第二章 のんびりとしたスローライフとかそんな夢みたいな話はねーよ。多忙過ぎるわ!
2-1 なんで泣きそうなのお前
あの襲撃から1週間。
襲い掛かってきた悪党どもの死体はまとめて焼却処分し、
その身ぐるみや武器、それから奴らの使っていた乗り物なんかは全部回収した。
おかげでバギー1つしかなかったこの集落に、
かなりの数の車両が確保できたんだよな。
「おんぼろとはいえバイクが16台。
それからワゴン車が1台か」
戦闘の最中で何台かはぶっ壊れちまったけど、
壊れたバイクだって修理すれば使用できるものもある。
ただひとつ気になった。
「なぁ、燃料ってどうしてるんだ?」
「あぁ、ガソリンのことか」
この世界の車両もガソリン使ってるんだな。
なら燃料どうすんだろ。こんだけあってもすぐガス欠になりそうなもんだが。
「それならそこでいくらでも補充できるぞ」
「へっ?」
指さした場所はバイクやバギーなどを置いている場所。
そこに1つの機械が設置されている。
あれってガソリンスタンドでよく見かける補給のアレだよな。
いやいや。でも延々と補充できるわけじゃないだろ?
「そのうち尽きるんじゃないの?あれ」
「尽きないぞ?」
「へ?」
「尽きない」
どういう理屈なのかは知らないんだけど、
この世界、そこかしこで原油が掘り出せるらしい。いくらでも。
まぁ当然そのままでは使用できないんだが、
そこでこの機械の出番というわけだ。
この機械は設置した場所で原油を集め、分離させ、不要なものを原油側に戻し、
ガソリンだけ取り出して補給できるようになるという。
戻した分はどこにいくのかよくわかんねーけど、なんか原油にもどるらしい。なにそれ異世界便利。
まぁそれもこの世界の不思議ってことで受け入れることにした。
ギフトなんつーよくわかんねーもんがあるくらいだし。
まぁようするに、燃料は無制限に使用できると。
「そうだ坊主、お前にも好きな車両1個やるぞ」
「えっ!!!」
まさかのプレゼント宣言に驚きが隠せない。
っていうかありがたすぎる。いいの?遠慮なく貰っちゃうよ俺。
現在眼下にあるのはさっきも言った通り、16台のバイク。
あとサニーカイザーが乗り回してた・・・っていうよりふんぞり返っていたワゴン車。
正直に言うぞ?ワゴン欲しい。超ワゴン欲しい。
けどな?
もらってどーすんだって話だよ。
俺、独り身。
ついでにいえば 友達/Zero 。
あ、なんか泣きたくなってきた。
「バイク・・・バイクで・・・い、いいですううう・・・」
「なんで泣きそうなのお前」
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サイドカー付きで、
16台の中では1番しっかりしていたと思われるバイクを貰った。
だけどな。
すっかり忘れてたけどな。
俺、無免なんよ。
運転とかしたことないの。
そんなやつがこんな道らしい道すらない荒野走らせてみ?
速攻すっ転ぶぞ?
しかも二輪。
無免の中高生がヒャッハーっつって乗り回して事故りました案件だらけの二輪よ?
いや流石にそれは俺の勝手なイメージなんだが。
なもんで。
「ジュリアさん・・・助けて・・・」
「あぁん少年ぇん!その言葉待ってたわよぉ~!」
すんごく小声で言ったのに地獄耳かこの人。
すさまじい勢いでこっちに駆け込んできて俺を抱きかかえたよ。
軽々と!
流石ハンターだよね!
畜生そんな細腕にどんだけのパワー有り余らせてんだよ!
少し分けろ!
胸の感触気持ちいいです本当にありがとうございます!!
