第6話ㅤ決別
フハハハハハハッ!!ハーッハッハッハー!!
貧弱貧弱ゥゥゥ!!
それにしてもこんな変なテンションになってしまうくらい、新しくなったこのサソリボディがとても、とてもしっくりとクる。
ハイテンションになってそこらへんの雑魚虫を肉片にしていっている俺だけど、その事が今はすっごい楽しい。
思った通りに身体が動いてくれるし、攻撃の威力やキレが進化前とぜんっぜん違う。
馴染むッッ!!実に馴染むぞッッ!!
クククク......
最高にハイってヤツでごぜぇますですよー!!
あーやばいな。
どうしよう......完全に人間を辞めてきている。これは不味いんじゃないんだろうか。
......いざ人間ボディに戻った時に違和感が出るヤツだ。精神面と肉体面の両方で。
戦場帰りの兵士が日常に戻ってきて精神が病んでしまうアレになる気がする。
尾なんて元から生えていたんじゃねぇの?ってくらいだし、たくさんある肢や、手の代わりになっている鋏にも違和感が全く無い。
逆に人間の手足ってどう動かしていたのか?って思うくらいになっている。
人間だった頃を忘れたっていいじゃない、サソリだもの。
んお?おおお!?
............ちょっと待とうか。人間だった頃を忘れたっていいじゃないって言ったか俺??
確かにそう言ったんだ。ただ、人間だった頃ってなんだ?
俺の名前はなんだった?
住んでいた都市は?地域は?
家族構成は?歳は?何を仕事にして生活を送っていた?
やっば......何一つ人間だった頃の事を思い出せない。気持ち悪いな......脳味噌を弄られたんだろうか......
クチュクチュアッアッてされたのかしら......
そういえばだけど、この体になって目が覚めた当初から、人間の時の事を全然思い出せてなかった気がする。全然違和感無かったぞ。
多分しっかり両親は居たとは思うけど......それすらも既に曖昧。
あーダメだこりゃ。
人間だった事と、男だったってのは確定なんだけど、それ以外のことは全然思い出せない。
記憶を持っていたら精神が耐えきれないと思われて、人だった時の記憶を消されてしまったのか?中途半端に消されるくらいなら完全に消してくれりゃ未練も無かったし、もう少し早くこの環境に馴染めただろうに......
一番残念なのは、この事に対して余りショックを受けていない自分がいる。まるで全てが他人事みたいに思えてしまっていて笑えてくる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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............
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........................ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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アハハハハハハッ。
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残念な事に笑い声すらあげられないこの身体......なので心の中で笑っておく。
もう人間には戻れる事はほぼないと、今のうちからそう思っておいた方がダメージは少なそうだ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
嫌なことがあったのなら虫共を殺してストレスを発散すればいいや。
ストレス解消と経験値稼ぎの両方をいっぺんに行えて、尚且つ食料も手に入る一石三鳥の行動じゃけぇ。
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よし、行こうか。
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失って困るモノはもう生命以外に何も無い。
こんな状況になって思う事が「死にたくはないなぁ」ってだけとは......これが生物の本能なんだろうか。
三大欲求ってあんまり当てにならないやんけ。寝たい、食べたいは身体を動かす為に仕方なくだし、ヤりたいって感情は起きない。
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メスのサソリを見ていないからかもだけど、多分ムラッとも来ないと思う。まず生き残る事......それが確定しない限り、ほかの欲求は顔を出したりしない。
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もういいか......何も考えずに虫を虐殺して、人間だった俺とは決別しよう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
これからはサソリっぽい生物として、この理不尽な空間を生き抜く事になるんだし。
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『人間だった俺......聞こえますか?俺から貴方への
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――虫が大量にいる方へと跳躍し、虫を潰しながら着地。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
そして即次の行動へ......尾を振り回して薙ぎ払い、刺突、叩きつけていく。
彼の後方にいる虫達は一瞥すらもされずに命を刈り取られていった。
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彼の眼前にいる虫達は鋏で潰され、千切られ、切断されていく。
これまでのように作業ではなく、怒りや憎しみなどの自身の負の感情や、絶対に生き残るという気持ちを込めて殺している。
この瞬間に彼は、今までのように人間へ戻る、戻れるといった考えを捨てて、この理不尽な蠱毒を生き延びる為に行動をし始めた。
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声の出ない虫達なので、声の替わりに体液の飛び散る音、四肢や胴体が地面に落ちる音、殴打する音、潰れる音を鎮魂歌に見立てて奏でていく。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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彼の身体が疲れ果てて動けなくなるまでずっと、元人間のサソリによるコンサートが続けられた――ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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◆◆◆ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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どれくらいの時間を虫の虐殺に費したんだろうか......かなりの時間が経ったとはわかる。
進化してスタミナもあがり、燃費も良くなったので万全の状態で長く動けるようになっていた。それが完全にガス欠になっている。
身体が疲弊して動きが鈍化しているし、腹も減っているので棲み家まで戻らないとな。
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何とか棲み家まで戻ったけど、ダメだ......しばらくはマトモに動けそうにねぇわ。
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でもスッキリして気持ちは落ち着いた。
たまには余計なことは何も考えずに、ただただ全力で身体を動かすのって大事なんだな。
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毒をカッ喰らって身体休めて......目が覚めたらまた同じ事を繰り返して......
これからそうやって少しずつでも強くなっていこう。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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今はまだ雌伏の時。危険を避けて、ひたすら牙を研ぐ期間だ。リスクはなるべく負わずにリターンだけを甘受していこう。
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摂取するのが楽になった毒を腹いっぱいになるまで詰め込み、腹を満たすだけの食事を終える。耐性ができたおかげで食事時のダメージは少なくなったけれど、味を感じるようになってしまったのが少し辛い。
痛みと味のどちらかを選べと言われれば、どちらも選べない。どっちもキツいねん。
味覚をオフれるスキルが欲しい......
今日の俺が寝ている時間は、Gの野郎が出てきませんように......
そこら辺に転がっている虫の肉片を食べてくださいませ。お願いします。
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あ、寝る前にステータスを見ておこうか。
今の俺の唯一の楽しみだからね。
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ファントムスコルピオS
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〔毒〕ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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Lvㅤ38/60ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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ATK:C-
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DEF:E
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AGI:D+
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VIT:C-
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INT:F+
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MID:E-
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SKILL:【混合毒】【一点集中Lv4】【霞Lv3】【毒耐性】【危険察知Lv2】【自己再生】
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おぉっ!!しっかりステータスが伸びている。嬉しいなぁ。
【一点集中】のポイントを射程に、【霞】のポイントをクールタイム減少へと割り振り、満足気に頷きながら眠りにつく。
ちなみに【一点集中】の射程距離は5センチ程伸びていて、【霞】のクールタイムは気持ち程度減っていた。多分15秒くらいだと思う。
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