合流/自覚
土曜日の朝。いつものように暑さを感じで目を覚ます。
俺に引っ付いている秋穂を起こさないようにスマホを取って時間を見てみると、まだ午前八時だった。
時計を見るついでに、トークアプリの通知が来ていたので確認すると、月乃瀬から『おーい』『寝ました?』とメッセージが届いていた。
「(あー、寝落ちしたのか)」
今日の予定を決める前に睡魔に負けたことを謝ろうと、『ごめん、寝落ちした』と送ろうとしたところでふと考える。
今日は土曜日の朝八時だ。もし月乃瀬がまだ眠っていたらメッセージの通知音で起こしてしまうのではないか。
一分ほど悩んで結局は送ることにした。何せ今日の予定はまだ決まってないから早めに色々と決めておきたい。
送信すると、数十秒後に返信が来た。どうやら既に起きていたらしい。
[星来:おはようございます! 今日どうします? 秋菜ちゃんはお目覚めですか?]
そういえば秋菜の意見待ちだったなと思い出したタイミングで、ドアを開いて寝ぼけ眼の秋菜が部屋に入ってきた。
「しゅうおにいちゃん……ままいない」
どうやら目覚めた時に、隣に母さんが居なかったから寂しくなってやって来たようだ。
「母さんは今日はお仕事。秋菜、おいで」
呼ぶと秋菜はトコトコと寄ってきて、掛け布団を捲って俺の身体の上に乗っかってきた。
俺の胸元に頭を置いてもぞもぞ動く。しばらく動くと、良いポジションが決まったのか急に脱力し全体重を俺に預けて「うー」と気の抜けた声を出した。
「あきほちゃん、まだねてる?」
声量を落として俺に話しかける秋菜。気遣いの出来る良い娘である。
「まだ寝てるよ」
「じゃあいまは、あきながしゅうおにいちゃんをひとりじめだ」
「えっ、何それ可愛いかよ」
イタズラに笑う秋菜を見て、将来が心配になる。今でさえこんなに可愛いし、父さんと母さんの血を引いている以上、成長しても信じられないくらい美人になるか、超絶可愛くなるか、その両方を併せ持った女神になるに違いない。
きっと信じられないくらいモテるし変な男が寄ってくるだろう。常にスタンガンを持たせておくべきかもしれない。
「しゅうおにいちゃんどうしたの?」
「あ、ごめん。秋菜は今も可愛いけど、将来はもっと可愛くなるだろうなって考えてた」
「しゅうおにいちゃんは、あきながかわいくなったらうれしい?」
「もちろん、嬉しいよ」
「じゃあかわいくなってあげる!」
「あーいけませんいけません……心が浄化されそうです……マジ天使、いやもうこれは天使長だわ」
「? てんしちょう?」
浄化寸前で踏みとどまった俺は、それからしばらく秋菜の頬を突いたり逆に突かれたりしながら過ごしていた。
すると眠っていた秋穂が目を覚ます。
「秋穂、おはよ」
「あきほちゃんおはよう!」
秋穂は俺たち二人を見ると「おふぁよ」と欠伸混じりに言った。その数十秒後、急に目をカッと見開き叫んだ。
「みづきちゃん!」
「深月ちゃん? あ、やべ……月乃瀬に返事すんの忘れてた」
「みづきちゃん? どうしたの?」
当然、遊びに誘われていることを知らない秋菜は急に友達の名前を叫んだ秋穂に聞く。
秋穂は深月ちゃんと遊ぶから一緒に遊ぼうと秋菜に言い、秋菜もすぐそれに頷いた。
[星来:おーい! まさかの二度寝ですか?]
既読をつけたまま返事をしなかったせいで月乃瀬が俺の二度寝を疑っていたので『天使長が私と遊んでくださった』と送り、その後すぐに秋菜も遊べると伝える。
[星来:天使長? 先輩、もう高校二年生ですよね?]
