異世界で、君の幸せを願う。

@kagayashinn

第1話 君と別れたその日に……

雨がひどい。


車の窓には、視界を塞ぐほどの雨が降り注ぐ。

あと少しで翌日になる時間に、俺は彼女に別れ話をした時のことを思い出し、顔を歪めてしまう。


鈴谷健吾36歳。

顔は平凡、体型も中肉中背、今まで目立つこともなかった自分だが、2年前に三人目の彼女が出来た。


宮下愛子25歳、同じ会社の事務員で、いつもニコニコしていて笑顔が似合う可愛らしい女性だった。

会社でも人気のある子が何を思って自分に好意をもったのかは知らないが、自分に告白をしてきた。


はじめは、年の差や自分とは釣り合いが取れないと断っていたが、愛子の笑顔やひとなっこい性格に惹かれて付き合うことになった。

付き合うことを了承したとき、彼女が目から涙を溢れさしながら喜んでいたことを今でも覚えている。


一ヶ月前の休日に愛子が用事で会えないとのことで、久々に一人でショッピングモールに行った時に、会社の後輩のイケメンと二人で楽しそうに出かけてるのを目撃してしまった。


その時思ったことは、怒りや嫉妬、悲しみより「やっぱりそうか。」だった。

自分の心の中で、愛子のことが大きくなるにつれて劣等感を抱いていた。

ただ、それでも愛子には幸せになってほしかったから、付き合って2年目になる今日に別れを切り出した。


今日、愛子と会ったときは、眩しいくらいの笑顔だったのに、いつもと違う俺の雰囲気にどんどん笑顔が曇っていった。

別れを切り出したとき、愛子は泣きながらどうしてと何度も尋ねてきた。


「他に好きな人が出来た。」


それを聞いた愛子は絶望した顔でその場から立ち去った。

愛子の立ち去る後ろ姿を見ながら俺は唇を強く噛んだ。


「なんでそんな顔するんだよ。」


車を走らせながら、愛子の悲しい顔がずっとよぎってしまう。

今更別れたことをないことにしようとは思わないが、悲しませたことが頭から離れない。


明日からどんな顔をして職場で会えばいいのか考えていたとき、トラックが目の前まで来ていた。


走馬灯のように愛子と過ごした日々がよぎった。


初めてデートした水族館で、魚を見て喜んだ顔。

花火を見に行ったとき、夜空の光に照らされた綺麗な横顔。

スノーボードで転けたときの恥ずかしそうな顔。

別れを切り出したときの悲しそうな顔


「愛子、幸せになれよ」


そう願った瞬間、意識はなくなった。


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