第22話 城跡の少女(5)

 階段を上ったところで待っていると、しばらくしてさっきのおばあさんが来た。ついて来なさいと言われたので、先輩と二人でついて行く。

 橋に通じている道を渡り、コンクリートで舗装された細い道の緩い上り坂を上がる。両側は家だ。おばあさんは、背は曲がっているし、髪はまっ白だけれど、元気よくずんずんと歩いて行く。

 そのすぐ後ろを、背筋をぴんと伸ばして守山もりやま先輩が歩く。

 二人で「しっかりした女の人」らしさを競っているようで、何かおかしい。

 守山先輩も歳をとればこのおばあさんのようになるんだろうか、と思うと、くすぐったい。でも守山先輩がおばあさんになることなんか想像できない。

 花梨かりんは、そんな競争とは関係なく、その後ろをのんびりとついていく。さっきより先輩の歩調が遅くなって、花梨は「のんびり」ができるようになった。

 花梨は、おばあさんにとっては孫ぐらい、先輩にとっては……。

 先輩にとっては、何だろう?

 「かわいい後輩」だったらいいんだけど。

 でも、そう思ってもらうには、たぶん、不足だ。

 道は車が一台通れるほどのアスファルト舗装の道に出た。

 アスファルト舗装になってもしばらく道は上り坂だった。四つ辻があってそこでやっと上りが終わる。角にちっちゃい石の塔があった。前に花が飾ってある。いや、供えてある。お墓なんだろう。石は黒ずんで、表面はでこぼこしていた。だれのお墓だろうと花梨は思った。もちろんそんな疑問はすぐに忘れてしまう。花梨だから。

 おばあさんが先輩と花梨を連れて入ったのは、そのすぐ先の家だった。

 家というより屋敷といったほうがいいかも知れない。

 門は、黒ずんだ木でできていて、ちゃんと瓦屋根がついている。門をくぐると広い空き地がある。まわりに木が植わっている。

 その向こうが家だ。大きい。正面に玄関があって、その右に土間のままの通路があって、その右と左にそれぞれ二階建ての家がついている。土間のままの通路の向こうにも何か建物があるようだった。

 おばあさんは玄関には行かず、空き地を斜めに横切り、左側の縁側からその家に上がった。先輩と花梨もついていく。先輩がその家に上がるときに小さく

「おじゃまします」

と言ってちょこんと頭を下げたのが何かおかしかった。

 その縁側の向こうが座敷だ。

 「座敷」というのだろう。

 すぐには数えられないくらいの畳が敷き詰めてある。

 花梨の家では八畳の畳の部屋がいちばん広いけれど、その倍ぐらいはある。

 その部屋のまん中に出ていた机に、おばあさんが座布団を持ってきてくれて、先輩と花梨はそこに座る。

 先輩はきれいに正座している。花梨は足がしびれるのはわかっていたけれど、やっぱり正座した。

 おばあさんは部屋を出て行って、なかなか帰って来ない。遠くから、何か金属の板がぶつかったりへこんだりするような、がちゃん、べこんという音がしている。

 座敷の向こうはガラス戸になっていて、その向こうにはまた庭があるのが見えた。

 あらためて大きな家だと思う。

 ここが図師ずし氏の家なのだろうか?

 いや。

 さっき、川のなかを歩いているときに先輩が言ったように、図師氏は戦国時代には没落してしまって、その子孫はどこかに行ってしまったという。

 それに、先輩の資料や新郷しんごう市歴史民俗資料館のパンフレットに出ていた図によると、さっき歩いてきたあたりの町のぜんぶが図師氏の館だったのだ。つまり、その図師氏の館は、このお屋敷よりもずっと大きかった。

 中世の豪族というのはすごく力があったんだな、と思う。

 ところで、あのおばあさんのほかに、この家にはだれも住んでいないのだろうか?

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