2-2 永遠の半人前
有翼族(フェザニス)の女性を保護してから六時間が経ち、青々しかった空は橙を経て、紫の空へと変わりつつあった。その後は何事もなく、昼間と同様に平穏な時間だけが過ぎていき、本日の野営予定地である“街道の一本ケヤキ”までたどり着いた。
このケヤキを含めた野営地は、街道を利用する旅人や行商の多くが利用する、公衆の休息地として認知されている。しかし、今夜の利用者は自分たちだけであり、夜の帳が降りつつある中、周囲は虫の声と草が風に揺れる音のみであり、少々不気味さを出している。
そんな中、トールは商人のタブリスとともに馬を一本ケヤキにつなぐ準備。ルカは保護した有翼族の女性に再度治癒魔法をかけ、ダインは女性を下す準備として一人分の小さな絨毯を地面に広げている。そして自分は、以前に利用された焚き木の跡に新しい薪を並べている。
「最近は治安の悪化が激しいために、私たちみたいに馬車一台での行商は減りました。加えて、海竜騒動で貿易もままならない状態でして、そもそもの行商自体が少なくなりつつあります」
一本ケヤキに繋いだ馬を撫でながら、商人のタブリスは物悲しそうにつぶやいた。動物の突然変異体である魔物(モンスター)が増加傾向にあるといわれており、それに合わせるように野盗も増えてきている。
野盗が増える理由は、自分たちの強奪に対する証拠隠しとして、傷跡を魔物に襲われた風に見せかけることができるためである。また、死体となった被害者の血肉を、腹をすかせた魔物たちが食することで、双方に利点が発生する嫌な共存関係が生まれているとのこと。
自分たちの今の状態である馬車一台に対し複数名の護衛は理想的であり、護衛を雇う費用も工面できない小規模の行商は、商人組合を通じて商隊として団体化し、費用を出し合って護衛の雇い入れを行う。商隊としての規模が大きくなると、出発の時機を見計らわないといけないために、自然と街道を使う商人の数も減っていく。
そこへ海竜騒動によって、国外製品の仕入れ自体がままならない状態であり、運ぶ商品自体が無ければ行商が動かないのも、また自然な話である。
その点でいえば、このタブリスという商人は今の時代では珍しい分類である。定期船の話があれば、即座にポートアレアに駆け付け、商品を仕入れては、首都サイペリスに帰る先々で積み荷を売りさばいている。海竜騒動によって国外製品の希少性が上がってきている今だからこそ、多少の危険を払っても、高価となりつつある商品を売ることに意義を感じているということだ。
「という割には、危険そうな感じは全くなかったけど」
「そりゃ、お天道様の時間だからね。人もモンスターも、本番は身を潜めれるこれからさ」
昼間の安穏とした雰囲気を基に話してしまったが、故郷には夜に移り行く夕暮れ時を魔が逢いに来る時間として『逢魔時(おうまがどき)』と表現するように、これからどんどん危険な時間帯になっていくのだ。特にこの場所は衛士もいなければ、自分たち以外の人気(ひとけ)はないために、闇に潜む危険に注意しなければならない。それは少し考えてみれば分かりそうなものを、完全に失念していた。
「た、確かに……ごめん」
「いいって、いいって。だからこそ、少しでも夜闇を遠ざけるために、人は火を焚く。というわけで、カキョウちゃん、ちゃちゃっと火をつけちゃって」
トールの言葉は遠回りのようで、実際は直接的に説明を混ぜてくれる。焚き木が単純に照明というだけでなく、明かりを嫌う魔物を遠ざけたり、夜闇という奇襲の機会を減らすためにつける大事なものだと。
「いいけど、燐寸……じゃなくて、マッチ棒とかない?」
そう、ここには薪しか置かれていないので、火種となるものが必要なのだが、トールは指示を出すだけで、道具を渡そうとする気配はない。
「ん? カキョウちゃんはホーンドだから、炎魔法でいいじゃないかい?」
トールはこちらの反応に対して、不思議そうなキョトンという眼差しで見つめてくる。
