第3話 精神的不安

待合室から取調室へと戻された。

彼は隣の取調室にいる。

かすかに声が聞こえる。


「私達、精神医療センターの者です。日頃の彼の様子などを教えて下さい。」


――― 精神医療センター?


「彼は常に精神薬を飲んでますか?」


精神医療センターの女性は私に淡々と問いかける。


「はい、飲んでます。」


「どんな薬を飲んでますか?」


「抗うつ薬・睡眠薬・精神安定剤などだと思います。薬の名前までは分かりません。」


医療センターの職員達は話し合い始めた。

その声は私の耳には聞こえない。

数分してから「彼を精神医療センターの方へ輸送します。」と言われた。


また私は待合室に戻され、私の座っている所に警察官が衝立をした。

「これから彼を精神医療センターへ輸送するので顔合わせると興奮状態になるかもしれないので衝立しますね。」


衝立をされて数分すると彼の声が聞こえた。

「あぁーいるよ!居る!あそこに居やがる!」

そう叫びながら職員に連れて行かれた。


彼が居なくなってから衝立は撤去された。

私は彼の親族に連絡をしなければと思い、警察官に彼の親族の連絡先を尋ねた。

「申し訳ないけど、それは教えられない。」と言われた。

個人情報なので当然だ。


家に帰ってきてから私は彼の父親が埼玉で会社を経営している事を思い出した。

父親の名前をネット検索したらすぐに出てきた。

会社の電話番号を携帯に登録した。

朝一に電話をかけよう。


時計を見ると夜中の2時38分。

何時間、警察署にいたのだろう・・・

さっきまで警察署にいたのが嘘のような静かな夜。

私は眠れないでいた。


私の携帯に知らない番号から着信が鳴っている。


「こちら新宿精神医療センターです。高橋智行さんはこちらで措置入院となります。明後日、2日の午後2時に中村さんの方はこちらに来ることは可能でしょうか?」


「・・・はい、大丈夫です。」


「そうしましたら指定したお時間にこちらにお越し下さい。」


「わかりました。」


――― 彼はこれからどうなってしまうのだろう・・・?


――― 私はこれからどうしたらいいのだろう・・・?


自問自答しては夜が明けるを待った。

煙草の本数だけが増えていく。

喉の渇きが異常だ。


朝9時に彼の父親の会社に電話をかけた。

"息子さんの件で"と伝えるとすぐに父親に電話を取り次いでくれた。


「初めまして、智行さんと交際させて頂いてる中村莉乃と申します。」


「こちらこそ初めまして、父親の高橋です。息子が大変ご迷惑おかけしてすみません。」


彼から聞いていた厳格な父親とは全く別の印象を持った。物腰が柔らかく、優しい声をしている。


「お父様の方に警察から連絡いきましたか?」


「はい、警察からと精神医療センターからも連絡頂いております。明後日の午後2時に精神医療センターの方へ来てほしいと。」


彼の父親も精神医療センターに呼ばれていたのだ。


「よろしければその前にお会いして、一緒に精神医療センターの方へ行きませんか?」

私はそう言っていた。


「では、そうしましょう。新宿駅に着きましたら連絡致します。」


こんな形で初顔合わせになってしまった。

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