5 ゴミ置き場


コンパスを頼りに進んでいくと、城門が見えた。城下町の端にたどり着いたらしい。


ぐっと眉にしわを寄せ、口を手で覆う。


目の前にある樽という樽にゴミが詰め込まれているようで、悪臭が漂っている。

地面はカビだらけで、よく見るとキノコまで生えている始末だ。

さらに、みすぼらしい格好をした人々が樽の中身を開けて漁っているのだ。


先程の綺麗な街並みと一転し、まさに世紀末だ。なるほど、ポリバケツのない世界だとゴミ捨てはこうなるのか。

樽を荷車に載せ、馬車ならぬ豚車で運んでいくようだ。


先ほどの酒場と言い、この国の公務員は何をしているのだろうか。


「あのオッサンマジ無能だな……」


国王の横柄な態度を思い出し、京也は毒づいた。いっそのこと、魔物とやらに滅ぼしてもらった方がいいのではないだろうか。


何度目か分からないため息をついた。


学校の授業か何かで見たビデオを思い出した。

貧乏な人たちが山から金属などを拾い集め、換金して一日の収入を得る。

衛生環境が最悪なのはもちろんのこと、ゴミが発酵して化学反応を起こし、火事が起きるとも聞いた。


自分には縁遠い世界だと思っていたが、こんな形で目にすることになるとは、世の中不思議なものだ。


「ここはもういいか……」


足元で何かが光った気がした。

よく見ると、赤色の光を放つ石が落ちていた。


「何だこれ」


拾い上げると、綺麗にカットされ光が幾重にも反射している。

ゴミというより、誰かがまちがって捨ててしまったもののように思えた。


前を歩く人から肩をぶつけられた。

眼帯をつけ、髪が抜けている男だ。


「何ボケッとしてんだ、ウスノロがよぉ?」


「今度は何だ?」


酒場にいた酔っ払いではなく、ゴミを漁っていた人らしい。


「それを置いてかねえと、どーなるか分かってんのか?」


いつのまにか、ぐるっと囲まれていた。

服はボロ切れ同然で、手にはナイフや木の棒を持っている。


「またこの展開かよ……」


酒場の連中と似たようなものだろうが、正直言って面倒くさい。目の焦点が合わず、どこを見ているか分からない。


「ずいぶんいいモン持ってんじゃねえかよ、なあ? 

持ってるもん全部渡してくれたら、見逃してやってもいいぜぇ?」


先程の乱闘騒ぎからずっと歩き詰めだ。

疲労も溜まり、休憩を挟もうと思っていた。


だが、言ったところで無駄だ。話を聞くような連中じゃない。

この宝石もたまたま見つけただけだし、特に執着はない。


「おい」


今日一番、低い声が出た。

男たちは一瞬怯み、少し後ろへ下がった。


「そんなにこれが欲しいなら……くれてやる!」


樽の山へ宝石を投げつけ、その場から逃走した。

コンパスなど無視して、城下町を全力で駆け抜ける。


いつの間にか街を抜けていたようで、気がつけば森の中だ。

後ろを振り返ると、誰もいなかった。無事に逃げ切れたらしい。


さすがに城下町に戻る気力はない。

このまま進むしかないか。

呼吸を整えていると、羽音が響いた。


「お前さあ! あそこにぶん投げるとか、マジ何考えてんの⁉︎ 

馬鹿なんじゃねえの⁉︎ 」


羽の生えた小さな男が顔面を殴りつけてくる。

手のひらと同じくらいの背丈だろうか。片手で押さえつけ、距離を離す。


「アンタは何なんだ?」


「あの石の中の人! すなわち精霊的存在!

ゴミ捨て場に来たと思ったら、いきなりぶん投げられて! 

あんな目にあうとは思わなかった……」


怒鳴りつけたと思ったら、急に泣き出した。


「悪かったって。

俺だってあんな目にあうとは思わなかったし」


「ま、あんな連中から逃げるだけでもすごいと思うけどね。

俺も助かったって言っちゃ、助かったわけだし。礼は言うよ。

でだ。お前、そんな装備でどこに行くつもり?」


泣いていたのが嘘のような笑顔だ。

いや、本当に嘘泣きだったのかもしれない。


「これから魔物を倒しに行く」


「おお、すっげーじゃん! なあなあ、俺も行っていい?」


これもこれで面倒くさいタイプだな。

興味津々に見つめ、目を輝かせている。


「よっし、今日から仲間だな!」


無言を肯定と受け取ったようで、勝手についてくることになった。

その後、精霊から鬼のように質問を浴びせられたのは言うまでもない。


Result:Success

Roll the dice/5

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る