19 エルオーの家
村人によれば、この森を抜けると草原地帯に出るらしい。
コンパスもその先を示しているし、意外と悪くない。
ある程度舗装され、非常に歩きやすい。
本当に何もない原っぱだ。しばらく歩くと、赤い屋根の尖塔が見えてきた。
鐘がぶら下がり、ステンドグラスがはめられている。
ヤギや牛が縄に繋がれ、草をむしっている。
「へえ、こんな草原のど真ん中に教会ですか」
「何か知ってるのか?」
「いや、どんな連中が住んでるんだろーなーって思っただけ」
何か怪しい物を感じ取ったのだろうか。
畑で子供が農作業しているが、家族には見えない。
先ほどの村人たちがこんなところに畑を作るとも思えない。
彼らは何者なのだろう。不思議そうにこちらを見つめている。
「こんにちは、旅の方。私はエルオーと申します。
どうぞ、よろしくお願いいたします」
ぞろぞろと大人が現れ、軽く頭を下げる。
目が笑っていない。明らかに警戒している。
子供たちを守るようにして立った。
「どうも。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ところで、一つお伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
この教会は孤児院として使われており、彼らは行き場のない子供たちらしい。
普段あまり人が通らない道で、旅人に興味を持っている。
しかし、この周辺では『子供攫い』が発生している。
怪しい人物を何度か見かけており、警戒を強めている。
子供たちの農作業を見つめていた京也を犯人だと疑っているようだ。
「違いますよ。たまたま通りかかっただけです」
証拠としてコンパスを取り出そうとしたが、手の中にあったのは銅のメダルだった。
何でこんなところに入ってるんだ。
慌てている京也を見て、精霊がにやにやと笑っている。
彼らは銅のメダルに視線が釘付けになった。
目を見開いたものの、すぐにほがらかな態度になった。
「これも我らが神のお導き、ということでしょうか。
突然、疑ってすみませんでした。よろしければ、食事でもいかがですか?」
「いえ、こちらこそ、変なところで突っ立っててすみませんでした」
メダルを見た途端、警戒心を失くした。
違和感を覚えたが、追及していいものなのだろうか。
まあ、まずはコンパスを抱えているそこの精霊に聞くべきか。
「おい、どういうことだ。何をした」
「べっつにー。あそこにメダルと同じ絵があっただけだしー。
仲間だと思わせたら勝ちかなってー」
ステンドグラスの高さにメダルを合わせる。
確かに同じものが描かれている。本当に目ざとい奴だ。
「何ですぐに言わなかった」
「お前、明らかに警戒されてたしなー。
俺的にはこういう連中が一番面倒だから、できれば避けたかっただけー」
「こういう連中?」
「宗教絡みの連中って、酔っ払いや乞食よりも面倒だと思わねえ?」
「どうだろうな、勧誘されたことがないから分からない」
「……ま、飯食わせてくれるっていうしな。黙って待ってるわ」
リュックサックの中にもぐりこんだ。何か苦い思い出でもあるのだろうか。
不思議に思いながら、エルオーについて行った。
その後は、子供たちからこれまでの旅のことを聞かれたり、遊び相手になったり、楽しい時間を過ごした。一食分の弁当とお守りまでもらってしまった。
ここで平和に過ごしている人々のためにも、魔物を倒さなければならない。
改めて気を引き締めたのだった。
Result:Success
Roll the dice/2
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