自分の種族である有角族(ホーンド)が住んでいるコウエン国は、火山によって高濃度の炎のマナが常に絶え間なく溢れ、土地や作物を通して体内に取り込まれるために、国民のほぼ全員が炎魔法を得意としている。それは他国でも認知されている常識となっているようであり、トールの言葉も当然なものなのだ。
「あー……そうだよね。普通そうだよね……。その、ゴメン、アタシって……魔法が一切使えないんだ」
「……は?」
この反応もまた至極当然といえる。
このエリルと呼ばれる世界には、自然が生み出す『マナ』と呼ばれる燃料に近い力と、生物の生命力が発露した力である『魔力』が存在している。この二つの力が反応し、自然現象を再現した反応のことを『魔法』と呼ぶ。そして、魔法をより正確にまたは効率的に運用するための技術や学問を『魔術』と呼んだ。
魔力はこの世界に生まれた全ての生き物が持ち合わせ、質や量の大小は個人差があれど、誰もがその力を“念じる”だけで、魔法的な反応を起こすことができる。
これがこの世界の常識であり、摂理である。
ところが、自分はその摂理から若干外れた存在なのだ。魔力自体は僅かながら体内に存在しているが、それを体外に放出できるほどの量ではなく、また少量すぎてマナのほうも反応してくれない。自分はどんなに炎を発生させる想像を膨らませ、発火しろと念じたところで、小指の先ほどの小さな火すら灯すことができない。
つまり、炎の民を語る有角族(ホーンド)としては出来損ないであり、欠陥品なのだ。
「ああああああああああああああああ……なるほど、そっかー、そかそかそっかぁ……全部つながった」
トールは右手で目を覆いながら天を見上げて叫んだかと思えば、次にカックンと項垂れ(うなだれ)、唸るように呟いている。
「どうした!?」
視界の隅で絨毯を広げ終わったダインが、背負った大剣に手を伸ばしつつ、焦った表情で立ち上がる。
「な、何かありましたか?」
馬車の後ろで保護した女性を再度治癒していたルカが、杖を構えながら、怯えるようにゆっくりと顔を出す。
「おーよしよしよし」
商人のタブリスは、トールの叫び声に驚き、気が高ぶりだした馬を必死になだめていた。
「あ、えっと、大丈夫! 敵襲とかじゃないよ!!」
「……だが、トールはどうしたんだ?」
慌てて訂正するも、「俺としたことが……」「となると……」とブツクサと口元を隠しつつも呟くトールの姿に、ダインが困惑した視線を向けている。警戒は解いたものの、こちらの変な様子にルカも治癒の手を完全に止めて、近づいてきた。商人のタブリスも馬をなだめ終わったようで、トールの雰囲気に頭をかしげている。
「あー……わりぃわりぃ。…………なぁ、カキョウちゃん。今のこと、皆に話しちゃっていいかい?」
全員の視線に気づいたトールは、ようやく顔を上げた。ただ、その表情はまだ暗く、深くも短い沈黙の後に、こちらへと一つの許可を求めてきた。
今のこと、つまり自分が魔法を使えないということは、元来の元来の有角族(ホーンド)としての戦い方である、炎魔法を駆使した戦闘を行うことができず、戦術において種族的な期待値すら見込めないことを指す。加えて、魔力補強を“行えない”ということは、傷を負った際の体への負担が直接発生し、戦闘そのものの持久力も常人のものより遥かに落ちる。
彼の深い沈黙や叫びが物語るように、彼の抱いていた期待を裏切ってしまった形だ。今なら、戦闘力がどこまであるのか分からないが、治癒の力という尖った能力を持つルカのほうが戦力として期待できる。
この事柄については、単純に場の空気に対する説明というよりは、全員の情報共有としての意味合いを指しているのがはっきりと分かる。本来なら自分の口から、いずれどこかで言わないといけないぐらい、重要の話である。それが遅かれ早かれというならば、最も早い段階で告知できたことは、良いことなのだろう。
「いいよ。でもその前に、火……つけよう」
