24 ライバル再び
♥
うとうと、むにゃむにゃ、ぐーぐー。
今日はずっとこんな感じで学校を終えた。
半日眠ったおかげで放課後になる頃にはようやく目が覚めてきたけど、代わりに頭がぼーっとする。
こんな状態で泉君とお出かけなんて大丈夫かなあと心配していても何も待ってはくれない。
彼が私を誘いに来てくれる。
「氷南さん、いこっか。羽田は先に現地に行ってるって」
「う、うん」
わーい泉君とデートだー!なんて喜ぶのもつかの間。
ボウリングという恐怖が私を包む。
「……泉君はボウリング得意?」
「うーん、普通かなあ。氷南さんは?」
「わ、私は苦手……かな」
「まあ愉しんだらいいんだし上手い下手は気にしなくていいって」
泉君は優しいからきっとそう言ってくれると思ってたけど、でもでもあんまり下手すぎて空気壊したりしないか心配……
でも、もしかしたら下手な私を見かねて泉君が直々に教えてくれる展開とかあったりするかも?
そ、そうなったら密着してイチャイチャボウリングなんて夢の展開が!?
……ちょっと楽しみになってきたかも。
単純な私は勝手に変な妄想を張り巡らせて一人でテンションをあげる。
でも、歩いて十分くらいのところにあるボウリング場の前で待つ羽田君の隣にいる女の子をみて私のテンションはまた下がる。
「えっ、香月さん?」
泉君も驚いているので、どうやら知らなかった様子。
ということはただの偶然なのだろうけど、今日のダブルデートのお相手はなんと香月さんである。
……うわー、いやだよー!
「おつかれさま泉君。それにツン……氷南さんも」
「お、おつかれ、さま……」
今私の事、ツンデレラ姫って呼ぼうとしてたな。
ていうか誰がネーミングしたんだと思ってたけどもしかして発案者は香月さんなんじゃ……
なんかこういう明るい人って、昔私をいじめてた人たちに似てるというか、だから苦手なんだよなあ。
「じゃあ行こうか」
羽田君と香月さんが先に中へ。
続くように私と泉君も、ゆっくりとついて行くのだけど、私だけじゃなく泉君も足取りが重い。
……なんか楽しめる空気じゃない気がする。
♠
「おい、なんで香月さんなんだよ」
トイレに行った時にまず羽田にクレームを。
当たり前だ。俺がフッた相手を連れてくる時点でどうにかしてるというのに……と怒ったところで、羽田に香月さんとの話をしてなかったことを思い出す。
「なんでだよ、お前たち仲良さそうだからさ。それに香なら空気読めるから」
「それは本当だろうな。くれぐれも邪魔しないようにしてくれよ」
「わかってるって。香にも今日のダブルデートの意図は伝えてるから」
つまり俺が今日、氷南さんに告白しようと思っていることを香月さんも知っているというわけだ。
ならば余計に不安しかない。きっと邪魔が入るに違いない。
受付を済ませてから、ボールを持ってレーンの前へ。
しかしこの時すでに氷南さんの様子が少しおかしい。
「どうしたの?ちょうどいいボールがないとか」
「ううん……ええとね……」
「女性用ってこの辺かな。それより軽いのだと子供用だし」
「う、うん」
そんなに拘らなくてもいいのにと思いながらも彼女のボール選びに付き合っていると、羽田達に催促されたので慌てて戻ることに。
彼女もとっさに目の前のボールを手にしたが、すごく辛そうだ。
「持とうか?」
「だ、大丈夫……慣れないと」
「そ、そう」
もしかしてボールが重いのかな?氷南さんは華奢だし非力そうだから、もっと軽いボールの方がよかったとか。
でも、また無言で席についてジッとする彼女にそれ以上の声かけはできず、早速ゲームが始まってしまった。
「泉、チーム戦で賭けしようぜ」
「賭け?ジュースくらいならいいけど」
「よし。じゃあ俺と香で、泉と氷南さんのチームな」
羽田がどや顔を向けてくる。
こういう作戦でどうだと言わんばかりだが、さすがに手馴れているというかこういうことの頭の回転は速い。
言われた通りにチームに分かれ、俺と氷南さんは同じレーンで投げることとなる。
「頑張ろうね氷南さん」
「う、うん」
「まず俺から投げようか?」
「う、うん」
「じゃあ行くね。うまくないけど許してよ」
「う、うん」
壊れた機械みたいに相槌を打つだけになってしまった。
緊張してるのかもしれないから、俺が適当に投げたら安心するかも。
そう思ってストライクを狙うわけでもなく気軽にポイっとボールを投げたら、意図せず真ん中に行って、ストライクが出てしまった。
「あら」
「お、やるじゃん泉」
「泉君うまーい。さすがねー」
隣の二人がうんうんと。
羽田はその調子だと言いたげに目線でエールを送ってくれるが、香月さんはそういうわけでもなさそう。
無駄に俺に絡む機会を作ろうとタイミングをはかっているようにも思えるのでさっさと席に戻る。
「ストライクでちゃった」
「す、すごいね……泉君、上手だね」
「ま、まぐれだよ。それより氷南さんの番だよ」
「う、うん」
ゆっくりと、まるで戦場に向かうように重い足取りで彼女はゆっくりとレーンの前へ。
そしてボールを両手でもって、真っすぐピンを睨む。
後ろから見ていても凄い気迫だ。集中している。
そして……ボールを投げない。
ていうか動かない。
「ひ、氷南さん?」
「……」
固まってしまった。
羽田達も何かあったのかと心配そうに見つめるが、彼女は微動だにしない。
どういう状況かはわからないが、とにかくこのままだとまずい気がして、俺は彼女の元へ。
「あの、氷南さん」
「ひゃっ!?」
「ええと、気にせず投げていいと思うよ」
「う、うん。わかった……」
ようやく彼女が動き出した。
小さな歩幅でちょこちょこと助走して、両手でボールを「えいっ」と離す。
するとすぐにガーター。
さらにボールが遅すぎて止まりそうになるのを、皆が息をのんで見守る。
彼女のボールがピンの向こう側に消えるまでに何分経ったのだろうかと思うほど、ゆっくりとボールは前へ進み、やがてボールが落ちたことを確認すると全員からほっと息が漏れた。
「お、惜しかったね。次は大丈夫だって」
「……」
真っ赤という表現を通り越すほどに赤く、沸騰しそうな氷南さんは無言で席についてしまう。
……この雰囲気でずっと行くのか?
いや、俺が空気を変えなければ……でも、どうやって?
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