4 べろべろ亭にて


城下町を散策しているうちに、陽気な声が耳に飛び込んだ。


「ヘェーイ! 兄ちゃん、見ない顔だな!

仲間を探すならここ、べろべろ亭がおすすめだ!」


そでをまくった若者が無理やり京也の腕を引っ張った。

断る間もなく、店に連れて行かれてしまった。

強引な客引きが行われるのは、どこの世界でも変わらないらしい。


酒の香りがむんと漂っており、鼻をついた。

木製のカウンターには人相の悪い店員がおり、背後は酒瓶が並ぶ棚がある。

照明はぶら下がっているだけで、何の意味もない。


「今日は絶好の酒日和だな、一杯どうだ? お代はいらねえぜ?」


「今日も、のまちがいだろぉ!」


二人は豪快に笑い飛ばす。席には飲んだくれている客が何人もいる。

誰もがテーブルに突っ伏し、床に転がっている。

薄汚い服を着て、口から覗く歯はところどろこ欠けている。


「あの……俺、急いでるんで」


元の世界に戻るという目的がある以上、厄介そうな場所はできるだけ避けたい。

酔っ払いは本当に面倒くさい。五本指に入ると個人的に思う。


「酒を飲めば誰でも仲間だろがよ~。ほら、ここ空いてるからさ~」


ガラガラ声の少年が眼をカッと開いて、手首をつかんだ。

未成年の飲酒を取り締まらないあたり、割とどうしようもない世界らしい。

振り払おうとしても、無駄に力が強く手を放してくれない。


「あんらまあ、よく見ればなかなかいいカラダしてるじゃないのさぁ。

おねいさんの相手してよ~」


少年の隣に座る女性が腰当たりを叩く。タチの悪い酔っ払いだ。

さすがに相手にしていられない。


「どこ触ってんだ!」


振りほどいて、入り口を見やった。

店員が扉をふさぐようにして立っていた。


「そう簡単に逃げられると思ぅ」


言い切る前に顔面を殴りつけ、蹴り飛ばす。

言葉が通じない相手には、こうした方が早い。


肉体言語という言葉もあるくらいだ。

この手のやり方で言いくるめられるほど、弱くなった覚えはない。


「もう帰っていいか? いいな?」


「こんの……クソガキが! 俺らの酒が飲めねえってのか!」


店員はゆっくりと立ち上がる。そう簡単には倒れないか。

姿勢を整え、構えなおす。


「舐めてんじゃねえぞ!」


「おもしれーじゃねえか! いけいけ!」


「いいぞ! もっとやれ!」


他の酔っぱらいも立ち上がり、千鳥足で京也に向かう。

彼らは足を引っかけるだけで勝手に倒れる。

ふらふらとした攻撃は当たらない。

所詮、酔っぱらいはただの酔っぱらいか。


突然始まった乱闘に外野が勝手に盛り上がり、酒を煽る。

何度叩きのめしても、立ち上がる。その度に酒を飲む。

もちろん、強くなったわけじゃない。


会議は踊る、されど進まず。そんな言葉が脳裏をよぎった。

さらにヒートアップして、混沌と化していった。


適当に相手をしているうちに、静かになった。

様子を見る限り、全員酔いつぶれてしまったらしい。

店長まで潰れるって、どんな世界だよ。


「何だったんだかな……」


どっと疲労が押し寄せるのを感じ、深いため息をついた。

酔っぱらい共から得られるものはないだろう。

カウンターに侵入し、棚から一番小さい酒瓶をくすねる。

火種くらいにはなるはずだ。


ついでに、つまみとして提供していると思われる干し肉も手に入れる。


「まあ、迷惑料ってことで」


肉をかじりながら、店を後にした。


Result:Success

Roll the dice/1


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