「あ、ああ、そうだね」
まるで虚を突かれたように、トールは慌てて自身のリュックサックと呼ばれる大きな背負い鞄を漁り、手のひらに収まるほど小さい銀色に輝く小箱を取り出した。小箱は片開式のマッチ箱であり、蓋の内側にマッチ棒を収納し、箱側に摩擦板が張り付けてあった。
手早くマッチ棒に着火し、焚き木の中へ投入する様子を横目で見れば、トールの表情は沈んだように険しく、視線が合えば苦笑い。そんな彼の一つ一つの反応が、腫物か割れ物を扱うように、優しくもよそよそしくなっていくの肌で感じた。
橙と紫に藍色を加えた三色が混ざり合う逢魔時を、切り裂くように照らしだす灯り。そんな安心の灯火(ともしび)を囲むように皆が座ると、意を決して自分の体質について語り始めた。
自分の記憶が正しければ、すでに幼少のころから魔力は味噌っかす程度しかなく、魔法が一切使えない子供だった。いくら念じても、火を出すことができない、蝋燭も灯せないと無い無いづくしだった。
「原因は、この……角が小さいからなんだ」
有角族にとって角とは、種族的もしくは人格的な象徴以外にも本人の魔力貯蔵量や放出効率の良し悪しを示すものであり、成長とともに大きく育っていく。その大きさは個人差があれど、十五歳ぐらいなら長さにして約三十cmぐらいになる。自分の角は、その三分の一にあたる十cmほどしかない。完全なる発育不良状態であり、それが原因による魔力の生成、貯蔵、放出といった全ての機能障害を持っていると、父親から告げられている。水に例えれば、岩場から滴る程度の水量、貯水槽は極めて小さく、蛇口も極細。そして水の受け止める桶すらない状態である。
「そういうわけで、アタシって魔法に関してはいろいろと人生終了してしまってるの。その、ごめんね? みんなを騙すつもりとかはなかったんだけど、言い出す機会が分からなくて……」
本気で騙すつもりはなかったために、今こうして皆に打ち明ける機会をもらえたのはありがたかった。
しかし、この事実は……できれば、もう少し時間を経て、互いを知り、親交を踏めてから打ち明けたかった。まだ知り合って間もない皆に、役立たず、能無し、欠陥品、お荷物と思われたくないし、失望もされたくない。時が経ってからでは、騙した感覚は強くなったかもしれないが、その分の自分の技量を理解し、信頼を得た上で知ってもらうことができるだろうと思っていた。
「カキョウちゃんが謝る必要はないって。そういう体質って、たまに聞くからさ」
トールは打って変わり、出会った時と同じ笑顔ではあるのだが、先ほどまでのよそよそしさが脳裏から離れない。
(どこまで失望されたか、どこで見限られるか……)
こんな経験は故郷でも数えきれないほどあった。種族的常人もしくは周囲の環境から逸脱したものは、国や年代を問わず排除する傾向にあるだろう。角がまだ小さく、躾のために魔法を使うことが制限される幼少期と違い、成長期に入れば否応なしに自分の欠陥が露呈することとなり、明らかに周囲の反応が排他的になっていく。浴びせられる罵りを恥じてか、父親による剣術の修業は年を追うごとに厳しさを増していった。
だからこそ、自分もまた魔力を必要としない戦闘技術を身に着け、こうして実践できる環境を与えられたにもかかわらず、正式に披露する場面もないまま、再び無能の烙印を押されてしまう。
「そうか……だから戦闘中は補強せずに……。いや、できなかったのか」
ダインの表情は事実を知ってしまったために、困惑と悲痛というような眉の寄せ方をし、口元を手で押さえていた。やはり、彼の何かしらの目算も誤る結果となったのだろうか。
「ほんと、ごめん……ダインには最初に言うべきだったよね……」
とくに彼は、自分の腕に興味を惹かれ、未来を買ってくれたのだから、戦闘に関わる重要事項として説明するべきだっただろう。
(……怖い)
今までは自分の欠陥を周りが既に知っていたために、あらゆる罵詈雑言も予想できていた。
