10 ゴミ谷沼


精霊の話を適当に流しつつ、歩みを進める。

竜の血を引いていることは即座にバレた。

オーラが他の人間と違い、すぐに分かったらしい。


その気になれば、いつでもその力を引き出せる。

「精霊の加護を舐めるんじゃねえ」とことだ。


そのくせ好奇心旺盛のようで、小さな物でも見逃さない。

観察眼は頼りになるが、今のところは鬱陶しいだけだ。


岩肌が露わになり、枯れ木も目立ってきた。

道から外れてしまったのではないかと不安になるが、コンパスはこの先を示している。


「何かココヤバくない⁉︎

虫とかメッチャ飛んでくるじゃん!」


「それ、お前が言うのか?」


背中に生えている透明なそれは何なんだ。

両手をブンブン振って追い払う。

坂道を登るにつれ、刺激臭も強くなる。


その先は沼だった。

どんよりとした空気が漂い、ゴミや木箱が浮かんでいる。


蝿の数はさらに増え、言葉にしたくないあの黒い虫が駆け回っている。

惨めな姿をした人々があたりを徘徊している。こちらには気づいていない。


対岸では豚車から樽を下ろし、中身をぶちまけていた。

真のゴミ捨て場はここだったか。


枯れ木の陰に隠れ、様子を伺う。

生ゴミなどが捨てられるたびに、嫌な臭いが流れてくる。

いろいろな物が混ざり合い、何だかよく分からない物になっている。


「なあ、樽から人が出てこなかった? 出てきたよね?」


「一歩まちがえれば、俺もああなっていたわけか……」


放り出された人はあたりをキョロキョロと見回している。

タコ殴りにされた後、ここに連れてこられるということか。

このあたりをうろついている人々は、彼らにやられたのだろうか。


「てかさ、ここって谷だった気がすんだけど。

何でこんなことになってんの?」


とてもじゃないが、谷には見えない。

あの坂道があったことを考えると、凹みがあってもおかしくはない地形ではある。

後先考えずにゴミを捨てた結果、埋め立てられたのだろうか。


樽の中を捨てた後、豚車を引いて来た道を戻って行った。


「よし、そろそろ行くか」


「何がヨシ、だよ。どこもよくねえよ」


浮かんでいる木箱は流れていく気配はない。

どうにか対岸へ行けそうだ。


適当に木箱に飛び移る。

精霊は飛んで後からついてくる。

馬鹿にしていたが、羽がうらやましい。


「あれとか行けそうじゃね?」


右の方に浮かんでいる箱を指をさした。

比較的新しそうに見える。

精霊に指示されるまま、箱を飛び移る。


「次こっちな」


言われるがままに進んでいく。

いくつか飛び越えるうちに、対岸に着いた。


「おお、着いた」


「すげーだろ、俺の眼力! これぞ精霊の力!」


腰に手を当て、偉そうにふんぞり返る。

正直、最初からこういうことに使って欲しかった。こんなところに来ることもなかっただろうが、本人は楽しそうなので、その言葉をぐっと飲み込んだ。


Result:Success

Roll the dice/3

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