19 舌がなめらか?

 

 人生で初めて告白されてしまった。

 いや、なんであの香月さんが俺を?


 どういうわけか知らないけど、あんなかわいい子が俺の事を好きだなんて正直まだ信じられない。

 ていうかあっさり断ったけど、怒ってないのだろうか?

  

 でも、俺は氷南さんが好きだし彼女以外の子と付き合うなんて考えられないからあれでよかったのだと思うけど……


 あれ? 氷南さん、もしかして俺と香月さんの会話を訊いてたんじゃ?


 いや、もし違ったらそれこそ何か聞かれてまずい話でもしてたのかと疑われかねないし、こっちからその話はできない。


 でももし訊いてたとしたら、俺が氷南さんのことを好きだって、さすがに気づいてるよな。

 ……そうだとしたら放課後気まずいな。

 うーん、どうしたものか。


 授業中ずっとそんなことで悩みながら氷南さんの方を見るけどいつものように窓の外をボーっと眺めているだけだ。

 代わりに香月さんの方が俺のことを時々見てくるのがわかる。


 フラれたというのに、どうしてそんなに明るいんだ?

 もしかして気持ちを伝えてすっきり、みたいなことなのだとしたら別にいいんだけど、なんか嫌な予感はする。


 ……放課後が不安だなあ。



 なんか今日は泉君の視線を感じる。

 うん、絶対私のこと見てる。だから私、そっちを向けません!


 ……もしかして、告白を盗み聞きしてたこと勘ぐられてるんじゃないかな。

 だとしたら絶対怒ってるよね。ストーカー女め!とか思われてるよね?


 あうう、せっかく放課後は頑張ろうと思ったけどこれじゃあ何もできないよ。

 放課後、憂鬱だなあ。



「氷南さん、部室行こうよ」

「う、うん」


 今日は彼女の持ってきたお菓子を食べながら読書をする約束だ。

 香月さんもさすがに気まずいのか近づいてこないし、今日は彼女とゆっくり話せそうだ。


「お菓子、明日は俺が持ってくるね」

「い、いいよ別に。私が勝手に持ってきただけ、だし」

「もらってばっかりじゃ悪いから。好きなものとかある?」

「ええと、よっちゃん」

「よっちゃん……」


 渋いなあと思ってしまったけど顔に出てなかっただろうか。

 いや、おいしいけど彼女って酸っぱいのもいける人なのか?



 よっちゃん……じゅるっ、あっ、よだれが。


 ってダメ―!全然可愛くない!

 もっと、マカロンとかパンケーキとか女子が好きそうなものを答えないといけないのに、なんでよっちゃん?


 うーん、この流れをどうやって挽回しようか。


 ちなみに大好きベスト三は「よっちゃん」「ぷくぷくたい」「ポテトフライ チキン味」だから、私ってすんごくお安くあがる女子だよ?


 高級スイーツとかおしゃれなパスタとかより、そんな駄菓子与えられたら喜ぶ女子だから、いかがですか……ってダメだ―!


 うーん、どうしよう……と、とにかく、今日は泉君とたくさん喋るって決めたんだし、駄菓子繋がりでも何か話題を……


「ええと、うまい棒、何味が好き?」

「え? うーん、サラダかな」

「そ、そうなんだ」


 え、ほんと? ほんとにほんと? 私と好み被った!

 これは……やっぱり運命かな?


「あと、好きなお菓子ある?」

「ええと……俺はたい焼きの奴好きだよ。チョコ味でおいしいよね」

「う、うん」

 

 え、ほんとに? めっちゃくちゃ好みが合うんだけど!

 きゃうー、これは絶対に付き合ったら楽しいやつだー!


 うんうん、なんかテンション上がってきた!



 なんか氷南さんが喜んでる様子だけど、あれでよかったのかな?

 彼女のカバンから見えるお菓子を順番に答えてみたけど、やっぱり好きなものばっかり持ってきてたんだ。


 ……でもせっかく彼女が話題を作ってくれてるわけだし、もう少し話を広げよう。

 ちょうど部室に着いたし、彼女とここで一気に近づくチャンスだ。


「じゃあ、せっかくだし食べようよ。お腹すいちゃった」

「うん。ええとね、甘いのとしょっぱいのとあるけど」

「じゃあ甘いので。氷南さんのカバンってお菓子いっぱい入ってていいね」

「そ、そうかな……」


 褒めたつもりだけど、ちょっと複雑な顔されたな。

 もちろんカバンにお菓子ばっかりというのもどうなんだという話だけど俺は可愛くていいと思っている。

 

 澄ましているようで、実はお菓子が好きだったりラノベが好きだったり迷子になったりとドジな一面を見せる彼女もまた、俺は好きなのだ。


 でも、彼女はそれを隠したいのか一向に見せようとはしない(見えてしまってはいるけど)


 本人のプライドもあるから言えないけど、もっと俺の前ではそういう一面を見せてくれてもいいのにな、なんてひそかに思っているこの思いは、いつになれば彼女に伝わるのだろうか。


「いただきます。うん、やっぱりお菓子ってうまいね」

「うんうん、わかる。美味しいよね」

「でも本当に好きなんだ。やっぱり駄菓子専門店には一度は氷南さんと行って、何がおすすめかとか聞かないといけないね」

「任せて。私、詳しいの」

「うん、楽しみにしてるよ」


 ……って、なんか違和感。

 いやいや、今日めっちゃ氷南さん饒舌じゃね?


 なんか違和感一切なく話せたのって、これが初めてかも。

 も、もしかして駄菓子の話とかだと普通に話せるのか?


「あの、そういえば今日読む本のことだけど」

「あ、ええと……何?」


 急に対応が変わった。

 いつものようになんて言ってしまうと失礼だけど、冷たい雰囲気の彼女が舞い降りてくる。


 ……話題を戻してみよう。


「あの、プ○ングルスなら何味が好き?」

「私は絶対サワークリームオニオンだよ。それ以外はダメ。絶対にあれ一択だよ」

「そ、そうだよねわかるわかる」

「あっ、なんか食べたくなっちゃった。帰りに買いに行ってもいい?」

「い、いいよ」


 な、なるほど。得意分野の話は普通にできるんだ。

 となると……彼女の好きなものをもっと探せば、どんな話をしていても明るい彼女でい続けてもらえる可能性が高いというわけ、か。


 そうと決まれば。今日は彼女の好みを探る日にしよう。

 

 本を片手に嬉しそうにお菓子を頬張る彼女を横目にこっそりと携帯で『女子 好み』と検索しながら彼女に話題を振ってみることにした。





 

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