第18話 二人とのお別れと……

今、母と見つめ合いながら両手を握り合ってる。


僕がマザコンとかではなく、魔力操作を母としているためだ。

母の魔力は穏やかで優しく包まれているようで、ずっと魔力操作をしていたくなる気持ちになる。

僕はようやく魔力の質が解るようになってきた。

母の魔力の色は透き通った青だ。一度母に魔力を強く流して欲しいと頼んでみたときは、濁流にのまれるような激しい流れを魔力から感じ取れた。その時はネイビーブルーのような濃い色をしていた。

最近では手を握ってなくても何となく、その人が纏う魔力の色が解るようになってきている。


レイさんから『エンチャント』を教えて貰った。

剣で例えれば、剣に自分の使いたい属性魔法を留めておく、剣だけに自分の使かった属性魔法を纏わせている状態を『エンチャント』している状態だそうだ。


『身体強化魔法』は詳しく教えてくれなかったが、『エンチャント』からヒントをもらっていた。

剣だけに使いたい属性魔法を纏わせていたのを『エンチャント』だ。

自分自身に使いたい属性魔法を纏わせてみたらどうだろうかと考え、やってみると案外簡単に出来た。

雷属性の『身体強化魔法』は早さが格段に上がり、力が少しだけ増えたような状態だった。

だが、無属性の『身体強化魔法』はまだ出来てない。

レイさんが魔力の質を見極めれるようにと僕にいった意味がようやく解った。

僕の雷魔法を色に例えると、黄色だ。その色を抜いた透明の状態でようやく無属性の魔法が使える。

僕は他の属性の使い方もわからないし、属性の色を抜く方法もわからない。

さらにいえば、まだ『身体強化魔法』と『エンチャント』の属性を変えれない。

同じ属性の雷魔法なら『身体強化魔法』と『エンチャント』を同時に使うことが出来た。魔力操作と魔力量の関係で長くは維持できないでいるが。


三ヶ月の間、レイさんとティナ先生にはみっちり教えてもらったが、やはり時間が足りなかった。


今日の二人の出発までにどうにか間に合わせたかったが、レイさんの課題を成し遂げることが出来なかった。

代わりに覚えた魔法があるが二人に満足してもらえるかまでは解らない。努力はしてきたつもりだけど、期待に応えられなかった事に僕は落ち込んだ。


「エド、いつまでも拗ねてないの。今日は二人に色々教えて貰って出来るようになったことをみせるんでしょ?そんな顔していたら、二人は悲しむわ。」


母から話しかけられて、思考の溝から僕は抜け出す。

母の顔を見ると、少し困った顔している。


「母様、ありがとう。二人が村から旅立つのに、こんな顔していたらダメですよね。おかげで少し目が覚めました。」


「うん!私に似て良い顔してるわ。その笑顔で二人を送り出してあげましょうね。」


「母様が美人で本当に感謝してます。」


「エドもたまには冗談いうのね。みんなで二人を送り出してあげましょう。」


二人に内緒で、村の人達に見送りのお願いをするため声をかけると、二つ返事で了承してくてた。

二人はこの3ヶ月間、村の人と交流を重ねており、村では人気者になっていた。

二人をこの村から出したくない人は、愛の告白をして撃沈している。

それでも最終的には、村全体の人で二人を送り出そうと意思を同じにした。


僕は自分の家を出て、二人が今日まで住んでる家に向かう。


「レイさん、ティナ先生おはようございます。少しだけ時間をいただけますか?」


二人が僕に笑顔であいさつしてくれた。そして二人は黙って村の外まで付いてきてくれた。


「僕は3ヶ月間、二人から多くの事を学びました。あと、レイさんごめんなさい。僕はレイさんが出した課題の無属性の『身体強化魔法』を取得出来ませんでした。本当は課題をクリアしたとこを見せて送り出したかったんですが、二人から学んで、僕が今できることをみせようと思います。」


レイさんは黙って頷き、ティナ先生はどこかレイさんを非難するような目でレイさんを見ていた。


僕は目を瞑り、僕の中にある二つの魔力を馴染ませる。

そして魔導書を媒介に、木に手をかざし僕は魔法を唱える。


「『白雷』」


黄色の雷ではなく、白色の雷が木にぶつかる。

木は魔法がぶつかると、ズコンッと音を立て、白い炎で一瞬で燃え上がる。

僕は再び意識を集中して魔法を唱える。


「身体強化魔法『ゼウス』」


僕の身体は白雷の光に包み込まれ、母に似た柔らかいブロンドの髪が静電気のせいなのか逆立っている。


剣を鞘からだし、居合いを木に放つ。

すると、斬撃が一本目の木を貫通して二本目の木の中程で止まる。

僕は魔力の消費が激しく、『身体強化魔法』を解いて地面に膝から倒れた。


ティナ先生は僕に駆け寄ってきた。

ティナ先生は僕を仰向けにし、ゆっくりと僕の頭を上げ自分の太ももに頭をのせて髪を優しく撫でてくれた。


「エド君、すごいよ。教えてもないのに合成魔法使ってるし。なんでそんな無茶したの?教えてないのにはちゃんと意味があるんだよ?エド君の今の魔力量じゃ死んでる可能性もあるんだよ。

