第4話 偽りの過去

午前11時、新宿駅は平日にもかかわらず人で溢れている。


携帯のバイブレーションが鳴った。


「もしもし、高橋です。着きました。」


「東口の喫煙所前にいますのでそちらで待ちわせでいいですか?」


その会話の後、1人の男性が声をかけてきた。


「もしかして中村さんですか?」


その男性は少し彼に似ていた。

あぁ、この人が智行の父親なんだと。


「はい、中村莉乃です。初めまして。」


「息子がご迷惑おかけしてすみません。高橋です。」


軽く挨拶をすませ、近くの喫茶店へと向かった。

その間は沈黙の時間が流れる。


喫茶店へ入って喉を潤してから会話が始まった。


「息子、智行が本当にご迷惑おかけして申し訳ないです。」


私は警察を呼んだ経緯などを説明した。

父親は溜息をついた。


「前にも交際してた方と喧嘩して警察沙汰になっているんです。」

その事は彼から聞いていた。

「元奥さんですよね?」

智行はバツイチ。

子供も1人いることは知っていた。

「はい、そうです。離婚した後は夜逃げする形で大宮から出て行ったんです。」


――― 智行からは離婚した後に付き合った彼女の仕事の関係で引越したと聞いている。

私は彼の言っている事が信じられなくて父親に聞いた。


「あの、夜逃げというのは初めて聞きました・・・。」


父親は少し険しそうな顔をして言った。

「智行は昔から少し話を盛る癖があります。」


私の中で何か腑に落ちない部分が解けていった。


「あの、結婚してから2年子供ができなかったと聞いているのですが・・・」


「それ、嘘ですよ。できちゃった結婚でしたから。智行が25歳の時です。奥さんが妊娠してから智行のDVが始まって奥さんは実家へ帰ったんです。それでそのまま離婚になりました。」


彼は私にどれだけ嘘をついているのだろう?

急に怖くなった。


智行から聞いた話と父親から聞く話が辻褄が合わない事だらけだった。


「智行の母親が亡くなったのは知っていますか?」


「それは知っています。」


「その時の状況はご存知ですか?」


「お母様が亡くなった事までしか聞いていませんが・・・」


「智行と無理心中しようと思って家内は死んだんです。」


私の中で衝撃が走った。

――― 無理心中・・・


「智行は昔から変わった子でした。それを気に病んで家内は智行と無理心中しようとして死にました。」


彼の父親は遠くを見ながら話している。


「昔から見えないモノが見えたりと言ってきたり、妹に対して酷い扱いをしたり・・・智行が怒っている時は目が濁るんです。あの目は人を殺しかねない目です。」


彼のトラウマはここにあるのだと確信した。

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壊れたキャンドルライト 高山 詩葉 @shinoha22takayama

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