第9話 Side???

私はテレビのニュースを見て、愕然としてしまった。

鈴谷健吾が交通事故で死亡した。


私は小さい頃からの知り合いだ。

俗にいう、幼馴染みというやつだ。


彼とは高校に入るまで仲良くしていた。

というより、私が彼の後ろをついて歩いていた。

小学校時代は引っ込み思案なとこもあり、私は人と話そうとしなかった。

彼だけが私を心配してくれて、いつも私に話しかけてくる。


小学生はガキだ。外見じゃ無く、心が幼い。

私と仲良くしているせいで、彼はいつも男子達に冷やかされる。


「おまえ、○○の事が好きなんだろ!?」


「○○とチューしろよ!」


「○○と手をつないでるの見たぞ!」


子供は残酷だ。

何も解らないから。


それでも彼は、私に気を遣ってくれる。

僕も気にしないから、○○ちゃんも気にしなくていいよ。


彼はかっこいいわけではない。

容姿は平凡だし、運動も普通、頭も良いわけではない。

だけど、心の器は誰よりも大きかった。


そんな彼と過ごすうちに、私は変わりたいと思った。

後ろから、私はいつも彼を眺めている。


中学生になると、体も心も変化してくる。

男の子は男性に近づき、女の子は女性に近づく。


男子はちょっかいを出して気を引こうとするより、会話やボディータッチ、気遣いで相手の気を引くようになってくる。


私は、お父さんとお母さんのおかげで容姿は整っている方だ。

小学生の頃と違い、中学生になるとからかわれなくなった。


中学3年生になる頃になると、私は告白をよくされるようになった。

だけど、私は誰とも付き合わない。


彼は、小学生の頃から何も変わらない。

私を気遣ってくれるし、優しい。

だけど、彼は変わってくれなかった。


私は小学生の頃から彼の事が好きだ。

もちろん、異性として。


中学生になってから、私は変化を求めた。

私自身も、引っ込み思案がなかったかのように、みんなと面と向かい話せるように変わった。

何も変わらない彼に私は少しずつ苛立ちをもつようになった。


彼と同じ高校に合格した。

もちろん私は嬉しかった。

また、3年間彼と同じ時間を過ごせると。


彼に変わってもらうより先に、周りの変化が激しかった。

私は容姿のおかげか、カースト上位にいる。

周りも綺麗な子や格好いい子ばかりで、私は浮かれてしまった。


彼は、高校に入ってから1人で居ることが多くなった。

それでも私に対する態度が変わらなかった。

私は苛立ちを我慢できなくなってきていた。


ある日、放課後に教室で友達と異性の会話をしていたときに、


「○○って、鈴谷と仲良くしてるけど好きなん?」


「あ~私もそれ、思ってた!」


私は、変わらない彼に苛立っていたので、思ってもいないことを言ってしまった。


「あいつはそんなんじゃない。ただの幼馴染み。あいつの事はどうでもいい。好きでもないし、興味も無い。ただ付きまとわれてるだけ。」


教室の外から物音が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだ。


それから、彼は私に話しかけなくなった。

むしろ、避けられるようになった。

彼に苛立って、怒って聞くと『僕と君では釣り合わないから』と言われた。


私は別にいっかと思った。

周りにはイケメンが沢山いるから。


それから、何かがおかしくなった。

見た目だけをきにするようになり、それから私は好きでも無い相手に身体を許すようになった。

抱かれている一瞬は幸せを感じる。

だから、多くの人を求めた。


自然と周りはそんな人ばかりで溢れていた。



ある日、借り初めの恋人の会話を聞いてしまった。


「○○は甘く囁いたら、簡単に股を開く都合の良い女だ。」


どこで私は間違ってしまったのだろうか。




久々に母親とご飯を食べる。

母は心配そうに私を見つめていた。

会話の無い食卓で、母が先に口を開いた。


「最近、元気ないみたいだけど大丈夫?健ちゃんもずっと心配して、○○ちゃんのこと私に連絡してくれるの。」


意味が解らなかった。


彼は私と釣り合わないからと突き放したじゃないか。

なぜ、私の心配をしてるの?


なぜ、私から距離を取ろうとしたか解らないが、それでも彼は変わってなかったらしい。


私は久々に母との会話を楽しんだ。

彼が私のことをどれだけ心配していたのかを聞かされた。


部屋に戻って、私は目から涙が止まらなかった。

私は本当に、彼の何をみていたのだろうか。


それから、私は昔のように引っ込み思案になってしまった。

彼とは高校を卒業してから、会っていない。

私は今でも1人だ。

間違った私には戒めを、私を想ってくれた彼の幸せを願って。


彼の悲報を聞いてから、私は抜け殻のような日常を送っている。


彼の3回忌の墓参りを母と行ってきた。

私はもう少しだけ彼と語らいたい気持ちだったので、母に近くの喫茶店で待っていてもらった。


喫茶店の前の横断歩道を、ボールを追うのに夢中になった子供が飛び出した。

車が来ているのを気付いていない。

私は無意識に駆け出し、子供を突き飛ばした。


目の前に、車が迫ってきた。


『もう一度、健ちゃんに鳴美って呼ばれたかったな。』


心で願っている間に意識は途絶えた。






少しずつ意識が覚醒してゆき、目を開くと見知らぬ天井があった。

綺麗な女性が私を抱き上げ、嬉しそうにしている。

どうやら、前の記憶をもったまま生まれ変わったらしい。




私は五歳になり、街の教会に行かないといけないらしい。

村には、いつも優しいお兄ちゃんみたいな人がいる。

顔はイケメンだが、前世の彼にどこか似ている。


「早く村に戻りたいなぁ。」


私が呟くと、お母さんが笑いながら


「お兄ちゃんが恋しいの?」


おちょくりながら、ほっぺたをつついてくる。


教会に着き、祭壇に膝をつきお祈りをする。

ゆっくり目を開くと、人とは思えないような美しい容姿の女性が現れた。


アモル様と名乗った女性に、


「縁(えん)を大事にしなさい。そうすれば、過去も今も縁(えにし)は再び繋がります。」


アモル様は朗らかな笑みを浮かべる。


次第に意識は遠のき、そして意識が覚醒していった。


目の前には教会の祭壇がある。

さっきまでの出来事がまるで夢のような錯覚に感じた。

ただ、アモル様にいわれた言の葉は忘れなれない。


村に帰ると、たまたまお兄ちゃんに会った。

私を見たお兄ちゃんが話しかけてきた。


「ルナちゃん、お帰りなさい。」

笑顔で私を労ってくれる。


いつもは私はお兄ちゃんと呼んでいる。

だけど、アモル様の言の葉が私の頭によぎり


「エド君、ただいまぁ~。会いたかった。」


いつもは名前で呼んでないが、これからは名前で呼ぶことにする。


少し、前世の彼に似ているお兄ちゃんを見ながら私は心に誓った。





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