それより、お兄ちゃんもおかしいよ。なんでエド君をこんなに追い詰めたの?無属性の魔法が特殊なことを解っているのに、この年でやらせようなんて……」


ティナ先生はレイさんを睨んでいる。

レイさんはばつが悪そうに僕に頭を下げた。


「エド君、すまなかった。私はエド君が私の住んでいるところに遊びに来ると言ったから、それまでの課題のつもりで言ったんだ。私のとこに遊びに来るとしても、成人の年の15歳だと思ったから、それまでの鍛錬の課題にだしたんだ。

それでも私の目には狂いはなかったよ。少なくとも私たちが居る間にそれだけの成果、いや、成長をしている。私は年など関係なく、一人の人間としてエド君を尊敬するよ。」


レイさんが僕を子供としてでは無く、認めてもらえたと僕は感じ取れた。

レイさんの話を聞くと、ティナ先生はため息をつき、あきれた顔で僕たち二人を見てくる。


「男の人って本当にバカばっかなんだから。エド君はもう少し賢いと思っていたのになぁ~。」


僕とレイさんは顔を見合わせ笑ってしまった。



昼前になると、村の入り口には村人で溢れていた。


「レイとティナ、今回はエドを指導してくれてありがとう。エドにとってかけがいのない経験になった。俺もおまえ達とまた会えて嬉しかった。

いつでもいいから、また村に遊びにでも来てくれ。俺達ができるだけの歓迎はする。」


「オズ、今回は本当に良い機会をもらえて私は嬉しかったよ。これほど教え甲斐のある弟子に出会えたことに感謝している。本当はもう少し村に居たかったが、残念でしかたがないよ。またオズ達や、村の人たちに会えることを願っているよ。」


「アイリも身体には気を付けるのよ。あなたとまた会えて私は嬉しかったわ。エド君も今までありがとう。私にとっても、いい刺激になったわ。絶対に大きくなったら会いに来てね。待ってるから、約束だからね。村の人たちも今までお世話になりました。ありがとうございます。」


二人は僕たちに別れの挨拶をすると、僕たちが見えなくなるまで笑顔でずっと手を振ってくれた。


「二人とも、行ってしまったね。」


誰かがそう呟いた。

村の人達も寂しそうにしていた。

それを見て、二人のことを想う。

短い期間だったが、二人に僕は多くのモノを貰った。

僕は二人の為にも頑張らないとと思った。

いつか二人の住んでる街まで行って、僕の成長を見てもらいたい。レイさんは最後に僕のことを弟子と言ってくれた。今まで言われたことがなかった。

僕の胸には熱いモノが込み上げていた。

二人の前では泣かないと決めていたが、見えなくなるとすぐに目から雫がこぼれる。

二人と多くの時間を過ごしたのは僕だ。本当はもっと父と母と交流したかったに違いない。

だけど、僕にたくさんの時間を割いてくれた。


『僕は必ず成長して、二人に会いに行きます』


心に誓った。






俺は気付いていたことがある。

俺は少しずつ記憶が無くなってきている。

鈴谷健吾として過ごしてきた日々を。

俺には最愛の人がいた。宮下愛子だ。

なぜ別れたのか今では思い出せなくなっている。

あんなに『愛していた』のに、今では少しずつ、あのときの色が薄くなってきている。

過ごしていくうちに解っていたんだ。ただ、認めたくなかっただけ。

最初は気のせいだと思っていた。

外見が若くなったから、精神年齢が引っ張られているだけだと。

10歳になり、変化は劇的に訪れた。

女神様に、二つ目のスキルを授かってから、自分が自分じゃなくなるような感覚が多くなってきた。とくに感情が引っ張られることが多くなった。

毎日の日々は充実していて楽しい。だけど、そんな日々がそれ以上に怖かった。

俺の体内には違う属性の魔力が2種類ある。

あるとき、二つの魔力を混ぜようとしたときに気付いた。俺の存在と僕の存在に。

俺はそれに気付いたときに、離そうとした。だけど僕は離れようとしなかった。

俺は考えてしまった。

本来は、僕が産まれてくる方が正解なのではと。

そこからは早かった。僕と俺は少しずつ混ざりあって『同化』していった。

だけど、この願いだけはなぜか胸に最後まで残っている。


『愛子が幸せでありますように』





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