16 やめられないとまらない


 緊張するなぁ。女の子が部屋に来るなんてもちろん初めてだし、そもそもこんな平日に学校をさぼって同級生の女の子を家に連れ込むなんて、すごく悪いことをしている気分になる。


 ……エロ本、ちゃんと隠してるよな?


「あの、お茶持ってくるから待ってて」

「お、お気遣いなく」


 彼女を部屋に案内してから飲み物を取りにリビングへ。

 しかし緊張しているのは俺だけではなさそうだ。

 

 ……なんでまた俺の家に来たいなんていいだしたのだろう?

 もしかして、彼女も何か期待して……るわけがないよな。

 そんな早とちりで彼女に襲い掛かってみろ、二度と口をきいてくれないどころか俺は学校でもヤリチン扱いされてしまう。


 いや、まぁ他の連中の評価とかは別にいいとして、やっぱり彼女に嫌われるようなことだけはしてはいけない。

 冷静に、だ。うん、きっと彼女も行く宛てがなく、でも遠出も面倒だから俺の家を選んだってくらいだろう。



 はうう……泉君の部屋、なんかいい匂いがする。

 だ、だめだめそんなはしたない! ……でも、このクッションとかって泉君がいつも使ってるやつ、なのかな?

 ちょっと気になる……だめだめ、そんなこと考えたら変態だよ!


 ううっ、早く戻ってきて。そうじゃないと私、なんかこの部屋を物色しちゃいそう。


「おまたせ」

「あっ、うん」

 

 あー、よかった。

 もう少し戻りが遅かったら私、あのクッションを顔に当てて匂い嗅いでたかも……


 そんなとこ見られたら絶交だよね。ていうか気持ち悪くて追い出されるよね。

 うん、やらなくてよかった……


「あの、ゲームなんだけど」

「う、うん」

「俺、対戦ゲームって格闘系しかないんだけど、いいかな?」

「い、いいよ。私も格闘系しかしない」

「そ、そうなんだ。意外だなぁ」


 嘘です。格闘系とか指にまめができそうで、何回かしかしたことないです。

 それに昔、必死に技を出そうとしてゲームセンターのスティックを折って怒られて以来トラウマだし……


「あと、お菓子食べてね。俺はポテチはコンソメ派なんだけどよかった?」

「う、うん。コンソメしか食べない」

「そ、それも意外だなぁ」


 これはほんと。私うすしお食べません。

 ……泉君と舌が合うとかすんごく嬉しい!なんか味の趣味が合う二人ってうまくいくとかどこかの占いサイトに書いてたような気がするし!


「いただきます」

「うん。じゃあ準備するから待っててね」


 なんか感無量。泉君の部屋ってすごく片付いてるし空気綺麗な気がするしとっても居心地がいい。

 しかも本棚にあるラノベ、私全部読んでるし!


 これは話に花を咲かせる大チャンス。一気に仲良くなるぞー!



 しまった、本棚のラノベ隠しておけばよかった。

 文学小説とか読まないから、あれ見たらきっとオタクだとか思われそうだな。


「あの、準備できたけど」

「本、ああいうの好きなの?」

「え、いや、まぁ別に。読みやすいからってだけでさ」

「そ、そうなんだ」


 危ない危ない。ラノベばっか読んでるオタクみたいに思われずに済んだかな?



 えー、好きじゃないの?

 じゃあ話題終わっちゃうじゃん……ううっ、こっから話を広げるスキルなんて私は持ち合わせてないし。


 あ、ゲームがついたけど……えっ、今のコントローラーって無線なの?

 私スーファミしかやったことないよう……


「じゃあやろっか。キャラ選んでいいよ」

「う、うん」


 ええと、私は大体こういうのでは可愛い女の子キャラ選ぶんだけど……そんな事したらめっちゃ狙ってるとか思われるかな?

 ううっ、仕方ないから通の人が使いそうな一見弱そうで実は強い、的なキャラにしよう。名前も知らないけど。


「へー、そのキャラ使うんだ。扱い難しいよねそれって」

「そ、そう、だね。でも、うんこれがいい」


 えー、難しいの?


 なんかよくわからないうちにゲームが始まった。

 どのボタンでパンチなのか、ていうかジャンプってどうするのかも全くわからずに私は必至でコントローラーとにらめっこしながらボコボコにされる。


 ううっ、多分手を抜いてくれてるのがわかるから余計に辛い。

 これじゃあ楽しめない。もっと他のことを提案しないと……

 でもどうしたらいいの? あうう、泣きたい……


「ごめん、勝っちゃったね……」

「うう……」

「だ、大丈夫?そんなに悔しがるとか思わなくて」

「そ、そうじゃない……」


 な、泣いたらダメ!お願い、私の涙腺もう少しだけ踏ん張って!


「ええと。お菓子食べたい」

「う、うんいいよ。ちょっと休憩しよっか」


 わーい、お菓子タイムだ。

 でも、あんまりバクバク食べてたら品がない女だと思われるし、ここは一枚ずつゆっくり……あ、うまい。うん、うまい。ああんもう、止まんない!


「ぱく、ぱくぱく、ぱくぱく」

「す、好きなんだねポテチ」

「うん、ずっと食べれる」

「そ、そうなんだ。よかったらもう一袋持ってくるね」

「お願いします」


 ……じゃなーい!

 もう、なんで泉君におかわり持ってこさせてんのよ!

 あーあ、部屋出て行っちゃったし。絶対私の事「あの女遠慮がないな」とか思ってるに違いない。

 で、でもでも私って三度の飯よりお菓子ってくらいお菓子好きなのー!

 どうしよう、我慢したいけど無理……


「おまたせ……ってもう食べたんだ」

「ご、ごめんなさいつい」

「いいよいいよ。はい、また同じのだけど」

「いただきます」


 こういう時に我慢できないのも私が自分自身をポンカスだと表現する理由の一つ。

 とにかく我慢ができないというか、わがままというか。人に合わせたり空気を読んだりできないのは自覚していても治らないところ。


 ……もうやだ、帰りたい。

 泉君、お願いだから私の為に次々とお菓子を出さないで。


 私、あったらあるだけ食べちゃうんだから!

 

 

 

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