遠回しに中二病と言われたのはスルーし、その後は真面目に今日の予定を話し合った。
☆
「みづきちゃん!」
「みづきちゃーん!」
「あきなちゃん、あきほちゃん!」
幼女三人が輪になるように手を繋いでキャッキャウフフしてるのを横目に、俺と月乃瀬はベンチに座った。
時刻は午前十一時。待ち合わせ場所としてお互いの家の中間あたりに位置する公園を指定され、そこで合流すると幼女三人のテンションは急上昇。
落ち着くまで二人でベンチに座っているという状況だ。
「あれが天使の輪か……」
「いやホントなに言ってるんですか?」
幼女の輪を見てポツリと呟いた俺に、月乃瀬が半目でツッコミをいれる。
月乃瀬の服装はジーンズにTシャツと非常にシンプルで、オシャレよりも動きやすさを重視しているようだ。
「この後、先輩の家で良いんですよね?」
「家で昼飯予定だったっけ。買い物いかなきゃなー」
「じゃあ早めに動いたほうが良いですね。あんまりお昼が遅くなってもいけませんし」
「だな」
輪っかを作っていた三人も少し落ち着いたのか何かお喋りしているようだ。
声をかけて、三人から目を離さないよう気を付けながら移動した。
俺の家に行く途中でスーパーに寄って色々と買い込んだ。
それぞれ妹たちの面倒を見ながら歩いていると、すれ違う奥様が「あらあら」と言いながら俺と月乃瀬を見る。
流石に俺と月乃瀬の年齢では若夫婦にしても若すぎると思うので、仲のいい兄妹にでも見えたのかもしれない。
「若夫婦にでも見えるんですかね?」
月乃瀬が、俺が心の中で否定したことを声に出した。
「いや見えないでしょ」
「そりゃそうかー。先輩って彼女とかいないんですか?」
「居ないなー」
「そうなんですねえ……意外です」
月乃瀬の言葉に反応せず黙っていると、目を丸くした月乃瀬が俺をのぞき込んできて声を出す。
「『意外じゃないよー』とか、『意外ってなんだよー』とかは言わないんですね」
「言ったほうが良かった? さすがにある程度は自覚してるから反応しないのが手っ取り早いんだけど」
俺は少しばかりモテていることは自覚しているつもりだ。
高校生になってから女子生徒に告白をされることが度々起こっていたし、特に関わりが深いわけでもない人から連絡先を渡されたり、デートに誘われたりと色々あった。
中学時代は避けられていたから最初は戸惑うばかりであったが、積極的に来る女子を見ればイヤでもモテていると気付く。
そういう女子が言う『カッコいい』や『彼女いないの意外!』は反応に困るので出来るだけ薄い反応をして話を変えていた。
「あ、先輩ってそういうタイプなんですね。ナルシストですか?」
「モテる自覚があるのをナルシストっていうのならそうかもなー」
「いや、それだけじゃナルシストでは無いですね」
「じゃあなんで言ったんだよ……」
「なんとなくです」と言いながら月乃瀬は笑った。
その笑顔を見て、月乃瀬こそモテそうだなと思ったが口には出さず歩き続ける。
「あ、そうだ……」
月乃瀬が思い出したかのように声をあげた。
「私は先輩に対してラブな感じでは無いですからね」
「あ、はい」
「さっきはあんなこと聞きましたけど彼女が居るかを本当に気になって探ったわけじゃなくて、話題の一つとして聞いただけですからね」
「はいはい」
「先輩に対してそういう感情は全くありませんから。ガチのマジで! リアルに!」
「いや、別に『こいつ俺のこと好きだろ』とかは思ってないけど、そこまで否定されたらちょっと傷つくんだけど……」
「あ、すみません……」
「許す」
その後はお互いに好きな食べ物とか、全部同じ大きさと仮定した場合の最強の動物はどれとか、近くの川でカッパを見たと思ったらザビエルみたいな髪型の人だったとかくだらない話をしながら俺の家に向かったのだった。
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