23 優しさにキュンします


 お母さんと話したことを思い出しながら一人で部屋のベッドで悶えているのは私、氷南円。


 泉君、私のことどう思ってるんだろ……


 今まで考えないこともなかったというか、むしろそんなことばかり考えてはいたけど、でも目の前のことで精一杯だったからそこまで気になることもなかった。


 それでもこうして泉君とちょっと仲良くなってみて、やっぱり付き合いたいって欲が大きくなっている自分がいることに気が付いてしまった。


 部活もアルバイトも、行きも帰りも一緒でクラスも一緒。

 やれることはやってると思うけど、これでもし泉君が私のことを何も意識していなかったら……やっぱりストーカーじゃん!


 あうぅ……ライムで聞いてみようかな。

 い、いや急に同級生から『私のことどう思ってる?』とかライムきたら普通怖いよね?


 うーん……やっぱりもっとアピールしないとダメなのかなあ。



 ……一睡もできなかった。

 どうしよう、今頃になって眠気が襲ってきてるのにもう起きる時間だ。


「円、さっさと朝ご飯食べにきなさい」


 お母さんの声が響く。

 でも眠い。今更眠い。


 泉君に告白するシチュエーションや、逆に告白される状況を妄想してたら眠れなかったので今日は学校休みますとか、通用しないかな……


「早くしなさい……って起きてるならさっさと着替えなさいよ」

「お、お母さん勝手に部屋に入らないでよ」

「起きないのが悪いの。また学校サボったら小遣いなしだからね」

「ひう……わかりました」


 渋々部屋を出て洗面所へ。

 ひどいくまだ。目が死んでる。


 それに徹夜したせいか顔に精気がないというか、もうお化けみたい。


 ……絶対授業中寝るやつだ。

 寝てて先生に怒られてチョーク投げつけられてみんなにクスクス笑われるやつだ。

 昼休みもそのまま眠ってて起きたら授業始まっててお弁当食べられないやつだ。


 あー、学校行きたくないー!



「おはよう氷南さん」

「おはよう……」


 今日はいつもより元気のない様子だな。

 眠そうだし、夜まで勉強でもしてたのかな。


「あの、眠たかったら寝てていいよ。着いたら起こすから」

「うん……じゃあちょっとだけ」


 そう話すとまるでの〇太君のように瞬時に眠りにつく。

 相当眠かったのだろうなと、その可愛い寝顔を少しだけ拝見しようと横を見ると彼女が俺の肩にもたれかかってきた。


 トスンと、彼女の小さな頭が当たると少しドキッとした。

 向かいのサラリーマン風の人は、微笑ましいと言わんばかりにこっちを見ているし、同じ電車に乗り合わせた学校の連中からの視線も感じる。


 ……これは俺に心を許してくれているという解釈でいいのだろうか。

 ただ眠たかっただけにしても、嫌な相手にならここまでしないだろうし。


 やっぱり氷南さんの気持ちが知りたい。

 俺のことどう思ってるか、告白しないと訊けないしそもそも男なのに彼女の方から告白されるのを待つというのも解消のない話だ。


 ……今日のダブルデートで、羽田にうまく流れを作ってもらおう。



「着いたよ氷南さん」

「……はっ!私、寝てた?」

「うん、ぐっすり」

「……ごめんなさい」


 私、よだれたらしたりしてないかな?

 ていうか今、泉君にもたれかかってたよね……


「あの、重くなかった?」

「全然。俺でよかったらいつでも使ってよ」


 キュンッ!

 キュンキュン!


 私の胸は泉君の優しさでいつもキュッとなります。

 多分私の半分は彼の優しさで出来てます。


 昨日お母さんと話したこともあったせいか、今日は余計に彼にキュンキュンしてしまい、学校に着く頃には心拍数が上がりすぎて鼻血が出そうだった。


「おーい二人とも、今日はよろしくね」


 は、羽田君だ。

 もう。仲いいのは知ってるけど私といる時くらいは遠慮して……って今日はよろしく?何のことだっけ。


 ……あっ!今日羽田君たちと遊びに行く日だった!


「ああ、よろしく。で、どこに行くんだ?」

「とりあえずボウリングでいいだろ。それからどうするかはノリで」

「お前らしいな。まあ俺は企画するの苦手だし任すよ」


 ボボボ、ボウリング!?

 私、お母さんと一回行ったことあるだけなんだけど……

 しかも重くて大人用が持てないから、指の穴がいっぱいある子供用しか使えないんだけど。


 ていうか、ファミリーレーンつけてもらえるよね?じゃないと全部ガーターなんだけど!


「氷南さん、いいかなそれで」

「う、うん……」


 しまった、返事しちゃった。

 えー、どうしよう。私一人だけ小学生みたいなことしてて笑われないかなあ。


「じゃあ泉、また後で」

「そういえばもう一人来るって、誰なんだ?」

「それがさ、三人くらい来たいって言われてて困ってんだよ」

「相変わらずだなお前……」


 羽田君ってモテるんだなあって思っていると、彼が最後に


「一番空気読めそうなやつにしとくよ」

 

 と言ってどこかに行ってしまった。

 空気を読む? 何のことだろう。


「ひ、氷南さん。俺たちも席にもどろっか」

「う、うん」


 今日の放課後のダブルデートのことを考えると少しだけ目が覚めた。

 でも、席に着くとすぐに眠気が襲ってくる。


 先生の話が子守歌のように聞こえ、いつの間にか意識は遠く彼方へ。

 でも、誰も何も言っては来なかったようで、気が付けば三限目。国語の教科書を置いたまま英語の授業を受けている私だった。

 

 

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