だが、今は状況が逆なのだ。周りは自分のことを知らない。一種の恥部を知られてしまうことが、こんなにも恐ろしいこととは思いもよらなかった。体の芯が冷えてくる。唇が渇く。心臓の音がうるさい。
「いや、俺は純粋にカキョウの剣の腕について興味を持ったし、実際に戦い方を見ている。今の姿が俺にとってのカキョウでしかない。だから、気にするな」
こちらの言葉に驚いたように眼を見開くと、ダインは口元から手を離し、微笑とも真顔とも取れる、ほんのりと柔らかい顔を向けてきた。
「……ありがとう」
ダインという存在は、自分にとってどこまでも救いの神となっていく。彼に命を救われただけでなく、人としても救われ、もはや足を向けて寝ることはできない。体の芯の冷えも明らかに和らいでいく。
「か、カキョウちゃん……!」
掛けられた声に振り向けば、隣に座っていたルカの顔が眼前へと迫っており、口づけを交わすまであと十cmぐらいと、あまりの近さに驚いてしまった。
「ど、どど、どうしたの?!」
「魔力があるとか、ないとか……関係ない、です。カキョウちゃんは、すごく強いです! 握りつぶされても、投げ捨てられても、傷が治ったら、巨人さんに立ち向かいました。柱のような太い足、切り落としちゃいました。それって、すごいことじゃないんですか?」
差し迫るルカの紫水晶を思わせる大きな瞳が、灯火の炎とは別に揺らめく。唇をかみしめ、言葉のはしばしが引きつっていた。
自分からすれば前に立てなくとも、治癒魔法という生命と戦局を左右する絶対的な能力を持っていることのほうが、何倍にもすごいことだと思っている。
そんな“持つ者”である彼女に、なぜこんな顔をさせてしまっているのだろうか? “持たざる者”の自分に、“持つ者”が持つ価値観の中での力の意味や凄さを問われたところで、答えは持ち合わせていない。何もかもが、分からない。
「ルカ……、ありがとね。でも、アタシ」
「めっちゃくちゃすごいことだ」
「……トール?」
遮ってきた言葉はとても力強く、ほんのりと怒気を含み、まるで声を言葉を聞けと言わんばかりに、視線を奪いに来る。
「初めての対人戦だったのに、ためらうことも恐れることもなく立ち向かい、自分の力量を理解したうえで、その場での最大限の力を発揮し、最高の成果を叩き出す。俺は……いや、俺たちはとんでもない高価な宝石を拾ったみたいだな。そうだろ? ダイン」
遮った言葉を含めて、トールから発せられる全てが、先ほどのよそよそしさを吹き飛ばさんばかりに、ギラリと光る瞳と笑みで嬉々とこちらを肯定してくる。
「そうだな」
同意を求められたダインは、どことなく鼻を高くし、嬉しそうな雰囲気を出している。
「それにジョージのことだから、カキョウちゃんの体質は見抜いているはずだ。そのうえで、君の実力や人柄を採ったんだから、ネストの傭兵ってことで胸張っていいところなんだぜ? なぁ? おっちゃん」
採用試験を受ける際も、ジョージことマーセナリーズ・ネストのポートアレア支部長が“登録傭兵は能力と信用を売りにした商品”と豪語するぐらい、実力や人格をしっかりと見た上で、合否を与えると言われていたのは覚えている。自分が何で最終的に合格できたのかと考えれば、一つは純粋に剣の腕。もう一つは、単純に戦闘職をこなせる女性が少ないために、条件が緩まっていたのかと考えていた。
「そうですな。私もネストを頻繁に利用させてもらっておりますのでよく知ってますが、ネストは他の同業に比べれば、雇用については厳しめに審査しておりますな。それに、ジョージさんなら『こりゃ、面白い体質だな』とか言いながら、多くのことを加味したうえで、種族を抜きに、貴女を確保されたんだと思いますよ」
同意を求められた商人のタブリスも、トールと全くの同意見であり、マーセナリーズ・ネストという組織の厳正なる評価をもって、自分の体質を含めた人格を……この場合は、実力も含めた“一個人”として認めていると言っている。
