09 待ち遠しくて仕方ない
♠
朝になっても彼女から連絡は来ていなかった。
そのショックで寝ざめはすこぶる悪い。
あー、何もする気が起きない。
せっかくの日曜日だというのにどうしてこんなことになるんだ。
……本当なら昨日の夜とか、ずっと彼女とライムしまくって夜更かししてしまって目が覚めたら昼だった、みたいなはずだったのに。
今はまだ朝の六時。
もう一度寝よう……
♥
「あー!泉君からメッセージ来てるー!」
私は大声でそう叫びながらベッドから飛び起きた。
時刻は朝の九時過ぎ。
休日は基本的に半日くらい寝ないと充電がすぐ切れてしまう私なので、今日もぐっすりとこんな時間まで眠っていた。
しかしこれはどうしたことか。
朝目が覚めたら彼からメッセージが。
でもでも、送ってくれてるの昨日の夜だし。
私、完全にスルーしてることになってるよね?
……うっ、お腹痛い。
これだけ盛大に放置しててなんて返したらいんだろう?
うーん。そうだ、寝てたってことにすればいいんだ。
そうだよね、昨日ちょっと疲れてたから早く寝てましたって送ろう。
うんうん、私って天才!
ええと
『すみません寝てました』
……なんか不愛想だよね。
絵文字とかつけた方がいいのかな?
で、でもいきなりそんなチャラチャラした文章送ったら逆に「氷南さんって随分慣れてるけど実は男とメールとかよくしてるんじゃ」とか思われないかな、かな?
考えすぎ、かもだけど慎重に。
ゴクッ……そ、送信!
♠
あっ、返事来た。
……寝てた?
いやいやそれはあまりにも嘘が下手だよ。
だってすぐに既読になったじゃないか。
じゃあなんであんな嘘を?……もしかして、夜は連絡すんなってことを言いたいのかな?
いやいやそれはさすがに被害妄想が過ぎるか。
でも、それだとしても今は返事が来たから返していいってことだよな?
『おはよう氷南さん。本、読んだ?』
おお、我ながらなんて自然な返しだ!
これでいこう。ぽちっと。
♥
はうう、返信早いよう泉君。
ええと……本? あ、まだ全然読んでないや。
うーん、でも昨日楽しみに買ってきたのに全く読んでないのもおかしいし、ちょっとくらいは読んでから返事した方がいい、よね?
よし。やることないし読書しよう。
そんで、感想を後で泉君に送ってから楽しいやり取りを……
あー、やっぱり連絡先聞いてよかった!
♠
また彼女から返事が来なくなった。
寝てましたという不愛想な嘘バレバレの一通のみとはさすがに寂しい。
しかし待つしかないだろう。
その間、読書でもしようか。
昨日買った本は、氷南さんと一冊ずつ買った奴だ。
昨日少しだけ読みはしたけど、俺もまだしっかりと目を通してはいない。
いつ彼女から質問が来てもいいように読んでおこう。
……でも、返事こないなぁ。
あんなそっけない一文だけとか、やっぱり脈はまだないな。
もっと仲良くならないとだけど、どうやったら距離を縮められるのかわからない。
ラノベとかだと、女の子の方から積極的にきてくれたりしてどんどん仲良くなっていくし、そもそも主人公モテるし選びたい放題みたいなのに。
はぁ……現実はそんなに甘くないな。
深いため息をつきながら、俺は読書にふける。
本というのは、読み始めるまでは案外おっくうなものだけど、一度読みだすとのめりこんでしまうもの。
すっかり集中して読んでしまい、気が付けば昼飯も食べずにそのまま一冊を読み切ってしまった。
「あー、おもしろかったなぁ。特に最後とかめっちゃキュンキュンするじゃんか」
こんな独り言が飛び出すくらいに内容には満足だった。
基本的にハッピーエンドというか、皆が幸せになれるような物語は読んでいてほっこりするからいい。
終わりよければすべてよし。ハッピーエンドものの方が何かと最後に満足できるというのが俺の主張だけど、氷南さんもこういう甘い系の方が好きなのかな?
読んでくれてるといいなぁ。……ていうか返事こないな。
♥
「んー!よかったぁ、すっごくよかった!」
思わず独り言を言ってしまうほど、私は昨日買った小説に満足だった。
読むのが遅い私はじっくりとこの一冊を読み切るのに夕方までかかってしまったが、それでも一気に読んでしまうほどに熱中していた。
物語を読み進めながら、何度ヒロインと自分を重ねたことか。
告白されるシーンとか、ほんと泣きそうになってしまった。
……泉君から告白されたら私、どうなっちゃうんだろ。
嬉しくて泣く?いや、多分恥ずかしくて逃げる?
うーん、逃げる前に倒れちゃいそう。だって、あの優しい目に見つめられただけで私ったら体温一度くらいあがるんだもん。
はぁ……そんな日が来ることってあるのかな?
今度、思い切って遊びに……誘ってくれたらいいんだけど。
「まどかー、ご飯よー」
「はーい」
とりあえず夕食を食べてから。お風呂に入ってからじっくりと感想を考えてから寝る前にゆっくりライムしよ。
うん。だって今メッセージ送ったら絶対に返事くるまでご飯が喉を通らないとおもうし。
♠
夜になってしまった。
半日以上彼女からメッセージは来ていない。
やはりツンデレラ姫という異名は伊達ではない。本当にそっけない。
……いや、今日はもう来ないまであるな。
どうしよう、明日もまた電車で一緒になるのに気まずいんだけど。
もしかしたら忘れてる?それならもう一回送った方が……いや、そんなしつこいと彼女を催促しているみたいになってしまう。
あーもう、なんで一通しかこないんだよー!
普通何回かやり取りあるもんなんじゃないの?
まぁ、彼女が単にメール嫌いなだけかもしれないけど。
寝ようかな。うん、寝て起きたら彼女に会えるわけだし、今日は少し早いけど寝よう。
♥
私は今、ドキドキしています。
なぜかって?だって今、布団の中で、彼にメッセージを送ろうとしているからです。
あー、なんて送ろうかなぁ。なんて帰ってくるかなぁ。
うーん、とりあえず本読んだよって伝えよう。
『本、読んだけど』
……なんで文字までこんなに冷たくなるんだろ私。
で、でも『本読んだよー♪』とか送って馴れ馴れしく思われてもいけないし、これで内容は伝わるわけだから。
よし、送っちゃえ!
♥
……もう二時間は待ったのに既読にならない。
え、送ったのはまだ夜の九時だったのにもう寝たのかな?
も、もしかして他の女の子とデートとか?
い、泉君に限ってそんなこと……って私彼女でもなんでもないから普通にあり得るー!
あー、死ぬ。もう死ぬすぐ死ぬ!返事来ないと寝れないよー!
結局、ベッドの上で悶えまくった私は日付が変わっても寝つけず、ようやく眠気が来た頃に時計を見ると夜中の三時頃だったと思う。
そして、翌朝私は盛大に寝坊した。
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