第4話ㅤ死闘
ジュクジュクと焼け爛れる肢がかなり痛む......
頼むよ......マジで早く回復してくれ......
このままだと、いつの間にかまた毒を打ち込まれて詰む。もしくはジリ貧になる未来しか見えない。
毒はもう回復していると思うけど、こう......ね?
傷口がぐっちゃぐちゃになってるから全然回復してる気がしない。
スリップダメージを与える系の毒ってこんなに辛いのかよ。
状態異常ヒャッハーな戦法はゲームだからこそできる事だわ......
あ、いや、これもゲームなんだろうけど、痛みを伴う系のゲームでは鬼畜すぎる。
というか虫ならもっと痛覚が鈍かったりするものじゃないのか?下手したらこの体は人間の時よりも痛覚が鋭敏だぞ......
運営め......絶対に許さんぞ!!
傷口は、針が刺さった場所を中心に、焼けた感じの傷なので、範囲はそこまで広くないってのが不幸中の幸いか。
一向に回復する気配の無い肢に嫌気が差した俺は、時間を無駄にしている現状を打破する為に......覚悟を決めて、焼け爛れた箇所を鋏で抉り取った。
細い肢なので千切れかけてしまったけど、このサソリボディの再生力に賭ける。
早く治ってほしい......自分でやっておいてなんだけど、めっちゃ痛ってぇ......
これはキツいわ......
◆◆◆
どれだけの時間が経ったかわからないけれど、ようやく......ようやくだ......肢が回復したぞ!!
待っている間に刺された毒針や、虫の死骸から採取した毒を取り込んだ。
口の中を焼かれる感覚は拷問に近かった......
この毒針を打ち込んできた虫野郎は絶対に殺してやる。
絶対に殺してやるぞ!!クソ虫め!!
取り乱してしまったけれど、この状況をどうにか出来る方法が全く思いつかない......
どうにかして相手の姿を一目でも確認できればなぁ......対策の立てようもあるんだけれども。
ここに詰め込まれている虫は、現実にいる虫なんかじゃない。どのような虫だったとしても針を飛ばせる可能性はある。
気配を察知できずに、針を飛ばせて攻殻を貫通してくる虫とか......相性が最悪に近いぞコレ......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
さぁどうする?どうすればいい?
【霞】が相手の攻撃を受けるまで無敵状態を維持できる能力だったらやりようはいくらでも思いつくのにさ......
はぁ......もうやだよ......
おうちにかえりたい。
ログアウトさせて下さい!運営さま!俺以外の虫共がなんでもしますから!!
......
............
..................
はい、知ってましたよ。
えぇ、脱出不可だって知っていましたとも。
もういい、わかったよ。
どうせこの身体は、お前らがデータを色々と取る為に与えたんだろ......
ノッてやるよ!ありがたく思えやクソ運営!!クソ人間共が!!
物陰から出て完全に姿を現す。ふらついていて毒を受けているっぽい演技も忘れない。
さぁどっからでも撃ってきなさい!!
姿くらいは確認してやるからな!!
姿を見せない相手との戦い方が、これ以外に全然思いつかないのと、若干ヤケクソ気味になってしまっている俺。
俺自体を囮にして、毒虫スナイパーを一目見てやろう......そして、チャンスがあれば殺してやろうと行動に移した。
・痛みを感じた瞬間に【霞】を発動させて、毒針が飛んできた方向を確認
その時に相手の姿を確認出来れば良し
・相手を殺れそうだと感じたならば、毒針が刺さった肢を自切して相手を急襲する
ナイスな作戦だなんて口が裂けても言えないけど、現在の俺で思い付く精一杯だ。
心を鎮めて攻撃に備える。きっとヤツは俺の姿を見たら狙ってくるはずだ。
不意打ちなんてものは、完全に意識の外からの攻撃だから有効なのであって、絶対に来るとわかっている攻撃は......一撃で殺れない限り自分の位置をバラす恐れしかないのだ!
―――前半分に四割、後半分に六割の意識で攻撃に備えていると、微かにゾワッとする感覚。
これは......殺気のようなモノを感じたって事か?
平和ボケして危機感の無い日本人だったのに、こんな殺伐とした環境に放り込まれれば嫌でも適応していくのか......
日本に戻れても、前のように生活できなさそうで嫌だわ......
驚くべき反応を見せたこの身体に戸惑うも、今は必ずやってくる敵の攻撃に備えるべく、そちらへ意識を傾けていく―――
チリチリとした空気の中、とうとうその時がやってくる。
右後肢の付け根付近に鋭い痛みを感じた瞬間、【霞】を発動させて追撃を逃れる。
当たる寸前に回避するなんて芸当は、当然まだ出来そうもなく、あっさり被弾してしまう。
刺さった部分は毒の回りが早いと瞬時に判断を下し、即座に尾を使って切断。
右斜め後ろ、それも刺さった角度から大体の位置を掴め、残った肢だけで器用にそちらへ跳ぶ。
―――見つけたぞコラァァ!!
