第7話 薄れゆく気持ち
来月で僕は10歳になる。
身長も伸び、140センチを超えるくらいにはなっていると思う。
今日も朝から村の周りを走っている。
最近は少しずつ走る距離も伸ばしている。
家に帰ると、母より早く起きた妹のエリスが僕に水を汲んでくれた。
「兄様、朝からお疲れ様です。冷たい水を用意しました。」
「エリーいつもありがとう。おかげで今日も頑張れそうだよ。」
最近では、妹のエリスが両親より僕の世話をしようとしている。
固い黒パンを持って僕は家を出る。
最近では、畑仕事をするまえに近所のおばあちゃん達が居る集会に参加している。
回復魔法の練習をするために、腰痛や関節痛などの痛みを和らげる魔法を一人一人に唱える。
「今日もオズのとこの聖人様きてくれた。」
「いつもすまないねぇ。」
みんな口々に感謝を述べていく。
孫と接するみたいで嬉しいのかみんな笑顔だ。
家から持ってきた黒パンを囓りながらおばちゃん達と会話を楽しんだ。
その後に畑仕事をして家に帰宅した。
今日は父と初めて森に魔獣を狩りに行く。
「準備はできたか?」
いつもは気の優しい父が真剣な顔で僕に尋ねた。
今日は初日なので、森の入り口付近で狩りをする。
弓と矢を入れた筒を肩に背負い込み、腰に木刀を差してから父に応えた。
森に入ると、木の枝で日光が遮られ、薄暗く感じる。
緊張しながら、周りを警戒する。
ガサッと音がして僕はビクッとした。
父から小さな声で、あそこにウサギが居ると告げられた。
僕は肩から弓と、矢を筒から取り出し、いつでも射させるように集中する。
ウサギが飛び出てきたのを確認して矢を放った。
矢はウサギの横を通り過ぎ、それに気付いたウサギは逃げてしまった。
父に頭をゴシゴシされ、惜しかったなと言われてから息を吐いた。
よほど緊張していたらしく、汗まみれになっていることに気付かなかった。
それから、森の歩き方や魔獣の足跡の見つけ方、傷を負ったときに使える薬草を教えて貰っているうちに、日が暮れて、より薄暗くなってきたので家に引き返すことにした。
帰り道、周りから何かが近づいている音が大きく響いてきた。
父は無理矢理僕を引き寄せ、
「フォレストウルフだ。エドはここから動くな。」
草の茂みに僕を隠して、父はフォレストウルフが近づいてくる方へ駆け出した。
目に見えるだけで3体のフォレストウルフがいた。
父は剣を腰から抜き、中段で構える。
フォレストウルフは父の死角をとるためか、三方に別れて同時に襲いかかる。
父は、前方からきたフォレストウルフを剣で切り裂き、後方から来た2匹に手をかざし、
「エアナイフ」
一言呟くと、2匹は見えない刃で切られたように首が引き裂かれた。
その一瞬の出来事に、僕はただ口を開けて見ているだけだった。
父は僕の元へ駆けつけて、怪我がないか真剣な顔で心配してくれた。
僕は初めて憧れを抱いた。
36歳+9歳のオッサンが、異世界のある意味年下の父親に対して憧れを抱いた。
目の前で行われた死合いを見て、今まで父や家族と引いていた一線が取り払われた気がした。
僕は眼を輝かせ、父に言った。
「す、すごい。僕、父さんみたいに強い人になりたい。。」
父は、はにかんだような無邪気な笑顔を見せて、
「久しぶりにエドの子供のような笑顔を見た気がする。」
少し照れながら、僕の頭を優しく撫でた。
フォレストウルフの毛皮を剥ぎ取り、帰りは緊張が解けて、父と森の狩りの体験を語りながら家に帰った。
家族と今日の出来事を目を輝かせて話していると、母はいつも以上に笑顔で僕の話を聞いてくれた。
あと、母はやたらスキンシップを取りたがり、僕に抱きついてくる。
初めて僕の家族が1つになった気がした。
今日は一緒に寝るという母を引き剥がして、僕は部屋に戻った。
異世界に来て、今日ほど愛子の事を思わなかった日はなかった。
僕は産まれる前からの記憶があった事から両親に対して引け目を感じていた。
だから、どうしても他人行儀になってしまっていた。
だけど、こんな僕を父は命がけで守ってくれて、母は愛を与えてくれる。
それを僕はひしひしと感じた。
過去に縛られず、今を生きることも大事なんじゃないかと思い始めている。
今まで愛子の幸せを願うという行為も、ただのルーティンになり始めている気がする。
『色褪せる』
そんな言葉が頭をよぎった。
僕はその感覚が怖くなり、眼を逸らすように眠っていった。
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