ボスエリア❷ アレアの狩場


小舟を漕いでいくと、岩山にたどり着いた。

木々もなければ、生物の姿も見えない。

遠くには火山が見え、煙が昇っている。


そこかしこで蒸気が噴射し、歩いているだけで汗が流れる。

湧き水も湯気が上り、水たまりもぽこぽこと泡を立てている。

大きさは違えど、白く濁った液体はどことなく温泉を彷彿とさせる。


「いかにもって感じだな……」


コンパスはまっすぐに火山を指している。

この先に何がいるのだろうか。


長いロングトーンと共に、緑の炎が舞い降りた。嘴は長く、爪は鋭い。

甲高い声を上げ、翼を大きく広げた。

頭を下げて、二人にガンを飛ばす。


「人間のくせに竜の力を感じるってさ。コイツにしてはめずらしくビビってるよ。

どうする、下僕になるんだったら何もしないって言ってるけど」


鳥は炎を舞い上げながら、精霊と何やら話している。

今ので何が分かったのだろう。


「え? 別にいいだろー。悪い奴じゃないんだしさ」


「お前、コイツの言葉が分かるのか?」


「あぁ、そうそう。コイツ、フェニックスのアレアっていうんだけど、要は精霊の友達みたいなもん。俺らとは仲良くしてくれるんだけど、それ以外の有象無象はいてもいなくても同じようなもんだし、汚物は消さなければならないっつって、しょっちゅう人間を襲ってるんだ~。

意味ないからやめろって、いつも言ってんだけど、人の話は全然聞かないし、すぐ燃やそうとするしでさ。マジ手が付けらんねーのよ」


友達みたいなノリでとんでもないバケモノを紹介するな。

コンパスはコイツをまっすぐに指している。例の「魔物」の一角ではないだろうか。

精霊でも止められないとなると、かなりの実力を持っているようだ。


「いや、馬鹿なこと言うなよ。単なる偶然だって。

なんかおもしろそーだったから、ついて来ただけだし」


困ったような表情を浮かべ、両手を横に振る。


「で、コイツはなんて言ってるんだ?」


「わざとお前をここまで連れてきたんじゃないのかって、疑われてるなう」


「精霊じゃ止められないから、代わりに俺を連れてきたと?」


「そうそう」


「お前、そんなこと考えてたのか?」


「んなわけねーじゃん!

本当におもしろそーだったから、ついて来ただけだし!」


「だよな。何も考えてなさそうだったし」


「だよなって……ちょっとは否定しろよ。何か俺が馬鹿みたいじゃん」


「違うのか?」


「ちょっ、おい! 何でお前が笑うんだよ! おかしいだろ!」


不死鳥を指さして、肩を落とす。この鳥にも馬鹿にされたのか。

おもしろそうに、炎がかすかに揺らめいた。


「で、何だって?」


「言い得て妙だなってさ。てか、何で俺が責められるんだよ。

マジ意味分からないんだけど」


このまま話を続けていれば、戦意を喪失させられそうではある。

うまくいけば、人間界へ攻撃を止めてくれるかもしれない。


「殺すのは口惜しいが、邪魔をするなら仕方ない。竜の力を見せてみよ! だって」


「やっぱりそう簡単にはいかないか!」


宣戦布告ということか。合図と言わんばかりに、高く鳴いた。

嘴で突っつき、空を華麗に舞って突撃する。

遠距離攻撃はあまり好まないらしい。


炎を纏う翼は触れるだけで火傷しそうだ。

爪も熱を持っているようで、かするだけでも傷がつく。


「よっーし、そっちがその気ならこっちもフルスロットルじゃ!」


力が溢れ出てくる。手先から爪、頭から角が生える。

竜のそれへと変化し、咆哮が空気を揺らす。

とりあえず、暴走する心配はなさそうだ。


「なんだよ、超カッケーじゃん!

もっと早くやっとけばよかったな!」


はしゃぐ精霊に対して、不死鳥は静かに高みの見物を決め込んでいる。

なぜ、降りてこないのだろうか。

じっと見つめていると、嘴を大きく開けた。

火花が飛び散り、大きな玉となって吐き出された。


遠距離攻撃に切り替えてきたか。狙いを定めて炎を放射する。

地面が削られ、小さな穴が空く。

炎の玉を連射し、紛れて突っ込んできた。

こちらもタイミングを合わせて、翼を切り裂いた。


羽を切り離して、ダメージを分散させた。

再び黄緑の炎を纏い、空高く飛ぶ。


なるほど、これが不死鳥と呼ばれる所以か。

攻撃してもすぐに回復する。


「アイツな、本体を破壊しないと倒せないんだよ」


「本体?」


「翼の中に本物の羽が一枚だけあって、それを破壊しない限りダメージは与えられない。俺らでも見分けらんないから、その辺は完全に運なんだよな」


当たるまで攻撃を続けるしかない。

遠距離攻撃を止めて、再び接近してきた。

近づくたびに攻撃をするものの、炎となって散らばるだけだ。


翼が温泉をかすめた時、炎が消えたように見えた。

炎に水をかけると消える。当たり前のことだ。


攻撃のダメージは切り離せるというのに、水たまりに触れると消えた。

消えたことにも気づいていないのだろうか。


比較的大きな水たまりの前に立ち、構える。

一歩も動かないのをいいことに、不死鳥は突進する。

一度狙いを定めてしまったら、急には止まれない。


今度は攻撃をせずに、ジャンプして後退する。

水たまりは蒸発してしまったが、炎は確実に消えた。

勢いそのままにつつく攻撃をする。


「おお……よく気づいたな。てか、全然知らなかった。

アイツ、よくこんなところで生きてたな?」


両腕を交差させ、嘴から守る。

京也のやろうとしていることが何となく理解できたらしい。


翼を切り裂いても、どうせ本物には当たらない。

そうと決まれば、話は早い。


「そういうことなら、任せろってんだ!」


ぶうんとその場から離れた。

別行動をした精霊に目もくれず、しつこく京也を狙っている。

あくまでも、狙いは自分だけらしい。


背後で何かが割れる音が聞こえた。

酒瓶を叩きつけたらしく、アルコールの匂いが漂った。

目線がガラス瓶へ向き、そちらへ飛んで行った。


口から炎を放射し、破片もろとも吹き飛ばした。

あっという間に蒸発し、煙が昇る。


燃やしたガラス瓶を避けるように、空へ舞い上がる。

かすかに地面が震え、やがて大きくなる。


攻撃したところに、間欠泉が噴出した。

水柱が一気に吹き上げ、不死鳥を飲みこむ。

周辺の熱を奪い、空気が冷え込んでいく。


見間違いではなかった。炎は水で消える。

それは熱湯でも変わりはないらしい。


黄緑の鳥は小さくなり、やがて見えなくなった。

間欠泉もしばらくすると落ち着いて、吹き出なくなった。


精霊の表情は曇っている。

暴れん坊とはいえ、友人の一人だった。

楽しそうに会話していたし、それなりに付き合いも長いのだろう。


「ま、これで人間に被害は出なくなったし……お前も元の世界に帰れるし?

遅かれ早かれ、こうなったと思うよ」


「そうか」


「ほら、お迎え来てるで」


地面が揺れ、魔法陣が現れた。

7日以内に討伐成功した。


「そんじゃ、また会えたらよろしくなー」


精霊に手を振られながら、世界は白くなっていった。

こうして、この世界から魔物の脅威は去り、平穏が保たれた。


CONFRATULATIONS!! GAME CLEAR!!

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