15 おうちに行っちゃいます


 ひーん、もう泣きそうなのを我慢するだけで精一杯だよー!

 どうしよう、泉君が明らかに不審そうな顔でこっち見てる。

 言わなくちゃ。来てくれてありがとうって、ごめんなさいって言わなくちゃいけないのに……


「い、いず、み君」

「どうしたの?」

「……大丈夫」

「?」


 ばかー!なにこいつみたいな顔されたじゃんかー!


 あーもうやだ、死にたい。いや、今朝からやり直したい。

 多分私にタイムリープマシンとか与えてもろくな使われ方しないから、世界線とか乱れたりしないからお願いだから誰か作って!


「……」

「どうしたの?氷南さん、もしかして体調悪いとか」

「う、ううんだい、じょう、ぶ」

「そ、そっか」


 はぅう。せっかく閑静な住宅街を二人でお散歩してるのに何も楽しくない。

 学校は遅刻だし泉君まで巻き込むし、そもそもその原因が私の意味不明な嫉妬からだし、ほんとお母さんの言う通り迷惑な女だよ私……


「でも、氷南さんと一緒に遅刻とかしたらみんなに変な目で見られないかな」

「そ、そうだね」

「もしかして俺が遅刻したの気にしてる?」

「え、まぁそれは」

「大丈夫だって。学校なんかよりも氷南さんのことが心配だったから」


 !?


 わ、私、今愛の告白されなかった!?(されてません)


 い、いや。でもこれは明らかに彼が私に好意を持ってくれているってことだって、そんなの鈍感な私にだってわかる、わかるもん!


 きた、きたきたきた!私にも春が……キター!


「ひ、氷南さん?」

「へ? ……なんでもない」

「早く学校行かないと、先生もクラスのみんなも心配するよ」

「……」


 え、そういうこと?

 みんなを心配させたらダメだから仕方なく迎えにきたとかそういう系?

 てっきり私の為に全てをなげうって駆け付けてきてくれたとかそう思ってたんだけど……


 あっ、もしかしたら香月さんに何か言われて、それで私を迎えに来たとか?


「香月さん……一緒だったの?」

「え、まぁ朝、また偶然ね」

「何か言われた?」

「遅刻するよって。もうしちゃったけどね」

「……」


 やっぱりだー!

 優等生の彼女が私みたいな底辺女子にさえも気を配ったりするから、泉君が彼女にいいところを見せようと渋々迎えにきてくれたパターンだ。

 うっ、なんかそう思うと嬉しくなくなってきた。


 はぁ……そうだよね。そうじゃないとわざわざ遅刻してまでこんなところに来てくれないもんね。



 どうしたんだろ、さっきからため息ばっかりだな。

 もしかして学校に遅刻することになったのを気にしてるのかな?


 ……でも、俺もなんか今更学校に行くの気まずいな。

 思い切って、いやそういう不良みたいなことは彼女は嫌いかもしれない、けど。

 でも……よし。


「氷南さん、このまま学校さぼっちゃう? な、なんてね」

「……うん」

「だよね、ちゃんと行かないとさすがに……え、いいの?」

「うん、今日は体調悪くなった」

「え、熱でもあるの?」

「……ない」

「頭痛いとか?」

「……痛くない」

「そ、そう。とりあえず家まで送るよ」

「……帰らない」

「?」


 体調が悪くて学校に行きたくないというのは仮病だとしても、こんな平日の朝から家にも帰らずフラフラしていたらやはりまずいのではと、自分からサボるなんて話をしたというのに、急に悪いことをしているような気分に陥る。


 しかし家にも帰らず学校にも行きたくないという彼女を一人で放置しておくわけにもいかないし……。


「じゃあ、電車でちょっと遠出してみる?」

「う、うん。そうする」


 少しだけ彼女の表情が和らいだ。

 真面目そうな彼女でも、たまには羽目を外したい気分だってあるのだろう。

 もしかしたら今日ここにいたのも、どこか学校に行く気がしなくて彷徨っていただけなのかもしれない。


 そうとわかれば彼女に付き合うことにしよう。

 早速羽田に連絡することにした。


「もしもし、今大丈夫か?」

「お前サボりとかやるなぁ。昼からくるのか?」

「それがちょっと今日は学校休むよ。あと、氷南さんも」

「なんで氷南さんの連絡までお前がしてくるんだよ? あっ、そういうことか」

「違う。彼女から伝えといてくれって言われただけだ」

「はいはい。うまくいっておいてやるから頑張れよ」

「だから違うって」

「ちゃんと着けろよー、童貞なんだから」

「だからそういう……あっ、切れた」


 実に愉し気な羽田は適当なことを言って電話を切った。

 ……本当にそういうのだったら、どれだけ嬉しいかとため息をついてから電話をしまって、早速彼女と公園を出ることにした。



 ドキドキ。平日に学校サボってデートとか、めっちゃくちゃ不良みたいなことしてる。


 ほんとは私がちゃんとしないといけないのに流されてしまった……

 でも、泉君の誘いだし絶対に断りたくないし、そもそも今日は学校行きたくなかったし、願ったり叶ったりなんだけど……


 でも、緊張する―!

 こんな展開想像してなかったー!


 あー、もう死んでもいい。いや、デートが終わるまでは死ねない!

 神様、昨日まで嫌なことがたくさんあったけどこうやってたまにご褒美もくれるんだね!


 うんうん、今日は精一杯楽しむぞー、おー!


「氷南さん、行きたいところとかある?」

「……本屋」

「なら駅前で済んじゃうかな。もっと、ほら何か食べたいものとか」

「……おしゃれなとこ」

「う、うん。ちょっとざっくりだけど……大きな駅まで出てみようか」

「任せる」


 ……緊張のせいでいつにも増して私の塩対応がひどくなっている気がする。

 でも、本当は遊園地とか沖縄とかいっぱい一緒にいきたいとこあるけど平日だもんなぁ。ていうかお金ないし。


 ……それに泉君の家とか、行ってみたいなぁ。


「……家、行きたい」


 あまりの緊張からか、沈黙に耐え切れずに、思っていたことが口から洩れてしまった。

 しまった、聞き逃しててと願っても彼はすぐ隣にいるのでもちろん聞かれていた。


「家って……俺の?」

「う、うん」

「べ、別に昼間は親もいないけど……ゲームくらいしかないよ?」

「げ、げーむしたい」

「そ、そっか。じゃあ、来る?」


 明らかに迷惑そうな彼を見ながらも、私の首はしっかりと縦に振られる。

 平日に学校をさぼって同級生の男の子の家に押し掛けるなんてそんなはしたないことを望んでしまった私を彼は軽蔑しているかもしれない。


 でも、それでも私は彼の家に行ってみたかった。

 迷子になって学校をさぼることになってまでして探した彼の家。


 一体どこにあるんだろうと、期待に胸を膨らませる間もなく、公園から出てすぐのところにある家の前で彼は足を止める。


「うち、ここだけど」

「……」


 表札を見れば大きな文字で『泉』と書いていた。

 そうか、表札を見ればよかったんだなんて気づきが得られたので、今日は一つ賢くなった。

 

 ……え、近くない!?こ、心の準備がまだ……


「じゃあ、どうぞ」


 やばい、どうしたらいいの?本当に泉君の家に招待されてしまった。

 え、え、え?もしかして、今日何か間違いが……な、何考えてるのよ、そんなこと思ってたら変態だよ!


 ひーん、どうしよー私お土産も何も買ってないよー!

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