第6話:洋子先生に看病される

 その日、ボクは酷く体調が悪かった。

 朝起きた時から身体がダルく、学校に着いたら今度は頭痛と腹痛もプラスされた。

 ……風邪、引いちゃったのかな。

 一応熱とか測ったほうがいいよね。


 そう思ったボクは保健室に行く。


「すみ、ません……」

「あら♡ 三島クンじゃないの♡」

「あ、ども」


 養護教諭の洋子先生が笑顔で出迎えてくれるが。今は体調が悪いので曖昧な返事しか出来ない。そんなボクの様子を見て、洋子先生は一言、


「ベッド空いてるわよ」

「ありがとうございます……」

「具合、悪いかしら。お話できそう?」

「ああ、少しなら……」


 ボクはベッドに横たわり。

 洋子先生からの質問に答える。


「いつから具合悪い?」

「えと、朝起きた時からです……」

「昨日の晩御飯とか覚えてる?」

「昨日は焼き魚と、ナスの味噌汁と、それから……えと」

「大丈夫、ゆっくりでいいから」


 洋子先生はニコッと優しく微笑み。

 ボクの手を握ってくれた。

 少しひんやりしていて、気持ちいい。

 ボーッとする頭で、ボクは洋子先生の質問に答えていく。先生はウンウンと優しくうなづき聞いてくれた。


「なるほど、多分原因は疲労ね。最近夜更かししてたんじゃない?」

「えっと、まあ……」


 確かに最近ゲームや漫画が面白くて夜更かしの連続だった。

 寝るのも深夜2時とかだったし。

 洋子先生は手を繋いだまま。

 ボクにこう言う。


「あまり遅くまで起きてるとダメよ? 先生心配しちゃう」

「ごめんなさい……」

「今日はこのベッドでおねんねしていいから、明日からはちゃんと日が変わる前には寝るのよ……? 先生と約束できる?」

「はい、約束します……」


 ボクが申し訳なさそうな顔をすると。

 洋子先生はニコリと微笑み。

 ボクの頭をなでなでしてくる。


「ヨシヨシ、約束できてエラいエラい♡ 今日は三島クン以外誰も保健室に来てないから、先生がずっと看病してあげるね……」

「せんせい」


 洋子先生の声は。

 まるでお母さんのようだった。

 ……ちなみにボクには母親がいない。

 ボクが幼い頃に亡くなったんだ。

 お父さんは家にいない。お仕事で海外に行ってるんだ。だからボクは一人暮らし。


(お母さんがいたら、こんな感じなのかな)


 ふとそんな事を思った。

 もしもお母さんが生きていたら。

 もしもお母さんが看病してくれたら。

 もしもお母さんが目の前にいたら。

 きっとこんな風にぽかぽかした気分になっていたのかもしれない。


「……マ」

「んー?」


 ぼんやりとした記憶の中で。

 ボクはあの人を呼んだ。

 きっと幼い頃のボクはあの人をそう呼んでいたんだろうな。ボク自身は覚えてないけれど、ボクの脳は覚えていたんだろう。


「ママ……会いたいよ」


 すると耳朶を打つ甘い声が聞こえてきた。

 その声はボクを完全に夢の世界へと引き寄せるのだった。



「ママだよ、ここにいるよ……」


※※※


「ママだよ、ここにいるよ……」


 ふと言葉に出してしまった。

 私は三島クンのお母さんじゃないのに。

 身勝手な考えだろうか。私がこう言えば、夢の中で母親に会えるのではないかと思ったのだ。ああ、我ながらなんて身勝手なのか。


「三島クン」


 この気持ちが恋なのか。

 あるいは生徒を想う気持ちなのか。

 正直私には分からない。

 だけれども、一つだけ分かる事がある。

 私は三島惟幾クンの事が好きだってこと。

 その為ならちょっぴりエッチな事も喜んでする。……いや、かなりエッチな事も……。


「もし、あの時子供が出来てたら……」


 私は一度妊娠している。

 だけれども、赤ちゃんが私の顔を見る事はなかった。今でも夢に出てくる。ぐったりとした、私の可愛い息子だったモノ。

 無事に産まれていれば、きっと三島クンくらいの歳。高校生になった息子とお友達になっていたかもしれない。


「三島クン、ごめん、ごめんね」


 息子と彼を重ねるだけではなく。

 あまりにも醜い想いを寄せている。

 そんな自分が嫌いだ。

 だけれども、もう少しだけ。あと少しだけ、醜い私に付き合ってくれますか?


 そんな事を思う私だった。

 

  



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