第8話:明穂先生がお家に来て看病?!

 次の日、ボク三島惟幾みしまこれちかは学校を休んだ。

 単純に動けるような状態じゃなかったし、熱だって出ていた。それに、皆にうつすと悪いしね。あまり休むと授業についていけなくなるから心配なんだけど、こればかりはしょうがない。


「はぁ、寂しいな」


 家に一人。

 ボクはソファに横たわりぐったりしていた。時刻は夕方5時過ぎ。学校の皆はもう授業を終えただろうか。


 ……こういう時、誰かが看病してくれると嬉しいんだけどな。まあ、そんな相手はいないのだけれど。


 と、その時。


 ピンポーン、と。

 インターフォンが鳴った。

 正直身体がダルいので動きたくないのだけど、大事な用かもしれないので仕方なくモニター越しに来訪者を覗く。


「あっ……」

「これちかくん」


 急いで扉を開ける。

 来訪者は、明穂先生だった。


「やぁ、少年」

「明穂先生、どうしてここに」

「ふふ、教師なら生徒の家は把握しておくのがキホンなのだよ。……それより、風邪は大丈夫かい」

「まあ、フツーです」

「そかそか。ほれ、フルーツも買ってきたぞ。良ければ貰ってくれないか」


 明穂先生が持ってきてくれたのは梨やリンゴといった、栄養のありそうなフルーツだった。最近食生活が乱れていたので、助かる。


「ありがとうございます……じゃあ貰っておきますね」

「うむ。じゃあ上がらせてもらうぞ」

「ちょ、いいですよっ?! そんな、うつると悪いしっ」

「人にうつすと直るって言うがね。大丈夫、私は風邪を引きにくい体質なんだ。それに、君は一人暮らしだろう。だからこういう時、何かと不便じゃないかね? もっとも、君が嫌なら止めておくが……」


 ボクが考えていると。

 明穂先生はにっこり微笑み。


「私は君の看病をしたいと思っている。もし風邪をうつしたとしても、それは君のせいにはならない。だから、今日は甘えていいのだよ……?」

「……先生」


 頭がふわふわする。

 何も考えられない。

 ただ寂しさだけは一丁前にあったもんで。

 ボクは一言だけ言って、彼女を家に招いたのだった。


「ありがとう、ございます」


※※※


「なに、朝ごはんも昼ごはんも食べてないのか」

「は、はい……食欲なくて。あと、身体がだるくて……」

「ふむ、やはり来てよかったようだな。待ってなさい、今おかゆを作ってやろう」

「ありがとうございます……」


 大人しくボクはソファに寝そべる。

 やがて包丁で野菜を切る音や、グツグツというおかゆが煮える音がする。ふわりといい香りが鼻腔をくすぐり、心が温かくなる。


(なんか、こういうのいいな……)


 誰かが自分の為にご飯を作ってくれるなんて、どのくらいぶりだろうか。


 優しい香りに包まれること、数分。


「ほら、できたぞ」

「せんせぇ、料理作れたんですね。ズボラそうなのに」

「まあ、簡単な料理ならな……」


 恥ずかしそうに頬を赤らめる先生。

 そういう仕草のひとつひとつが何だか可愛らしくて、ボクは少し笑ってしまうのだった。


「ほら惟幾君。私が食べさせてやろう」

「え? いや、いいですよ。そのくらい自分でできます」

「こういう時くらい大人に甘えたまえよー、ほれほれ〜」

「わ、分かりましたよっ、食べますからぁ」


 明穂先生はボクのほっぺをつんつんして。

 ちょっかいをかけてくる。

 大人にからかわれると、何だか恥ずかしいな。


「ほら、あーん」

「あ、あーん……」


 ぱくっと。

 ボクは明穂先生におかゆをあーんされた。

 ほくほくで、キザんだネギも入っていて美味しい。卵もとかしてあって、食感も抜群だ。


「お、おいしいです」

「だろ? ほら、あーん」

「あーん……ん、おいしい」


 明穂先生の作ってくれたおかゆは本当に美味しかった。これならいくらでも食べられる。


「リンゴも剥いたぞ。ほら、あーん」

「あーん……んー、あまーい!」

「ふふ、そうか……!」


 明穂先生に色んなものをあーんされて。

 幸せいっぱいの気分になった。

 と、そんな時。


 ピンポーン、と。

 インターフォンが鳴った。


「誰だろう」

「あ、私が出るから惟幾君は寝てなさい」


 明穂先生はインターフォンも見ずに。

 真っ直ぐ玄関に向かっていった。

 遠くで扉が開く音がする。

 そして何やら話し声が数回。

 ドタドタとコチラに向かってくる足跡。

 え、誰か入ってくる……?


「三島クン、お見舞いにきたわよ♡」

「ほら、果物買ってきてあげたわよ」


 洋子先生と美玲先生!

 犬猿の仲の二人が一緒にボクの家を訪問してくるなんて珍しいな。

 洋子先生はボクを気遣うようにこう言う。


「風邪大丈夫かしら。先生心配してたのよ?」

「ああ、何とか生きてます……」

「そう、良かったわぁ」


 そこに美玲先生が一見冷たい口調で。


「ふんっ、日頃から夜更かししてるからよ。ま、馬鹿じゃないことが証明されたんじゃない?」


 洋子先生はクススッと笑い。


「あらあらそんな事言って。最初に三島クンの家に行こうって言ったのは誰でしたかねー」

「っ、るっさいわねっ。いいでしょ別にっ」


 プンスカ怒る美玲先生。

 そこで明穂先生が微笑ましそうに。


「二人とも仲良しですなぁ」

「……で、どうしてアンタが彼の家にいるわけ」

「どうしてって……私はただ惟幾君が心配で……」

「あーーっ、なに下の名前で呼んでるのよっ! 三島君とどういう関係?!」

「あらあら、美玲先生怒りん坊さんねぇ♡」


 一気に部屋が騒がしくなった。

 それからボクは一日中三人の熟女に看病されまくり、次の日になるとすっかり風邪も直るのだった。



 


 

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