スナイパーの姿を捉えた俺は、ヤツをここで殺す覚悟を即座に決める。
スナイパーの正体は......
茶色くてそこそこの大きさがあり、身体中ビッシリと鋭い針のような毛が生えた毛虫だった。
少しだけ賢いが、愚鈍な毛虫で助かった。
俺のスピードに着いていけずに、空中で回避行動の出来ない俺を捉える事が出来ていない。
逃げ切る事や、回避行動が不可能と悟ったのか......
ヤツは身体中の毛を逆立てて、ハリネズミのように丸まって防御する道を選んだ。
ありがとう毛虫野郎!無差別に針を飛ばされたら負けてたわ。
肢が一本足らずに、バランスを崩しながら不格好な着地した俺だったが、直ぐに体勢を整えて、目の前の虫の死骸を鋏で掴んで盾にしながら毛虫へと向かう。
途中でヤツの気が変わって、近場から無差別に飛ばされたら流石にヤバいからね。
【一点集中】の射程内に入った毛虫野郎の身体を一番多く貫ける位置に移動し、尾に力を込めて【一点集中】を発動させた。
尾に激痛が走るが気にしていられない......
ここでヤツを仕留めないと、絶対にまた狙われる。
個人的感想だけど、スナイパー系のヤツらは執念深いから、虎視眈々と俺の隙を狙ってくる筈だ。
いつも気を張って過ごす必要がある生活なんて地獄でしかない。
なので此処でキッチリと因縁を終わらせてやる!!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
攻撃時の硬直が解けた俺は、ヤツに追撃をかける。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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ヤツにぶっ刺した尾がまだ動くうちに、高く持ち上げて地面に打ちつけていく。
毒が回りきって動かなくなる前に殺しきってやる!という意志を込めて......
―――夢中で芋虫を叩きつけていたが、尾がとうとう限界の達したらしく動かなくなった。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ヤツの身体は大部分が潰れ、死んだと思われる。これでもし生きていたのならば、もうお手上げだ。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
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叩きつけている最中に、巻き添えを食らった虫達を相当数潰したと思うので、経験値にも期待できそうだ。
初めてのガチ戦闘が終わり、一気に頭が冷静になってきた。
経験値の事を考えられるくらいにまでなれた俺は、すぐさまこの場から離脱を始める。
唯一の武器である尾が死んで、緊急回避も出来ず、肢も一本欠けているこの状況で、強敵に狙われでもしたら目も当てられない。
漁夫の利を狙う狡猾なヤツが近くにいなくて本当に助かった。他の虫共の知能指数の低さ......そのおかげで今も生き延びていられるんだろうなぁ。
毛虫の成れの果てを尾に付けたまま、動かない尾を引き摺っていつもの寝床に戻る。
針が刺さりまくっている状態で、もう目も当てられない激痛を俺に与えるだけになってしまった尾を......鋏で切断した。
躊躇いも無く自分の身体を切断できてしまう自分に、人間の感性がだいぶ薄れてきたなと感じて悲しくなるが、背に腹はかえられない。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
これは必要な処置だ......
尾が切断される痛みに耐えながら、そんな事を考えていた俺に衝撃的な光景が目に飛び込んでくる。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
切断した俺の尾が......地面に落ちると共に消え去ってしまった。
なのに刺していた毛虫の残骸はそのまま残っている。
最悪の場合にと、薄らと考えていた自給自足の生活は露と消えてしまった。
ち、ちくしょう............
尾の毒を取り込んで、強化しながら腹を満たそうとか思っていたのに......
はぁ、もういいや。
ステータスを確認してから、さっさと身体を休めよう......ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
さすがにマジで疲れたわ。
ステータスカモン!!
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ファントムスコルピオ
〔毒〕
Lvㅤ50/50ㅤ進化可能
ATK:D+
DEF:D-
AGI:D
VIT:D+
INT:F
MID:F
SKILL:【混合毒】【一点集中Lv3】【霞Lv2】【毒抵抗力】【危険察知Lv1】
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お!?おぉぉぉ!!
LvがMAXになってるぅぅぅ!!ひゃっほぅ!!ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
あの毛虫野郎が経験値溜め込んでやがったっぽいな。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
ステータスもしっかりと上昇してくれていてよかった。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
脳筋寄りなのは相変わらずだけど......
戦闘中にチリチリと感じていたあの感覚は【危険察知】が生えたおかげなんだな。助かったよ、ありがとう。
さて......とっとと進化先を選んで、早く身体を休めようかね。
レベルカンストで進化可能になった事は嬉しいっちゃ嬉しいんだけれど、満身創痍すぎて喜びよりも休みたい気持ちが強くて、辛い気持ちの方が強い。
あぁ......締まらないなぁ......
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