第2話 知らない天井だ

身体が動かない。

眩しくて、視界がはっきりしない。

周りから何か喋ってる声が聞こえる。


意識が少しずつ覚醒してきて、視界が徐々に見えてきたときに思ったことは


『知らない天井だ。』


トラックが突っ込んで来て、どうなったのかは解らないが、死んでいてもおかしくないはずと思考していたときに、金髪の美しい女性が嬉しそうにのぞき込んできた。


誰ですか!?って言おうとしたら、


「う、あう~」


口が回らないし、全然喋れなかった。

女性は知らない言葉を喋りながら俺を軽々と持ち上げ、胸元まで持っていき、抱きかかえた。


あれ、もしかして…俺、赤ちゃんになってる!?


女性は、自分の服を捲し上げて、大きく実ったメロンに俺の顔持っていった。


五分ほど経って、女性は俺を元にいた場所に戻し、俺の頭をなでて部屋から出て行った。


現時点で解っているには、自分が赤ちゃんになっていること。


ここが地球なのか、違う星なのかは解らない。

ただ、女性の喋っている言葉は、今までに聞いたことのない言葉だった。


鈴谷健吾だった時の記憶をもったまま生まれ変わってしまったのも気になるが…

そんなこを考えていると、徐々に意識が薄れていった。


そして月日が3年経ち…


「エド、今日は一人でいい子にお留守番してるのよ?」


母親のアイリーンが、僕にそう言ってきた。

今日は父親のオズワルトが2週間ぶりに街から村まで戻ってくる日だった。

母親は畑を耕して作物を作って、父親は森に猟に行き、魔物を倒して、肉や毛皮を売って生計を立てている。


僕の名前はエドワード。両親からエドと呼ばれている。

今日のお母さんはすこぶる機嫌がいい。

朝から、今日の晩ご飯は何しようかな~と鼻歌を歌いながら、朝ご飯を作っている。


僕の家族は村の中でも若い。

母が24歳で、父が27歳だ。

村の人口も100人くらいで、そこまで大きくない村だ。

いつも近所のおじいちゃんやおばあちゃんが僕の面倒を見てくれている。


今日は、畑の収穫もあって大人たちはせわしなく動いていた。

母は朝ご飯を食べて、急いで畑に向かった。

母が家から出たのを確認してから、僕は部屋にある薄汚れた書物に手を伸ばした。


今日も文字の勉強をしようと本を開く。

本はこの世界で貴重らしく、この家になぜ本があるか解っていない。

両親に聞いてもいつも話を逸らされてしまう。


母親にいつも読んでもらっている本を観ていると玄関の扉がバンッと開いた。


「オズ父様、お帰りなさい。」


僕の元に歩いてきた父が、僕を抱きかかえる。

父はがたいがいいので、片腕で抱きかかえ頭をゴシゴシ撫でてくる。


「オズ父様、痛いです。」


やっと解放されると、父はしゃがみ込んで僕と同じ目線で


「留守の間、ママをちゃんと守れたか?」


父は街から帰ってくると、いつも僕にそう言ってくる。

父の教えで、『男なら自分の大切なものは自分で守れ。』と言われていた。

これを言われたとき、胸が少しズキッと痛んだ。


生まれ変わる前、俺は本当に自分の手で愛子を守ろうとできていたのか。

自分のことでいっぱいで相手のことを本当に尊重できていたのか。

最後に愛子の笑顔を曇らせた自分は愛子を大切にできていたといえるのか。

頭の中をグルグルよぎってしまった。


父は優しげな目で僕の頭を優しく撫でた。


「気付いたならそうなれるように努力すればいい。エドは賢いから、俺が言わなくてもちゃんとやれるよ。」


数ヶ月前に父に言われたことが頭に流れた。

僕は父の目をまっすぐに見つめて


「はい。アイリ母様を守れました。」


僕は笑顔でそう答えた。




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