第11話 初めての実戦

街を出て、5日が経ちようやく村に着いた。


村に着くと、たまたま僕を見つけたルナちゃんが飛び付いてくる。

僕はルナちゃんをどうにか受け止める。


「エド君、お帰りなさい!帰ってくるのをずっと待ってたんだよ。。」


ルナちゃんは目をウルウルさせて僕を見つめてくる。


「ただいま、ルナちゃん!ルナちゃんにお土産買ってきたよ。」


困った僕は話を逸らそうとした。


「私の兄様なんだから、ルナちゃんは離れて!」


「久々のエド君なんだもん、離れない」


ルナちゃんと妹のエリスはお互い引かず、口を膨らませて睨み合っている。

そこにルーシアさんと僕の母も加わり姦しい集団が出来た。


「アイリさん、おかえりなさい。」


「ルーシアさん、ただいま。お土産買ってきたから、あとで家族のみんなと見てくださいね。」


「まぁ、嬉しい!いつもありがとうございます。」


「兄様は、私の兄様です!」


「私もエド君と仲良いもん!」


その場に居づらくなり、父の元へ僕は向かった。


「エドはモテモテだな。」


父はニヤニヤしながら、僕に言ってきたので、僕は父のすねを蹴った。


「いたっ!エド怒るなよ。だけど、2人のこと大事にしてやれよ。」


僕の父はおどけながら、たまに父親らしいこと言う。

僕は二人に目を向け、小さく頷いた。

疲れていたのか、久々の我が家にホッとしていつもより僕は早くに寝てしまった。




翌朝、いつも通り村を走り家に帰ると、父がいつもより早く起きて僕を待っていた。


「今日は朝から森に入って、狩りをしようと思う。朝ご飯食べてからすぐに家をでるから、エドも狩りの準備をしておけ。」


前回、狩りに連れて行ってもらって僕は何も出来なかった。

今度こそはと思い、僕は意気込んだ。

朝ご飯を食べて、僕たちは森へと向かった。


森に着くと、父は振り向き


「今回は一人でゴブリンと戦ってもらおうと思う。ゴブリンは知性も低いからそんなに怖い相手じゃない。ただ、油断すると危ないから気を引き締めろ。」


父が真剣な顔で言ってきたので、僕は固唾をのむ。

前に森にきたときに教わったことを思い出しながら、父の後ろをなるべく音をたてないようにしてついて行く。


森を歩いて30分くらいたつと、父が待てのサインをおくってきた。

僕の緊張が高まる。

父が小さな声で指をさしながら僕に話しかけてくる。


「あっちを見ろ。ちょうどはぐれのゴブリンが一匹いる。木の実に夢中でこっちのことには全く気付いていない。死角からアイツに弓を射るんだ。」


僕はゆっくり相手の後ろにまわる。

緊張して、弓矢を引っ張る手が震える。

気持ちを落ち着かせ、弓を射る。


「グギャァ」


狙いが外れ、相手の肩に弓矢が刺さった。

相手はこちらに振り向き、怒りに満ちた顔で僕を睨みつけてきた。

怖かったが、震える手で腰から木刀を抜く。


ゴブリンは奇声をあげながら、僕の方へ駆け寄ってきた。

前世の時、RPGや異世界モノの小説でスライムと並んで最弱の魔獣で有名なゴブリンだが、実際現実で目の前に現れたら足がすくんだ。


「よけろ!」


父の声で、僕は横にとんだ。

ゴブリンは木の棒を大振りしたため、空を切ったとき体制を崩し前へ転んだ。

僕は立ち上がり、転んだゴブリンの頭にめがけて木刀を振り下ろす。


「ギャァ」


「グゲッ」


ゴブリンは奇声を上げてたが僕の耳には入ってこず、一心不乱で頭を何回も木刀を振り下ろす。

父に止められて、ようやくゴブリンが死んだのを認識した。

ゴブリンの死体を見た僕は前世での道徳や価値観が頭をよぎり、自分の手で殺したことに気持ちが悪くなり嘔吐した。


父は僕の背中をさすり


「よく逃げずに頑張った。初めての魔獣は怖かったか?俺も初めて魔獣を殺したときに、おしっこちびったのを今でも覚えてる。ママには内緒だぞ。

俺は今でも魔獣を対峙するとき怖いと思っている。その気持ちを絶対に忘れるな。

殺して当たり前と思うな。怖いと思わなくなったら、人間じゃ無くなってしまう。

人の心は忘れたら駄目だ。」


父は嘔吐している僕にそうなって普通だ、殺すことを怖いと思えと何度も言い聞かせた。

僕は少しずつ落ち着きを戻した。

父から水筒をもらって口を濯ぎ、口を潤した。


僕はどこかゲーム感覚でいたのだろう。

初めての生殺与奪をしてようやく現実を受け入れることが出来た。

殺すのは殺される覚悟のあるやつだけだと前世で何かの漫画で読んだ覚えがある。


まさにその通りだった。

まだ僕には覚悟が足りなかった。

今回、父が僕を一人で魔獣と対峙させたのは、気持ちの部分を教えたかったのだろう。

十分に教訓を得る時間だった。


今日はそのまま森から出て、家に帰ることとなった。






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