13 トレルの森


沼を抜けると、今度は森に出た。

木漏れ日が輝き、そこら中に木の実やキノコが生えている。

ここらで食料を調達するのもアリかもしれない。


「ちょいちょい、あれ見て」


精霊が木の幹を指さす。何かに切り裂かれたような跡があった。

生々しく、割と最近つけられたように思える。


「何かいるね、このあたり。注意した方がいいかも」


「熊でもいるのか?」


「分かんないけど、早く抜けたほうがいいんじゃない?」


食料も豊富にあり、様々な動物たちが集まっているのだろう。

凶暴な奴がいるのなら、あまりのんびりもしていられないか。


「あの、すみません! このへんでうちの子を見かけませんでしたか?」


背後を振り返ると、斧やクワなどを装備をしている集団と出会った。

不安そうにあたりを見回し、ただならぬ雰囲気を感じる。


「いや、見てないけど」


「あぁあ……どこに行ったんだ?」


中年男性が膝から崩れ落ちた。


「なあ、イヤな予感するんだけど」


「そんなことを言うな」


「何か言いました?」


「いえ、何でもないです。どうかしたんですか?」


他人と直接会わなかったから分からなかった。

精霊の姿は自分以外に見えないらしい。


彼らは近くにある村に住んでおり、薬草をとりに来た息子を探している。

村人総出で探しているが、未だに見つからない。


「村から出て何時間くらいだって聞いてみてよ」


「何で警察みたいなことを聞かなきゃならないんだ」


「当たり前だろが! まだ真昼間なんだぞ!」


太陽の位置もまだ高いし、森の雰囲気も明るい。

森に慣れているなら、そう簡単に迷うはずもないか。


渋々聞いてみたところ、数時間は経過しているとのことだ。

薬草を取りに行くだけなら、数十分もかからない。

先ほどの動物の爪痕が脳裏をよぎる。


「お願いします! そのお姿、冒険者様とお見受けしました!

どうか手伝ってくれませんか!」


膝をつこうとするのを必死に制した。

そこまでされてしまったら、断るわけにはいかない。

村人と共に子供を探すことになった。


「ただ、俺も初めてこの森に来たんです。

足手まといになるかもしれませんけど、それでもいいですか?」


「構いません! 人手は多い方に越したことはありませんから!」


深く何度も頭を下げられた。

いくつかのグループに分かれ、森を探索をすることになった。


薬草について説明を受けながら、周囲を見渡す。

小動物は見かけても、人の姿はない。


「どーすんだよ、死んでたらただじゃ済まされねえぞ」


「その時はその時だな。それにしても、どこまで行ったんだか……」


小さな悲鳴が聞こえた。村人にも聞こえたようで、同じ方向を見つめていた。

その声と姿は大きくなり、草木をかき分けて、少年が駆け込んできた。。

背後には熊がいる。人の背丈を軽く超える大きい熊だ。


「おまっ、なんてもん連れてきやがった!」


「違うもん! 追いかけてきたんだもん!」


涙をぼろぼろと流しながら、村人の背後に回る。

てんでばらばらに逃げまどう。

クマを余計に刺激したのか、攻撃を止める様子はない。


向かい合わせになり、じりじりと後ろへ下がる。

村人の姿はない。京也を囮にして逃げたようだ。

これほどひどい話もない。


「アレか、お前が言ってたのは!」


木を盾にして、距離を取るもすぐに詰めてくる。

殺意をひしひしと感じるものの、狩るつもりはないらしい。

純粋さが垣間見えるが、脅威であることには違いない。


「知るか! 俺だって初めて見た! 

けど、誰も見てないんだったら構わねえよな!」


「何の話だ」


「精霊の加護、受け取りやがれ!」


背中をどんと押された瞬間、身体の底から力が流れ込む。

この感じはよく覚えている。竜の血が湧きたつ。

かつては恐怖を覚えたこの力も、今は立派な相棒だ。


「いっけー! 本気見せたれ!」


森中にその声は轟いた。

空気を揺らし、遠くに離れた村人は慌てふためいた。


勢いそのままに、顔面を思い切り殴りつけた。

クマは泡を吹いて、あおむけに倒れた。森に静寂が訪れた。


「……今のは?」


自分の手を見つめる。

まさか、この世界で使うことになるとは思ってもいなかった。


「言っただろ、お前の力はその気になればいつでも使えんだよ。

今みたいに引き出すから! ビビってんじゃねーぞ!」


自分のことのように、嬉しそうに腕を振り回す。

無邪気な姿に思わず笑みがこぼれた。


「まさか、ひとりでブッ倒したってのか!」


「すっげー奴もいたもんだなあ!」


「これで村も安泰だー!」


散々逃げ回っていたくせに、調子のいい連中だ。

子どもを救い、クマを倒した礼がしたいということで、村へ連れて行かれた。


物資も支給され、しばらく冒険には困らなさそうだ。

ひさしぶりの寝床に、ほっと息をついたのだった。


Result:Penalty

Roll the dice/6

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