第10話 一生の不覚(10)
もちろん生徒会室に入るのなんて初めてだ。
入ってすぐのところには机ぐらいの高さのスチールの棚が置いてあって、それが仕切りがわりになっている。スチール棚の上には書類を入れた小さい棚が置いてある。向こうの窓に近いほうは大きい机で、たぶんそこで生徒会の会議をやるのだろう。
右奥に背の高いロッカーが並んでいる。そのロッカーの向こうが白と赤のチェックのカーテンで仕切られていた。
教室の電灯は消したままだ。
窓のほうには大きい食器棚や冷蔵庫があり、それが窓をふさいでいる。片側はロッカーの裏側、片側は黒板で、暗い。
そのまん中にもテーブルが置いてある。これも白と赤のチェックのテーブルクロスがかかっている。まん中には花瓶が置いてあり、花も生けてある。何の花なのかは知らない。造花ではないと思う。
家のキッチンのようだ。
生徒会の人たちがここでご飯を食べたりお菓子を食べてお茶を飲んだりするのだろうと花梨は思う。
仙道さんは、その花瓶と並べておいてあった電気スタンドのスイッチを入れた。LEDの白い明かりがぱっと灯る。
「貸して!」
仙道さんは
「あっためるから」
さすが生徒会だ。電子レンジが置いてあって、それでお弁当があたためられるようになっている。
「あっためると困るものって入ってないよね」
「あ、うん」
花梨は、サラダの入った小さいタッパーを自分のほうに残してお弁当箱を仙道さんに渡す。
渡してから、きく。
「でも、委員でもなんでもないわたしが生徒会室でお弁当食べたりしていいの?」
仙道さんは、スイッチを入れ、電子レンジのなかをのぞきこんでから、振り返って言った。
「あ、いいのいいの。今日、わたし、当番で、たぶんほかの委員のひとは来ないから。それに、クラス委員じゃなくてもここ使っていいんだよ。林さんも委員やってるでしょ」
「あぁ」
委員? そんなのやっていたかな?
そうだ、と思いついて、慌てて口を開く前に、仙道さんが言った。
「そうだ。林さん、あの「城のある町」委員だったよね」
「ああ、はい……」
いや、ここではいって答えてはいけないだろう。仙道さんはかまわずつづける。
「だったらなおのこと使っていいんだよ。あれは県の高校全体の委員だからさ。普通の委員より格が上なの。別格」
「別格」だったのか……。
その「別格」の委員会の委員長ならば、それは
「あ、いや……」
訂正しなきゃ!
「そのことなんですけど、じつは……」
「あ、話はお弁当食べながらにしよ!」
電子レンジの前で振り向いて、仙道さんは言う。
「お茶入れてくれる? あのさ、その黒板のまん中あたりのカラーボックス、うん、その棚、それの一段目、いやいや、上から一段目だって。そこにお茶っ葉があるでしょ? うん、緑の缶に入ってる、うん、それ。で、その横あたりに茶こし、ない? そう。その
仙道さんにリモコンで動かされるようにして、「はい」とか「これ?」とか言うひまもなく、花梨はお茶を入れた。
仙道さんは、べつに早口で切れ目なくしゃべって花梨を圧倒したわけではない。
活発そうにも見える。でも、同時に、人がよさそうで、温和な感じで、全体の感じはどっちかというとおっとり系、しかも、
二回めのホームルームで、委員長の立候補者がいなかったとき、同じ学校から来たクラスメイトが、仙道さんが中学校で生徒会長をやっていたとばらした。それで、じゃあ委員長は仙道さんに、という声が出ると、仙道さんは
「じゃあ、やります」
と言い、すんなり委員長に決まったのだ。
花梨の中学校では、委員長は、押しの強い、ときにはわがままな子と決まっていた。こんなおっとりした子で委員長が務まるのかな、と思った。
とりわけこの子は声が通らない。低くて、ちょっと甘い感じの声でしゃべる。それが、感じがどことなくざらっとしていて、「庶民的」といえばそんな感じだけれど、ともかく地味だ。
でも、務まっている。
そして、その理由が、いまわかったと思う。
きらきらしてる。
全体が、より、輪郭が、と言えばいいのかな。
全体は地味で、それでも一目見たときに人を引きつけるところがある。清楚さ、というのだろうか。その髪の毛、その顔、そして制服のリボンから、制服の輪郭まで、地味だけどやっぱりきらきら輝いて見える。
おっとり系で、性格もぜんぜん派手じゃないのに。
こんな感じは、美人の
いや、守山先輩にも。
「で、さっきの相談事って?」
テーブルで、向かいになるように二人の弁当箱を置いて、その清楚な仙道委員長が花梨に言った。
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