「朝っぱらからなにしてんだいこの破廉恥娘」
「あん」
べりっと引きはがすように俺を背中から抱え込んできたのはアリサさん。
うん、とっても筋肉質。
「今なにか失礼な事考えたかい坊や」
「めっそーもない」
「アリサ姐ばっかりずーるーいー!」
「煩いね。残党狩りはどうだい?」
「アジト聞き出して解放したわよぉ。
かなりの奴隷予備軍が居たけど、全員解放してギルドに任せたし」
「そうかい・・・。
アジトまで潰せたなら、しばらくは大丈夫そうだね」
「多分ねぇ。
だからもうハヤテとロックは帰っちゃったわよぉ?」
「みたいだね。
まぁ、いつまでもここに居たって次の仕事が見つからないだろうからね」
あれから1週間・・・はもう言ったか。
その間にアリサさんたちはサニーカイザーの本拠を潰し、
ヒャッハー・・・もとい、太陽党どもをけちらしまくっていた。
本当はここを守るだけでそこまでする必要はないんだけど、
アフターサービスと、奴らの蓄えていたであろうものを頂くためだ、なんて言ってた。
実際悪党どもの蓄えは、それを見つけて確保した人のモノになる。
これはハンターでもそうでなくても関係ない。
まぁ、そういう決まりごとがあるわけではないんだけど、
そういう暗黙の了解というか、そういう暗黙ルールになってるらしい。
で、ある程度片づけたところでハヤテさんとロックさんは帰還。
アリサさんは集落防衛直後に真っ先に1度帰還してサニーカイザーを換金。
戻ってきて4人で分配したらしい。
「それで少年、なにを助けてほしいのかしらぁ?」
「あー・・・っと、バイクの操縦方法」
「ん?バイク手に入れたのかい?」
「あぁうん、欲しいなら1個やるって」
と指差すとここまで押してきたサイドカー付きのバイク。
「あらぁ・・・いかついわね」
「坊やが乗るにはちょっと派手すぎやしないかい?」
「俺もそう思う」
元々ヒャッハーどもが乗ってたバイクだ。
ところどころにとげとげとか赤いペンキとかどくろマークとか太陽の証とかがペイントされてたり装飾されてたりで、とにかくひどい。
当然そういうのはひっぺがしたり塗りなおしたりするつもりだけど。
「でもそっかぁ。少年もこれでハンターになれちゃうわねぇ」
「えっ?」
え。ハンターってそんな簡単になれるもんなの?
「適当言うんじゃないよ。
坊やには早すぎるだろうが」
「えぇー。
だって少年ってばギフトも持ってるでしょぉ?
それで車両まで持っていたら、ほらハンター条件満たしちゃってるじゃなーい?」
「・・・まぁ確かに」
えっ。
ハンターの資格ってそんなゆるいもんなの?
・・・いやギフトを持ってるという時点で希少なんだろうけど。
「なれんの?そんな簡単に」
「本来はかなり厳しい査定はあるよ。
実力的な意味でも、これまで過ごしていた人となりとしての意味もね」
人となりも審査の条件なのか。
てっきり誰でもなろうと思えばなれるもんだと思ってたけど。
「ハンターってのはさまざまな事が許されるし、かなりの好条件での取引もできる。
いわゆる優遇されるってやつだね。
だからこそ、誰でもはなれない。
腕自慢なだけの人格破綻者なんかは絶対なれないし、
他者を蹴落とすような馬鹿もお払い箱だ」
へぇ・・・。
普通ハンター・・・冒険者みたいなのは誰でもなれて、
だいたいがヒャッハーほどでないにしても問題を起こすような奴をイメージしてたんだが・・・。
「坊や?失礼なこと考えてないかい?」
「あぁ・・・うん、俺のイメージとだいぶ違うなって思って」
「なんだい、坊やのイメージしたハンターっていうのは」
「えぇと・・・
これはあくまで俺の世界での話だからな?」
というわけで、
俺の世界にあった異世界モノの話にある冒険者てきなものの話をした。
ハンターと内容的には大差ないよな。たぶん。
ちなみにアリサさんとジュリアさんには俺が転生者であることは話してある。
「はー。随分とまぁ」
「あらぁん。私も少年にそういう女って思われてたのかしらぁ」
「・・・あんたの場合はある意味間違えちゃいないか」
「ちょっとアリサ姐!どういう意味よぉ!」
「まぁ、そんな殺伐としたモンじゃないのは確かだね。
基本的にさまざまな事が許されるけど、
同時に処罰対象になるような、人道無視的な行為は即座に賞金首扱いさ」
うへ、厳しいな。
けどそれだけ厳しくしているからこそ、
ハンターってのはこんなに頼られるものなのかもしれないな。
しかも腕っぷしも保障される。
「で、話を戻すけど。
坊やは確かにハンターになれる資格はある、というか出来ちまった」
「ギフトと乗り物、かな」
「そう。
元々乗り物は絶対条件みたいな所があるんだ」
「へ、そうなの?」
「乗り物が無きゃどうやって依頼を受けた後に依頼地まで行くのさ」
「あっ」
そういやそうだ。
ハンターズギルドは大きな集落というか街にしかないらしい。
当然そこで依頼を受けたハンターは、現地へ直行することになる。
そのときに絶対に必要になるよな。
「けど俺のギフトってどう考えても戦闘向けじゃないよな?」
あのサニーカイザーはなんか腕を超強化する系のギフト。
ジュリアさんは車両関係らしい。
アリサさんも戦闘関係のギフトらしいけど、二人とも詳細は教えてくれなかった。
というか普通は隠すものらしい。
奥の手として万一の場合に使用するのが基本だとか。
ま、確かに相手がどういうギフト持ってるのか知らなければ、
たとえそれが戦闘系じゃなかったとしても分からなければ警戒するしな。
「使いようさ。
たとえば地面を壁に変えただろう?」
「あぁ、うん」
「それをいつでも発動できるとしたら、守りとしては十分過ぎるだろ?」
「あー」
常時防壁発動できるギフトとか厄介極まりないな、確かに。
まぁ地面が土とかであることが大前提だけど。
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