして……


「お待たせ氷南さん……氷南さん?」

「すー、すー」


 ……寝てる。

 座ったまま、気持ちよさそうに眠ってしまっている。


 ……今日はお預けか。

 でも、寝顔もやっぱり可愛いな。


「好きだよ、氷南さん」


 言えなかった言葉を口にする。

 もちろん彼女は聞いてないのだろうけど。いや、聞いていないからこそ言えるような、そんな度胸のない俺だけど、やっぱり君が好きだよ。


 しばらく彼女の寝顔を見つめながらジュースを飲んで、やがてあたりが暗くなってきたころに彼女が目を覚ましたので、一緒に帰ることにした。


 


 

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