25 はしゃいじゃいます


 どうしよう。帰りたい、消えたい、死にたい……


 私の運動音痴が泉君にバレてしまった。

 しかもひどいとかのレベルを超えてしまってる。

 あんなに私のガーターをずっと見つめられるとさすがにメンタルが……


 もちろん二本目もガーター。もうそこは触れたくもない。


「やったー、ストライク!泉君、見てたー?」

「あ、ああ。うまいなあ」

「羽田、次頼むよー」


 も、盛り上がってる……

 しかも香月さん、めちゃくちゃ上手じゃん。

 きっと泉君も、私なんかより香月さんとチーム組みたかったって思ってるだろうなあ。


 あー、なんでボウリングなの。せめてカラオケ……もダメだ、私アニソンしか歌えないよう……


「氷南さん。次、氷南さんの番だよ」


 また私の出番だ。

 見上げると、今度は泉君がスペアをとっていたというのに、何の声もかけてなかった。


 そんな私の代わりに香月さんが「泉君すごいね。今度教えてよ」とか言ってる。

 このままじゃ私、空気をぶち壊すだけで終わっちゃう……


 よし、今は楽しむんだ。下手でも笑われてもどうにか投げ切ってやる。


「私、やる」

「う、うん。頑張って」


 メラメラと闘志が。

 そしてボールを持つと真っすぐにピンを睨む。


 ……あれ、どっちの足から出すんだっけ?


 あ、足が動かない。ボールが重くて重心が……


「氷南さん、頑張って」


 泉君が応援してくれてる。

 で、でも私どうしたらいいんだろう。また、ガーターになったら……


 いや、恥を忍んで両手で真ん中に転がしたらいいんじゃないかな?

 うん。無理に片手で投げようとするから変な動きになるんだ。


 よーし。


「うーん、えいっ!」


 がたんと地面にボールが落ちて偶然にも真ん中を転がり始めた。


 おおっ! とみんなから声が漏れる。

 私もゆっくり転がるボールの行方を固唾を飲んで見守る。


 いけ、いけ、いけー!


 そのままゴロゴロと、撫でるようにボールがピンを倒していきなんと八本も倒れた!


「キャーっ!」


 思わず飛び跳ねてしまった。

 ファミリーレーンを使わずにピンを倒したの初めてかもしれない!


「やったー!泉君、やったー!」

「お、おめでとう氷南さん。すごいじゃんか」

「うん、なんか真ん中に行ったの!いい感じだったの!」


 嬉しくて興奮が冷めやらず、泉君に駆け寄る。

 そしてハイタッチ。さらには抱きつこうとしてしまったところで我に返る。


「あっ……ごめんなさい、はしゃいじゃって」

「あはは、いいよいいよ。でも、氷南さんもそうやってはしゃぐんだね」

「……変かな?」

「全然。その方がいいよ」


 その方がいい。そう言われて私は調子に乗る。

 たかがボウリング、されどボウリング。これはいい感じだと気分よく二投目を思いきりガーターするが、全然平気。


 どうだと言わんばかりに香月さんの方を見る。

 でも、香月さんはふんと鼻で笑う。


 ……むきー!


「泉君、次私がストライクとったらジュース買いに行こうよ」

「え、う、うん」


 香月さんが仕掛けてきた。

 羽田君が「俺も俺も」と言って間に入ってるけど、香月さんは邪魔そうに彼を押しのけていた。


 ……負けない。私、絶対負けません。


「わ、私も」


 ストライクなんてこの先何百回投げても無理だと思うけど一応立候補。

 香月さんと二人っきりにしたらまた何するかわからない。


「じゃあみんなで勝負だね。なんか最初の賭けどこ行ったって感じだけど」


 泉君はこういう時も対応が爽やか。

 うん。かっこいい。


 でも、肝心な時に結果を残せないのが私のポンカスたる所以。

 さっき掴んだコツなんてボールと一緒にどこかに行ってしまったようで、そこからはガーターを連発。

 気が付けば大差で私たちは負けていた。


「惜しかったね氷南さん」

「……悔しい」

「いい時もあったし練習したらうまくなるよ」

「うん。頑張る」


 泉君の優しさ成分で回復してはいるが、腕はパンパンで上がらない。

 足もへとへとで膝が笑っている。

 もうクタクタ。帰って寝たい……


「じゃあもう一ゲームやるか?」


 羽田君の悪魔の囁きが。

 こんな疲れることをもう一回やったら私、三日は寝込むよ?


「氷南さん、どうする?」

「ええと……今日はもう」

「そっか。だそうだから、俺は氷南さんを送るよ」


 そう言って泉くんは疲れている私に手を貸してくれた。

 そのまま二人で受付に行こうとすると、羽田君が。


「頑張れよ」


 そう言ってまた香月さんのところへ。

 見送りに何を頑張るのだろうかと、首を傾げる私に泉君は「気にしなくていいよ」と意味深なことを言う。


 ……?


 なんだろう。私を見送るのってそんなに大変な作業なんだろうか。

 ちょっと失礼しちゃう。


 ……このまま帰るのはいや、かな。



 羽田の奴、うまく香月さんと別れるタイミングを作ってはくれたけど全然アシストないじゃないか。


 これじゃあいつも二人で帰ってる時と変わらない。

 どうやってこの後告白なんてすればいいんだ?


「お疲れ様。疲れたでしょ、何か飲む?」


 とりあえず会話をしながら雰囲気を作ろうと、出口辺りの自販機でジュースを買う。

 氷南さんはひどく疲れた様子だし、今日はさっさと帰った方がいいかもしれない。

 こんな時に急に告白なんて考える余裕もないかもだし。うん、そうしようかな……


「じゃあ、帰ろっか」

「うん。でも、せっかくだから……どこか行かない?」

「え、でも疲れてるんじゃ」

「……ダメかな」

「そ、そんなことないよ。じゃあ、帰り道でファミレスでも寄ろうか」

「う、うん!」


 意外なことに氷南さんの方から誘いが。

 弱気になっているところで、今日がチャンスだと神様が言っているようなタイミングでの誘いに俺は、もう一度気持ちを高める。


 ……やっぱり今日、氷南さんに告白しよう。

 

 さっきの笑って喜んでた氷南さん、最高に可愛かった。

 ちょっと疲れてしょんぼりしてる彼女も、やっぱりそれでもかわいいし守ってあげたくなる。


 やっぱり好きだと、そう一言伝えるだけだ。

 それでだめならもっと頑張ればいい。


 よし。チャンスはファミレスで、だな。

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