3.グラスランナー、増える。

(前回までのあらすじ)

危険な副作用を持つ薬物【ナイトアイ】が新米冒険者を中心に広まっている。我らがグラランず は【ナイトアイ】の出所を掴み衛士隊に報告する調査任務を請け負った。


ラル 「それじゃあ手始めに、使用者の一人でも見つけようじゃないか」


ミエン「とりあえず、外に出る前にギルド内の新人に話を聞いてみるか」


おっ。これはミエンの思い付きがナイスですね。

シナリオには特に書いてありませんが「新米冒険者の間で【ナイトアイ】が広まっている」ということは、ギルド内にも副作用のことを知らずに買ってしまった新米冒険者がいるほうが自然でしょう。


GM「いいアイデアだね。それじゃあ君たちは聞き込みを進めて、ギルド所属の新米冒険者で怪しそうな人物を見つける。あっ、このNPCは元のシナリオにいないから立ち絵がないんだよね」


【立ち絵】

このセッションはオンラインセッションツールを利用して行われている。

大抵のオンラインセッションツールにはキャラクターの立ち絵を表示する機能があり、事前準備でNPCのイラストなどを準備するのを楽しむGMも少なくない。


プレイヤー「あっ、それだったらこっちでちょうどよさそうな立ち絵コマ用意しておくからGMは処理を進めてて」


GM「ありがとう。じゃあ立ち絵はお願い。こっちはどこまで情報開示していいかシナリオをチェックして書き込むね」


うんうん、こういうプレイヤーとの共同作業はTRPGの楽しい部分のひとつだ。

この時は、このやりとりがセッションの方向を決定づける第一歩になるとは予想もしていなかった。


GM「OK. 渡せる情報を整理したよ。進めよう」


ニーナ「新人く~~ん!」


新人くん「べ、べつに僕は例の薬は飲んでませんよ。昨日はよく寝たから目がギンギンに開いてるだけですが?」(クマの浮いた目をしながら)


ニーナ「新人くん…」


ミエン 「ははは、随分出回っているようだ。どこで買ったのかな?」


新人君 「……や、闇市で買いました」


ミエン 「なるほど。それはどこで開かれるんだい?」


新人君 「闇市の場所は毎回変わるそうです、僕らはそうと知らずにたまたま迷い込んで…」


ミエン 「なるほど、流石に向こうも用心深いようだ。情報ありがとう。もう二度と使うんじゃあないよ」


新人君 「は、はい。気を付けます。副作用があるなんて言われなかったから…知っていたら使わなかったのに」


ニーナ「いうわけないじゃん」


ラル「相手は巧妙なようだね……しかし、君も勉強になっただろう? 怪しき場所には怪しい者どもが集うのさ」


ゾーラ「グラスランナーでもないんやから、気ぃつけなあかんよ」


新人君 「今後は気を付けます」


うんうん。

最初は不安だったグラスランナーたちもパーティとして良い感じに動いてきている。

この調子で進めていこう。


ミエン「さて、この流れでより重症な中毒者に話が聞ければいいんだが」


GM「それなら下町に行くのをオススメするよ。」


【グランゼール王国の下町】


高所にある中央区に比べて物理的に下の方にある居住区。

通常、町は【守りの剣】の力によって穢れを持つ蛮族を寄せ付けないように保護されているものだが、下町は一部に【守りの剣】の効力が及んでいない場所もあり少し危険。そのため、あまり裕福ではない人たちが暮らしている。


GM「下町には【守りの剣】の穢れ除けが行き届いていないからね。重症な中毒者は副作用によって穢れを体に溜め込んでしまっているから、【守りの剣】のある他の地区にはいられないんだ。そういった常習中毒者は始祖神ライフォスの小さな神殿に収容されている。」


ミエン「では決まりだな。下町にある始祖神ライフォスの神殿へ移動しよう!」


こうしてグラランずは下町を目指します。


さて、このセッションでは文字でセリフを書いたりダイスを振るためのオンセツ―ルとは別に、ボイスチャットでの会話もしながら進めています。

こうすることで実際に集まって遊ぶオフラインセッションのような軽快なやりとりを再現することができるのですが、グラランずのプレイヤーたちはグラスランナーのロールプレイを楽しむうちに会話もはずみ、ちょっとした脱線トークなどで笑いあい場が緩みます。


…グラスランナーという楽天的種族を集めるセッションでもっとも場をひっかきまわすことになるのがこの空気感。

たとえシリアスをやろうとしてもあっという間にギャグへと傾いていく軽妙さ。

それは非常に楽しいものであると同時にシナリオを破壊させる恐れのある劇薬でもあるのです。


GM「そろそろシナリオを前に進めようか」


脱線して『パーティのパパであるミエンの奥さんの話題』などでひとしきり笑っている流れからセッションに戻ります。


GM「それじゃあ、君たちは始祖神ライフォスの神殿へと足を運ぶ。そこには中毒患者がいるんだけど、君たちが司祭の人に事情を説明すると面会が許されるよ。」


プレイヤー「あっ、GM。また立ち絵コマ作っておこうか?」


GM「じゃあ、お願いします」


シナリオではこの時、人間の20代男性が患者として登場することになっているのですが、せっかくなのでプレイヤーにコマを用意してもらって、その立ち絵に合わせた種族や性別に差し替えることにしました。


ええ、白状しましょう。グラスランナーのロールプレイを楽しむプレイヤーたちに惹かれてGMにも「楽しさ」という薬の副作用が出始めていたのです。


GM「では、あなたたちが面会室に行くとそこにいたのは…」


プレイヤーが立ち絵として用意したのは小柄な女の子の絵でした。


GM「…女の子でした」


…いや、女の子はおかしいだろ年齢的に。

…ドワーフは成人女性も小柄だしドワーフか? 

あっ、でもドワーフ族は種族特徴として【暗視】を持っている…!

【暗視】が得られるのがウリの【ナイトアイ】を買って飲むのは不自然なはずです。


今さら「やっぱり立ち絵を変えてくれ」といえない程度にボイスチャットの空気は温まっています。


となると、成人しても小柄で、暗視がなく、【ナイトアイ】に手を出しやすい斥候スカウト職についてそうな種族ということにするしかないでしょう。


ああ、いるじゃないか。そんな種族が。


GM「中毒患者というのはでした」

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