(そっか……。アタシ、一応評価はされてるんだ)
こうも全員から畳みかけるように言われると、むず痒い嬉しさがこみ上げてくる。 故郷でなら未来を含めた“いつまでも”半人前、欠損、欠陥と罵られ続けるだろう。それが外に出てみたら、こうも評価が変わるものなのだろうか。
自分は、生まれてくる場所を間違えていたのではないかとさえ思ってしまう。
「み、みんな! その…………ありがとう。その、足引っ張らないよう、無いなりに頑張るから!」
たった一回の戦闘。されど、全員が同じ戦場に立ち、同じ恐怖と、死を意識した、重要な戦いだった。故に今、この場にある評価とつながり、あの戦いを勝ち抜いたという小さな絆が生まれたと感じた。
「出会った時から、何も心配していない」
ダインという男は、どうしてそうも恥ずかしげもなく、まっすぐな瞳でそんなド直球な言葉をくれるのだろうか。これでは、こちらの頬が炎の熱とは別に、温かくなってしまう。
「言っとくけど、お兄さん的には、すでにものすごく助かってるんだぞ? これからもよろしくな」
灯火を挟んだ反対側に座っているために、握手の代わりにと手を振ってくれたトールの顔に、先ほどのよそよそしさは完全に消え去っている。自然と上がった口角からも、彼の気持ちは本物だと、察しの悪い自分でもよく伝わってきた。
何が助かっているのかは、やはりルカを護衛するにあたっての同性としての存在だろう。その他の面でも、力になれるようになりたい。
「わ、私も、皆さんの役に立てるよう、か、カキョウちゃんと一緒に、がんばります!」
癒しの力というだけでも、既に十分役に立っていると思うが、後衛として守られることに抵抗があるのだろうか? いずれにしても、共に何かを目指そうという気持ちはとても有難く、この旅路は確実に面白いものへなると思った。
「みんな……ほんと、ありがとう」
出会ったばかりだというのに、芽生えた小さな絆にこんなにも心が救われることになるとは、夢にも思わなかった。願わくは、この絆が壊れることなく旅路を無事に終えれることを。
「……そういえば、タブリスさん。さっき、種族を抜きにって言ってたけど、どういうことなの?」
話も一段落というところで、商人のタブリスが発した言葉の中にあった、一つの単語が気になった。
何気ない一言であったのだろうが、その言葉には妙に吸い込まれると同時に、“ここで聞いておかなければならない”という、不思議な焦りを呼び起こす。
「そりゃぁ、カキョウさんがホーンドでらっしゃるのに“東側”へ……その様子ですと、まだお話していないようですね」
確実に意味がある様子の言葉を発しながら、商人のタブリスはトールに睨むに近いじっとりとした視線を送った。
「そうだな。まだ言ってないね」
「貴方もお人が悪いですな」
「ひどい言い方だなぁ……。カキョウちゃんと同じく、時期が来たら言うつもりだった話ってだけ」
トールの様子はとぼけているとも違う、少し神妙を孕んだ重みのある笑みでタブリスに返した。
彼らのやり取りからも、自分の種族に関する何かについて、極めて重要な話がある事はわかる。
「それって……」
「そういうわけで、実はお互い様な部分があるわけよ。これについては、ごはん中にでも話そう。この先、確実に“東側”へ行くことになるからな」
「分かった。ごはんかぁ……そういや、お腹すいたね」
二人の口から出てきた東側というカギとなる言葉と、重苦しい様子に興味はそそられるが、腹の虫はごはんという言葉に反応し、限界だと声を上げる。それは皆同じであり、各々が腹をさすりだした。
「そうですな。では、カキョウさんとルカさんは、私と食事の準備をしましょう。トール坊ちゃんとダインさんは女性を下ろしてきてください」
タブリスの提案に全員が賛成と唱えると、それぞれの指示に従い、テキパキと動き出した。
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