14
『分かりましたよ。もう一人の浮気相手。確定です』
三日後。
松田さんに言われた通り用意した格安スマホに、さっそく彼から電話がかかってきた。
……。
ショックを受けているはずなのに、心は落ち着いている。
もう私は、どこか壊れてしまったのかもしれない。
「そう。それで、どこの誰かわかったの?」
『ええ。なんと、病院の同僚です。
「いえ。知らないわ。私、主人の職場に知り合いは全然いないものだから」
『そうですか……これはちょっとまだ確かではないんですが、どうも、旦那さんと彼女はかなり長い期間不倫状態にあったようです。おそらく5年くらいは……』
「そんなに長く!?」
さすがにこれには驚いた。
全然気づかなかった。良祐さんは、5年間も私を裏切っていたのか……
『ええ。彼女が県立病院に赴任した直後には、もう関係が始まっていたようです。ご主人の職場で……その……行為に及んでいる音声が……録音されてしまいました……』
……!
どれだけお盛んなのかしら……呆れる、なんて生易しいものじゃないわ。
だけど、確かに病院だからベッドはあるだろうし……行為もできるのかも……
いけない。少し気分が悪くなってきた。だけど……録音があるのなら、聞いてみたい。良祐さんが私以外の女と……どんなふうにしているのか……
「ね、松田さん。その録音、聞かせてもらえないかしら」
『やめた方がいいと思います』即答だった。『たぶん、ショックを受けられると思いますよ』
「いいえ。もう十分ショックは味わったわ。これ以上何があっても、どうってことない」
『……わかりました。限定公開のクラウドストレージに置いときます。後でメールで URL 送りますね。あ、あと、一つ、どうしても聞いておきたいんですが……』
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松田さんからのメールにあった URL に、私は実家のパソコンからアクセスする。メールに書いてあったパスワードを入力すると、そこには三つの画像ファイルと一つの音声ファイルが置かれていた。ファイル名はどちらも日付らしい。形式は画像が JPG、音声がMP3。
早速私は画像ファイルから開いてみる。三つのファイルのどれにも島田 明日香が写っている。なるほど。男好きのしそうな顔立ちだ。右の泣きボクロが蠱惑的。そして……この人も、なかなか見事なバストの持ち主。結局、良祐さんの本当の好みって、こういうタイプだったのね。
続いて私は音声ファイルをダブルクリックする。再生アプリが立ち上がる。
……。
女性って、行為の時に本当にこんな風に声を出すものなのか。そういうの、アダルトビデオの中だけの話だと思っていた。
やがて。
行為が終わり、ピロートークが始まった。
”やっぱり、あんなババアよりもあたしの方が遥かにいいでしょ?”と、女の声。
”ああ。まあな”と、男の声。良祐さんに、よく似てる。
”ねえ良祐さん、あのババアとは、いつ別れるつもりなの?”
”そう言うなって。別れるのも、そうそう簡単なことじゃないんだ”
”なんでよ? あんな、子供も産めない、胸も小さい、夜もマグロでピアノにかまけてあなたの世話なんかしようともしないババアなんかに、何の利用価値があるの?”
”利用価値とかじゃないんだよ。これでも15年、何の問題もなく夫婦をやってきたんだ。あいつだって、こちらが別れたいからって言って、はいそうですかと別れてくれるようなヤツじゃない。だから、なかなか難しいんだよ”
”全く……優柔不断ね。ま、少なくともあたしが30になる前には、何とかケリをつけて欲しいものね”
”ああ。分かってるよ”
”……ね、まだもう少し時間あるから……もう一回、する?”
そこで私は再生アプリを閉じた。
少しだけ感じていた吐き気は、激しい怒りに上書きされてしまったらしい。
ギリッ、と奥歯が軋む。砕けてしまいそうだ。だけど、私の顎の力は収まらない。
この女だけは、絶対に許さない。
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