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「
松田さんから紹介された弁護士は、そう言って名刺を差し出した。市内の法律事務所で働いているようだ。確かに若いが、キリっとした顔立ち。いかにも才気煥発、という印象だ。背は私よりもかなり低い。もっとも私の身長は170センチなので、日本人女性としては背が高い方なのだが。胸の大きさは私よりも少し大きい程度。そして、その右側に、弁護士を示す金色のバッジが光っていた。
「大西 百合子です」私も一応名刺を差し出す。
「ありがとうございます。頂戴いたします」
仕草がいちいち私の琴線に触れる。好感の持てるタイプだ。相性よさそう。
「松田さんから、とても優秀な方だとお伺いしてますわ」
私がそう言うと、龍崎さんははにかんで見せた。
「そんな……まだまだイソ弁(居候弁護士。事務所で給料をもらって働いている弁護士のこと)ですから……独立開業してらっしゃる百合子さんや松田に比べたら……まるで青二才です」
「そんなことはないわ。弁護士ってだけでもすごい事よ。それで龍崎さん、早速だけど、この件について、どうお考えなの?」
「楽勝案件ですね」龍崎さんはニヤリとする。「雄一……じゃなかった、松田の話が正しければ、間違いなく向こうを有責にできます。だから、調査費用も弁護士費用も全然気にしなくて結構です。全部向こうに持たせられますから」
「……!」
なんと。これは心強い。既に松田さんには手付金としてそこそこの金額を振り込んでいる。それも帰ってくるというなら……ありがたい。
「しかも、もし浮気相手が二人なら、さらに慰謝料が跳ね上がりますからね。ご主人に対して1千万くらいはふっかけられます。それぞれの浮気相手に対しては、状況にもよりますけど大体二~三百万円ってところでしょうね。向こうがそのまま条件を飲まずに裁判になると、下がってしまうかもしれませんが」
「思っていたよりも、ずいぶん高額ね」
「それだけの金額に見合うだけのことを、百合子さんはされた、ということですよ。民法上、不倫は貞操権の侵害にあたる違法行為ですから、行った側は法的に賠償責任が発生します。それに、これは報復でもあります。不倫されたからって、暴力で制裁するとか、こちらも不倫してやる、とかはできません。結局、お金を取るというのが、法的にも認められた最も手軽でなおかつ非常に有効な、相手にダメージを与える方法なんです」
……。
「こちらも不倫してやる」ってところで、宮内さんの面影が脳裏をよぎり、ちょっぴりギクッとした。でも、大丈夫。私はそれはしていないし、今後もするつもりはない。
それにしても……若いとはいえ、堂々とした話しぶりだ。この人は信頼できる。
「分かったわ。それじゃ、がっぽりカツアゲさせてもらいましょうか」
私があえて野卑な笑みを見せると、同じように龍崎さんもほくそ笑み、うなずく。
「ええ。せいぜい分捕ってやりましょう。それでは、当職にご依頼する……ということで、よろしいですね?」
「ええ」
「ありがとうございます」龍崎さんがキリリと顔を引き締める。「では、本件は当職が受任いたします。それで、ですね、今後のことなのですが……」
「今後?」
「ええ。その、ご主人との事なんですが……今後も婚姻関係は継続なさいますか?」
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